低用量アスピリンでがん抑制の可能性 65歳未満の糖尿病患者で 奈良県立医科大学などが「JPAD2」研究を実施

2018.07.19
 日本人2型糖尿病患者に低用量のアスピリンを投与すると、65歳未満の患者ではがんの発症を抑制できる可能性があると、奈良県立医科大学の斎藤能彦教授らの研究グループが発表した。詳細は米国糖尿病学会誌「Diabetes Care」電子版に掲載された。

日本人2型糖尿病患者対象に低用量アスピリン療法の発がん抑制効果を検証

 「日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患一次予防」に関する臨床研究「JPAD研究」が、日本全国163施設の医師の協力を得て2002年に開始された。

 糖尿病は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患だけでなく各種のがんを増加させる。低用量アスピリン療法は従来は心血管疾患の予防のために使用されてきたが、最近では大腸がんなどの予防効果についても注目されている。

 そこで、奈良県立医科大学の斎藤能彦教授らの研究グループは今回の研究で、JPAD2研究に参加した日本人2型糖尿病患者2,536人を対象に、低用量アスピリン療法の発がん抑制効果を検証した。

65歳未満の糖尿病患者でがん発症が減少

 10.7年間の追跡調査に、参加者のうち318人にがんの発症が認めされた。がん発症は低用量アスピリン療法群で149人、非投与群169人となり、低用量アスピリン療法による発がん抑制効果は認められなかった(HR: 0.92、95%CI: 0.73-1.14)。

 がんの発症は加齢とともに増加することが知られていることから、研究開始時の年齢を元に65歳以上、65歳未満に分けて解析を行ったところ、65歳以上の対象者では低用量アスピリン療法の発がん抑制効果は認められなかった(HR: 0.98、95%CI: 0.75-1.28)

 しかし、65歳未満の糖尿病患者では、がんの発症が少なくなる可能性が示された(HR: 0.67、95%CI: 0.44-0.99)。この結果は、性別や血糖コントロール(HbA1c)、喫煙歴、 メトホルミンやスタチンの服用で調整した解析においても同様だった。
低用量アスピリン療法は65歳未満の糖尿病患者では発がんを抑制

低用量アスピリン療法は有効な選択肢となるか?

 「アスピリンは65歳未満に限定すると発がんを抑制する可能性が十分にあるのではないか。がんのハイリスク集団である日本人糖尿病患者において、低用量アスピリン療法が有効な選択肢となりうるか、今後の研究が期待される」と、研究者は述べている。

 なお、研究グループは2016年11月に、低用量アスピリン療法は日本人の糖尿病患者の心血管疾患を予防する効果が認められず、むしろ消化管出血の危険性が増加することを報告している。

 研究は、奈良県立医科大学の斎藤能彦教授、国立循環器病研究センターの小川久雄理事長、兵庫医科大学の森本剛教授、熊本大学の副島弘文准教授らの研究グループによるもの。詳細は米国糖尿病学会誌「Diabetes Care」電子版に掲載された。

関連情報

Effect of Aspirin on Cancer Chemoprevention in Japanese Patients With Type 2 Diabetes: 10-Year Observational Follow-up of a Randomized Controlled Trial(Diabetes Care 2018年6月17日)

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