「スローカロリー研究会」講演会レポート ゆっくり吸収されるカロリーの最新の成果

2017.04.07
 スローカロリー研究会は「第3回講演会」を3月2日に東京で開催した。カロリーの「量」だけでなく「質」にも着目する「スローカロリー」の最新の成果が発表された。

「スローカロリー」は食事の「質」に着目する方法

 日本では2型糖尿病、高血圧、脂質異常症など、動脈硬化を促す生活習慣病が増えている。これらの病因が重なり、内臓脂肪が増えることで発症するメタボリックシンドロームも注目されている。こうした課題を解決するために、「スローカロリー」という新しい考え方が誕生した。

 「スローカロリー」とは、従来のように糖質が健康に与える影響をカロリーの「量」のみでみるのではなく「質」に着目しようという考え方だ。たとえカロリー値は同じでも、消化吸収速度が遅く、食後の血糖上昇や過剰なインスリン分泌を抑える食品は、持続型のエネルギーとなり、スポーツのパフォーマンスや健康に良い影響を及ぼす。

 「スローカロリー研究会」は、「スローカロリー」の有用性について調査・研究を進め、情報を発信するために活動している。このほど活動の3年度目にあたり、「第3回講演会スローカロリーの意義を皆で語ろう!」を3月2日に東京で開催した。

基調講演「スローカロリーのすすめ~糖尿病進行と肥満(症)増悪の対策として」

難波光義氏(兵庫医科大学病院・病院長)  厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、肥満者(BMI≧25)の割合は男性の約3割、女性の約2割と報告されている。また、肥満が基盤にあることの多い2型糖尿病については、60歳以上男性の約4割、女性の約3割が糖尿病かその予備群に該当する。つまり、医師が日常臨床で診る2型糖尿病の患者の多くは、肥満傾向を伴う高齢の患者ということになる。

 肥満と糖尿病は関連が深い。これらが増えている原因のひとつは、血糖を下げるインスリンの食後の追加分泌が遅延したり低下し、結果として食後の血糖値が高くなる、いわゆる「血糖値スパイク」が増えていることだと考えられる。

 こうした今日の肥満と糖尿病の課題を解決する鍵となるのが「インクレチン」だ。「インクレチン」には、食後に高くなりやすい血糖値をコントロールする作用がある。

注目される「インクレチン」作用

 「インクレチン」は、食事を摂取したとき腸管から血液中に分泌される消化管ホルモンで、食後に高くなった血糖値をコントロールするために、膵臓β細胞から分泌されるインスリン(血糖を下げるホルモン)を増加させたり、膵臓α細胞から分泌されるのグルカゴン(血糖を上げるホルモン)を抑制したりする。

 また、食事をよく噛んで食べるのも効果的だ。同じ量と内容の食事を5分で食べる場合と30分かけて食べる場合を比べると、30分かけて食べた時のほうが「インクレチン」が多く分泌され、食後3時間以上経過しても有意差がみられたとという研究がある。

 食事の最初に野菜を食べることも、食事をゆっくり摂ることができので勧められる。また、欧米化された肉中心の食事ではなく、日本人が昔から親しんできた魚中心の食事の方が、「インクレチン」の作用を得やすいという報告もある。

「パラチノース」でスローカロリーを実現

 また、「パラチノース」のような糖を摂ることも「インクレチン」の効果を得るのに効果的だ。「パラチノース」は砂糖から作られる糖で、ブドウ糖と果糖が砂糖と異なる位置でつながった構造をしている。

 「パラチノース」は、それ自体の吸収が遅いことに加え、他の糖質の消化吸収を遅延させる働きがあり、パラチノースを食品に配合することで、食品自体をスローカロリー化できることが明らかになっている。

 「パラチノース」を摂取すると、普通の砂糖(ショ糖)を摂取して場合に比べ、血液中へのグルコースの流入がゆるやかであり、血糖の上昇やインスリン分泌の急激な変化を引き起こさないことが確かめられている。

 「パラチノース」は、GIPの分泌量が少なく、GLP-1の分泌を促進する作用がある。さらに、脂肪細胞へのグルコースや脂肪酸の取り込みを抑制し、内臓脂肪への蓄積を減少させ、体重増加を抑える作用がある。同時に、グルコースの筋肉への取り込みを促す作用もある。

 「パラチノース」には、GIPの分泌量やインスリンの分泌量が少なくし、GLP-1の分泌を促進する作用がある。さらに、脂肪細胞へのグルコースや脂肪酸の取り込みを抑制し、内臓脂肪への蓄積を減少させ、体重増加を抑える作用がある。同時に、グルコースの筋肉への取り込みを促す作用もある。

