痩せていても糖尿病 痩せ型インスリン抵抗性の機序を解明 糖取り込み低下に関わるアンジオテンシン受容体をATRAPで抑制

 肥満を伴わないメタボリックシンドロームや2型糖尿病などの病態でも、アンジオテンシンII作用の亢進がインスリン抵抗性を引き起こしており、これには骨格筋での糖取り込みに関わる機能の変化が重要であることが、横浜市立大学の研究で明らかになった。
 ATRAP発現を増加させることで、アンジオテンシン受容体の過剰な活性化を抑えられ、痩せ型インスリン抵抗性を改善できるという。
アンジオテンシン受容体の過剰活性がインスリン抵抗性の原因
 研究は、横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学の大城光二氏、田村功一主任教授、涌井広道氏、小豆島謙護氏、医学部医学科の岸尾望氏らによるもので、科学誌「Scientific Reports」に2月12日付けで掲載された。

 肥満やメタボリックシンドロームでは、全身のインスリン抵抗性が引き起こされ、2型糖尿病へと進展し、全身の動脈硬化により心筋梗塞や脳卒中など生命を脅かす疾患に至る危険性が高まる。

 2型糖尿病、内蔵脂肪型肥満、高血圧、慢性腎臓病、脂質異常症などは、遺伝的要因と後天的要因とが複雑に相互に作用し合って発症し、症状があまり顕在化しないまま増悪して動脈硬化が進行することで、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全、閉塞性動脈硬化症などの重篤な合併症を引き起こす。

 「レニン-アンジオテンシン系」(RAS)は、生体の機能維持に重要な循環調節系で、生理活性物質「アンジオテンシンII」(Ang II)の受容体である「AT1受容体」の生理的な活性化を通じて、交感神経系などとともに、生体の血圧循環調節や腎機能制御を行っている。

 しかし、カロリー過剰摂取や種々のストレスなどの病的な慢性刺激により、組織局所でのRASのAT1受容体系の過剰活性化が生じることがあり、これが原因となり酸化ストレス増加や炎症反応が持続して引き起こされ、動脈硬化を合併した糖尿病などの発症・進展に深く関わっていると考えられる。
痩せ型インスリン抵抗性の原因は?
 研究グループはこれまでの研究で、AT1受容体への直接結合性機能制御因子として、ATRAP/Agtrapの単離・同定に成功した。「ATRAP」(AT1受容体結合性低分子タンパク)は、正常状態では脂肪組織に多く存在しているが、生活習慣病のマウスやヒトの脂肪組織では、発現量が減少していることを確かめている。

 研究グループはこれまでに、ATRAPを高発現している脂肪組織を用いてATRAP欠損マウスの皮下に脂肪組織の移植治療を行うと、高カロリー摂取でおきる脂肪細胞の肥大化・炎症およびアンジオテンシン受容体の過剰な亢進状態が是正され、食事性肥満にともなう脂肪組織の炎症やアディポカイン障害を改善し、メタボリックシンドロームを抑制できることを明らかにしている。

 しかし、実際には、肥満をともなわないインスリン抵抗性(痩せ型インスリン抵抗性)の患者も存在し、痩せ型インスリン抵抗性の発症・進展におけるAT1受容体およびATRAPの関わりは不明の点があった。
ATRAPを増やしインスリン抵抗性を抑制
 そこで研究グループは今回の研究で、野生型マウスに低用量のAngIIを慢性的に投与し、体重、脂肪重量や血圧に明らかな変化を及ぼさずにインスリン抵抗性が生じることを確かめた。

 そこで血液中の糖取り込みに重要な役割を果たす骨格筋を調べてみると、AngII投与によって、AT1受容体の下流経路のひとつである「p38MAPK」が活性化し、酸化ストレス増大が生じ、糖輸送体「GLUT4」の発現低下が認められた。GLUT4は骨格筋で糖取り込みの働きを担う主要なトランスポーターだ。

 これに対して、脂肪組織および骨格筋組織でATRAPの発現を増加させたマウスでは、AngIIを慢性投与しても、野生型マウスでみられたインスリン抵抗性の増悪を認められなかった。

 詳細に調べてみると、ATRAPの発現量が増加したマウスでは、野生型マウスでみられた骨格筋での酸化ストレス増大、すなわち-p38MAPKの活性化と-GLUT4の発現低下が起こり、糖取り込みの減少が抑制されていた。

 これらのことから、生体での循環AngIIの増加は、骨格筋組織でのAT1受容体の過剰活性化を引き起こして糖取り込みに影響することで、インスリン抵抗性を引き起こすと考えられる。
ATRAPを活性化する治療の開発へ
 今回の研究の意義は、肥満、脂質異常や血圧上昇を伴わずとも、RAS過剰亢進により骨格筋での糖取り込みが低下し、インスリン抵抗性が生じ得ることが明らかになったことだ。

 これまでは、メタボリックシンドロームの主体である内臓脂肪型肥満に付随する脂肪組織RAS亢進と血圧上昇、インスリン抵抗性の関わりが注目されていたが、今回の研究により、痩せ型で血圧正常範囲の健常者の中にもインスリン抵抗性、ひいては2型糖尿病の進展への病態を抱えている人が隠れている可能性があることが示唆された。

 また、これまでの研究と合わせて、脂肪組織や骨格筋でのATRAPの活性化が、肥満だけでなく非肥満状態においてもAT1受容体の過剰な活性化を抑制することで、インスリン抵抗性を改善させることも分かった。

 さらに、AT1受容体系の完全な遮断は、脂肪細胞分化障害などを介し、かえってインスリン抵抗性を増悪させてしまうのに対して、ATRAP活性化は組織の分化障害を起こさずに、AT1受容体の過剰な活性のみを選択的に抑制するという機能上の大きな利点をもつことも分かっている。

 今後開発が期待されるATRAPを活性化する治療によって、効率的に糖尿病の発症を抑制できる可能性がある。

横浜市立大学先端医科学研究センター
Angiotensin II Type 1 Receptor-associated Protein Inhibits Angiotensin II-induced Insulin Resistance with Suppression of Oxidative Stress in Skeletal Muscle Tissue(Scientific Reports 2018年2月12日)
[Terahata]
編集部注:
  • 海外での研究を扱ったニュース記事には、国内での承認内容とは異なる薬剤の成績が含まれています。
  • 2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わすようになりました。過去の記事は、この変更に未対応の部分があります。ご留意ください。
ページのトップへ戻る トップページへ ▶