私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み

48. 自律神経障害 (5)

後藤由夫 先生(東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)

「私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み」は、2003年1月~2009年8月まで糖尿病ネットワークで
全64回にわたり連載し、ご好評いただいたものを再度ご紹介しています。

筆者について

1. 起立時の血圧変動

 仰臥位(仰向け)になってしばらくしてから急に立上ると血圧が下降する。血圧が下降しないように心拍が急増し、内臓その他の血管は収縮する。これを我々は通常の血圧計で観療していた。
 この方法では正確な値が得られないことが分かったので米国からOhmeda 2300のFINAPRES(finger arterial pressure)、スウェーデンからtilt-tableを購入して血圧は1拍ずつ描記させ、また被験者はテーブルに仰臥位になり、予告なしにテーブルを直立位にし起立位にした後に刻々と変わる血圧の変化を観療した。
 健常者23人、心拍変動検査で異常を認めない糖尿病の人68人、深呼吸試験や起立試験時に心拍の変動がみられない、あるいは軽症の人26人に分け、また起立時の血圧の変化を図1のように5つのパターンに分けた。
図1
 血圧が下がってすぐに元に戻るタイプ(I型)、下がってから上昇しかえって前より高くオーバーシュートするタイプ(II型)、回復が遅延するタイプ(III型)、下降した血圧がなかなか回復しないタイプ(IV型)、下降してやや上昇してまた下降して回復するタイプ(V型)である。
 そしてこれらのタイプ別に分布をみると、図1の数字のように健常者と心拍変動試験が正常で自律神経障害のない糖尿病の人ではI型とII型が多く、III型、特にIV型とV型は自律神経障害のある人達に多くみられることが分かった。
 このことから自律神経障害、特に起立時心拍変動試験が異常で交感神経までも障害されている人では、起立位になったときの血圧下降の回復が悪く、したがって立ちくらみが高度になることが客観的に証明された。
 立ち上がると血圧が30mmHg以上下降し、しかも回復の遅い方は、立ち上がるときに、ゆっくり物につかまりながら起きるのが安心である。あるいは、さあ、これから立ち上がるぞと自分に言い聞かせて立ち上がる心の準備をして立ち上がるのがよい。表2はこれらの人達の血圧変動などの平均値を示したものである。
表2 健常者および糖尿病患者の起立時の血圧および心拍数の変化
M±SE、*P<0.01(糖尿病患者 自律神経障害 無対有)

2. 冷水浸後の皮膚温回復試験

 皮膚に分布する自律神経の機能をみる方法として、皮膚を冷やしたときの皮膚温の回復をみる方法がある。現在はサーモグラフィで皮膚温の測定は極めて容易である。眞山享博士らは、健常者7名、心拍変動試験で異常のみられない自律神経機能の正常な糖尿病をもつ人8名、深呼吸試験が陽性で副交感神経の障害が認められ糖尿病をもつ人7名、起立試験が陽性で交感神経にも障害があると判定された人7名について、薄いビニール製手袋をつけて一方の手を氷水に30秒間浸して手袋をとり、直ちに 手首より末梢部の範囲をサーモグラフィ(日本光電、サーモビュアJTG-MC)で100カ所(ポイント)の温度の総和として求め、氷水浸水前の値に回復するのを観療した。その結果は図2のようであった。
図2 手を氷水中に浸した後の手背皮膚温度回復曲線
 まず皮膚温をみると健常者では糖尿病のある人に比べて皮膚温が高く、次は心拍変動試験に異常のみられない糖尿病の人が高く、心拍変動試験で交感神経で障害されていると判定された人達では最も低いのがみられた。
 次に氷水に30秒浸してから皮膚温の回復をみると図2のように、健常者ではほぼ7分後には前値に戻り、それから前値以上に皮膚温が上昇、オーバーシュートするのがみられた。次に心拍試験に異常のない糖尿病の人達では回復が早く10分後にはほぼ前値となった。これに対して心拍試験陽性の人では前値への回復が遅く10分後にも前値まで回復しなかった。特に起立試験では異常のある症例ではその回復は遅延していた。
 この結果より、糖尿病をもつ人では皮膚の血管反射が低下していることが明らかになり、これによって外傷の治癒なども遅くなることが理解された。これを防ぐのは全て日常の血糖のコントロールであり、それにより自律神経障害も防げるということがいえる。

3. 局所発汗試験

 糖尿病になった人の中には、体の一部に汗をかかなかったり、反対に汗を多くかく人がいる。また酸っぱいものを食べると頬や首に汗をかく人もいる(味覚発汗)。梅干や夏みかんなどの酸っぱいものを見ただけでも味覚発汗の起こる人がいる。これは糖尿病になると現れる現象ではなく、糖尿病の人では普通の人よりも現れやすいのである。
 薄いヨードチンキを塗って乾いてから、その上にヒマシ油に澱粉を混ぜたものを塗ると、汗が出ると黒点として現れてくる。これはヨード澱粉反応が起こるためで、故和田正男先生らの考案した方法である。和田先生らはこの方法を用いて多くの業績を上げられた。
 我々は、和田先生らにならって薄いアドレナリン、生食水液を皮内に注射して、その部位に発汗する閾値を測定し、さらに、10-7メコリール生食水に対する発汗閾値を検査した。また10-5ニコチン生食水を皮内注射し、ニコチンによって起こる軸索反射による発汗の面積を測定した。
図3 和田法による発汗判定。上はニコチン、下はメコリール皮内注射試験
 発汗してからその部位にビニール膜を覆い密着させると黒点となった汗滴はビニール膜に付着するので、ビニール膜を白紙の上に置いてコピー材で複写し、面積を測定した。男性についてみると表3に示すような結果となった。
表3 糖尿病患者のアキレス腱反射、神経伝導速度(MCV)、心拍変動の成績別にみた
   Mecholyl皮内注射による局所発汗閾値とニコチン誘発軸素反射による発汗面積の比較

M±SE、 * p<0.05
 アキレス腱反射消失例にはメコリール発汗高閾値例が多く、また正中神経興奮伝導速度の遅い例ほど高閾値例が多く、心拍変動試験陽性例ほど高閾値例が多いのがみられた。またニコチンによる軸索発汗部分の面積は狭いのが認めれた。これから糖尿病で高血糖が継続すると自律神経障害が起こり汗腺の興奮性が低下し、軸索反射も起こりにくくなることが明らかにされた。
 いずれにしても高血糖をコントロールすることが何にも増して大切なことが明らかである。

(2015年10月07日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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