1型糖尿病の根治療法「バイオ人工膵島移植」も視野に 日本で「動物性集合胚」研究の規制が大幅に緩和 京都大学iPS細胞研究所など

 動物の体内でヒトの臓器を作る研究が2019年3月に解禁された。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、「動物性集合胚」研究の今後の議論の方向性を示した。
 また東京大学などは、ブタ体内でヒトの膵臓を作製する研究を今年度にもはじめる方針を打ち出した。
動物の胚にヒトの細胞(iPS細胞やES細胞など)を注入
 日本で2019年3月に「特定胚の取扱いに関する指針」が改正され、「動物性集合胚」研究の規制が大幅に緩和された。その結果、ヒトの臓器をもつ動物の産出が認められることになった。

 多細胞生物の個体発生過程において、受精卵が分裂を開始してある程度経った段階までの、ごく初期の段階にあるものが胚。このうち「動物性集合胚」は、とくに動物の胚にヒトの細胞(iPS細胞やES細胞など)を注入したものを呼んでいる。

 「胚盤胞補完法」は、遺伝子操作技術を用いて、特定の臓器を欠損する胚(胚盤胞)を作製し、iPS細胞など多能性幹細胞を注入することで欠損臓器を補完する技術。2010年以降、この技術を用いて多能性幹細胞由来の臓器を作製する研究が進展しており、その臓器を用いた疾患メカニズム研究、創薬、さらに移植医療への期待が高まっている。

 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、今回の指針改正を受け、「動物性集合胚」研究に関する規制の国際比較を行うとともに、規制緩和に至る経緯と要点、さらに今後の議論の方向性を示した。この研究は、澤井努助教、藤田みさお教授(京都大学CiRA上廣倫理研究部門)らによるもので、詳細は米科学誌「Cell Stem Cell」に掲載された。

 「動物性集合胚」研究の規制整備は各国で進められている。英国では2011年に科学アカデミーがヒトと動物の細胞が混ざる研究に関して勧告を出し、2016年に内務省がその勧告に従って指針を定めた。

 また、米国では2015年に国立衛生研究所(NIH)が、動物の胚にヒトの多能性細胞を導入する研究への連邦助成金の支出を一時停止すると発表し、この研究の在り方について検討を行った。その後、2016年には研究を進める方向で指針改正案をまとめたが、現在に至るまで指針改正は行われていない。
臓器移植は検討の対象外 一般市民も交えた社会的な議論が必要
 こうした状況の中、日本ではこれまで、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(2000年)の下で制定された「特定胚の取扱いに関する指針」(2001年;2009年改正)に基づき、ヒトに移植可能な臓器の作製を目的とした基礎研究に限定して、「動物性集合胚」の作製、および作製後14日間または原始線条の発現までの培養を認めてきた。

 しかし、2012年に開始した指針改正に向けた議論の末、研究目的を臓器移植だけでなく、疾患メカニズム研究や創薬なども含めるかたちで、動物個体の産出が容認されることとなった。ただし今回の指針改正では、臓器移植は検討の対象となっていない。

 今回の規制改正に先立ち日本では、「動物性集合胚」研究においてヒトのような容姿や脳機能をもつ動物個体、またヒトの精子・卵子をもつ動物の交配による動物個体が誕生することを懸念し、そうした動物が誕生する可能性に関する科学的な検討を行った。

 その結果、懸念されるような動物が誕生する可能性は極めて低いと結論し、その上で慎重を期して、研究者に研究計画の段階で懸念を回避するための措置を講じるよう求め、倫理審査委員会や国でもそうした措置を確認することとした。また、ヒトの精子・卵子をもつ動物の交配や動物体内で作製された精子・卵子の受精については禁止している。

 近年、ヒトの細胞から成る脳やヒトの精子・卵子を動物体内で作製することの科学的必要性が指摘されている。今回の指針改正では、必ずしもヒトの細胞から成る脳やヒトの精子・卵子を持つ動物個体の産出が禁止されておらず、今後、科学的な合理性や必要性があり、上述の懸念を回避できる場合には、そうした研究が容認される可能性もある。

 しかし、藤田教授らが2016年に実施した一般市民を対象にした意識調査では、6割以上の回答者が「動物性集合胚」を用いた動物個体の産出を支持した一方で、動物の脳や精子・卵子にヒトの細胞が含まれることへの懸念が大きいことも明らかになっている。

 このことから研究チームは、「今後、ヒトの細胞から成る脳やヒトの精子・卵子をもつ動物個体を産出する研究を進める場合には、一般市民も交えた社会的な議論が必要になると言える。また今回の指針改正では、臓器移植は検討の対象外だが、今後の研究の進捗に応じて、臓器移植にともなう安全性リスクの評価や倫理的課題の検討も求められる」と指摘している。
ブタ体内でヒトの膵臓を作製 1型糖尿病の革新的な治療法になる可能性

 東京大学の中内啓光特任教授や明治大学の長嶋比呂志教授らの研究チームは、ヒトの膵臓をブタの体内で育てる研究を2019年度にもはじめる方針を固めた。将来は再生した膵臓を糖尿病患者に移植して治療につなげる狙いがある。

 脳死からの臓器提供が不足するなか、「動物性集合胚」を用いて動物の体内で作製したヒトの臓器を移植する新たな治療法に期待が寄せられている。

 研究では、ヒトのiPS細胞を活用し、膵臓を作る能力が失われたブタの受精卵に注入して、ヒトと動物の細胞が混じった受精卵を作り、ブタの子宮に入れる。胎児まで育てればヒトの膵臓をもつブタができると考えられている。

 中内特任教授は米スタンフォード大教授を兼任し、これまでラットの体内でマウスの膵臓を作り糖尿病マウスに移植する治療に成功している。脳死による臓器移植のような拒絶反応が起こりにくい治療が可能になるという。膵臓のほか肝臓や腎臓の作製も検討している。

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
Japan significantly relaxes its human-animal chimeric embryo research regulations(Cell Stem Cell 2019年4月4日)
「特定胚の取扱いに関する指針」等の全部改正について(文部科学書 2019年3月1日)
ライフサイエンスの広場 生命倫理・安全に対する取組(文部科学省)
[Terahata]

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