オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

13. インスリン抵抗性の病態とその管理
-検査指標としてのHbA1Cの有用性と限界-

吉岡成人 先生(北海道大学大学院医学研究科病態内科学講座・
第二内科准教授)

吉岡成人 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 13(2007年7月1日号)

血糖管理のみでは動脈硬化を防ぎ得ない?

 糖尿病はいうまでもなく、インスリンの作用不足による高血糖を主徴とする疾患です。ですからその診断は血糖値によって確定されますし、治療においても血糖値やHbA1Cなどの血糖関連諸検査が指標となります。これらの検査値は、糖尿病に'特有'の合併症である細小血管症の発症・進行と良く相関します。

 しかし糖尿病に'特有'とはいえない合併症である大血管障害、いわゆる動脈硬化に基づく心血管性疾患は、血糖管理が良く、かつ糖尿病の罹病期間が短い患者さんにも希ならずみられます。実際、それを裏付けるかのように、UKPDSなどの臨床試験で、HbA1Cを指標の中心とした血糖管理への介入のみでは動脈硬化を阻止できないことが示されています。

糖尿病発症前から生じているインスリン抵抗性

 血糖管理だけでは動脈硬化を防ぎ得ない理由の一つに、糖尿病を発症する(血糖値が糖尿病の診断基準を満たす)前段階から、インスリン抵抗性が増強しているという病態が想定されます。

 インスリン抵抗性は糖代謝のほか脂質代謝を悪化させ、糖尿病や高脂血症(脂質異常症)を引き起こします。また、インスリン抵抗性とその主要原因である内臓脂肪の過剰蓄積とにより、血圧調整機構(RA系など)が乱れ、高血圧がもたらされます。これはまさにメタボリックシンドロームの病態そのものと言ってよいでしょう。

 代償性の高インスリン血症により高血糖を来さず、血糖正常域に留まっていれば、細小血管障害は進行しません。しかし内臓脂肪型肥満(内臓肥満)を伴えば、動脈硬化は進行しつつある状態だと考えられます。

 そのような経過をたどり糖代謝の悪化によって、やがて糖尿病を発症した患者さんが、糖尿病としての罹病期間が短く血糖管理が良いにもかかわらず、心血管疾患を発症したとしても不思議ではありません。社会環境の欧米化に伴う、メタボリックシンドロームを背景に持つ糖尿病の増加が、動脈硬化抑止に対する血糖管理の有用性を相対的に弱めている可能性があります。

集学的かつ原因療法により近い治療で、インスリン抵抗性の改善が必要

 このように考えると、動脈硬化の抑止には、血糖管理に加えて、より病態の基本に近いインスリン抵抗性の評価と改善が必要であることがわかります。糖尿病発症後は糖毒性や治療薬の影響を受けるので、インスリン抵抗性の正確な評価は必ずしも容易ではありませんが、耐糖能異常または糖尿病の発症後間もな い時期であ れば、HOMA-R が簡便な方法として利用できます。さらに、動脈硬化が実際どの程度進行しているのかを、頸動脈エコーやPWV、ABIなどによって検査することも必要となってくるでしょう。

 そして治療においては、血糖管理の良否に満足せず、インスリン抵抗性の改善、RA系亢進の抑制をめざし、肥満(内臓脂肪型肥満)の解消、そのための食事療法・運動療法を積極的に励行して、かつ管理不十分な検査値があれば薬剤の使用を考慮することになります。

 なお、糖尿病合併症抑止のための新たな治療戦略を求め、国内でJ-DOIT3が開始されました。その強化療法群は、インスリンを用いてでもHbA1C 5.8%未満をめざすという、ハイレベルな管理目標となっています。これまで血清脂質や血圧の管理に比べてやや低めにとらえられることが多かった、動脈硬化に対するより厳格な血糖管理の有用性が明らかになる可能性もあり、その結果が待たれます。同時にそれは、より早期からの厳格な糖尿病治療を迫ることになるかもしれません。

※HOMA-R:空腹時血糖値(mg/dL) ✕ 空腹時血中インスリン値(μL/mL)÷405。2.5以上がインスリン抵抗性の目安。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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