「京和菓子組合、老舗すき焼き屋との取り組み」

森真理氏(武庫川女子大学国際健康開発研究所講師)
 武庫川女子大学国際健康開発研究は2006年1月に設立され、生活習慣病の予防をテーマに研究活動を展開している。

 砂糖を多く使う和菓子店や洋菓子店でも、スローカロリーの考え方に共鳴するところが増えている。森氏は京菓子協同組合の講師クラブと協力し、スローカロリーを取り入れた京菓子を開発し、スローカロリーの考え方を広めるための活動を紹介。

 京都の老舗すき焼きレストランと協力し、スローカロリーを取り入れたメニューを開発している事例も紹介。「将来的には研究成果をもとに、生活習慣病の予防・改善にも有効な食環境を構築したい」としている。

「病院給食、大学学食をスローカロリーに」

西村一弘氏(駒沢女子大学健康栄養学科教授/東京都栄養士会会長)
 西村氏がはじめて「スローカロリーシュガー」(パラチノース配合糖)と出会ったのは2000年頃で、その頃、「血糖値が上がりにくいアイスクリーム」の開発に、患者会「つぼみの会」の小児1型糖尿病サマーキャンプで協力したのがきっかけだった。そこでパラチノースの特性を知り、臨床の中で活用できる方法を模索した。

 特に成長期にある小児糖尿病患者にとっては、血糖値の上昇をゆるやかにしながら、成長に必要なエネルギーを確保でき、インスリンも節約できるということはとても有意義だという。

 また近年、高齢糖尿病患者では、サルコペニアと認知症が大きな問題になっているので、この原因となる低栄養や低血糖を予防しながら、血糖値の急激な上昇を抑制できる糖類は有効となる。スローカロリーは、メタボリックシンドロームやサルコペニアの双方の予防に貢献できる可能性がある。

「プロスポーツ選手の効率的エネルギー補給としてのスローカロリー活用」

鈴木志保子氏(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授)
 プロスポーツ選手にとって、運動時のパフォーマンスを向上するために栄養管理が重要となる。エネルギー、炭水化物、タンパク質、脂質をバランス良く摂り、ビタミン、ミネラル、水分を適切に補給することが、体を理想的に機能させるために欠かせない。

 運動時のエネルギー源となるのは糖質と脂質だ。運動後に肝臓や筋肉にグリコーゲンを補充するために、糖質を補給することがポイントとなる。

 ただし、糖質なら何を摂っても良いということではない。糖質の補充にどのくらいの時間をかけることができるのかによって糖質の種類や量、タイミングを考えて摂取する必要がある。

 また、試合や練習中における糖質の摂取には、食物摂取を利用して血糖の上昇を抑えることができないため、パラチノースを活用することが有用である。

「スローカロリーと拒食症患者の栄養指導」

柴崎千絵里氏(東京女子医科大学病院栄養管理部栄養士長)
 神経性やせ症患者に栄養指導をする際、「痩せたままではいけない」、「体重を増やさなければいけない」と頭では分かっていながらも、体重増加の恐怖にさらされ不要な心配を抱えながら食べる患者さんの思いを踏まえておかなければいけない。

 栄養指導では、摂取エネルギーを確保するために、栄養バランスよりもエネルギー摂取を優先し、食事の形態にこだわらない食べ方を紹介することもある。その動議付けには栄養士らしい科学的根拠に基づく解説が必要だという。

 「患者さんの不安、苦しみに寄り添い、栄養学の知識を提供することで、安心して食べられる"大丈夫な食事"ができる生活に戻してあげたい」と、柴崎氏は言う。

「大手スーパー、和洋菓子店舗・カフェでの展開」

奥野雅浩氏(三井製糖株式会社商品開発部)

 砂糖を摂取すると肥満につながるといったネガティブなイメージを持つ人が多いが、砂糖は日本の食文化に根付いており、砂糖無しで食事の楽しさ、美味しさ、満足感を満たすには無理がある。必要以上に「甘み」や「エネルギー」をネガティブに捉え、食のバランスを崩している人もいるのではないか?

 スローカロリー研究会では、医師・管理栄養士・大学の研究者といった有識者と食品企業が産学連携にて、スローカロリーの考え方を啓発している。良い研究情報があっても、食品企業が一般消費者にその価値や実践方法を提供できなければ意味がない。そこで、スローカロリーの考え方を砂糖に取り入れ、ゆっくりと消化吸収される次世代型の砂糖を提案している。砂糖に関する誤解を払拭するとともに、砂糖の良い面を上手く活用し、美味しさと健康の両立を目指す活動を行っている。

 本取り組みに、大手スーパーや和洋菓子店・カフェが賛同し始めており、各種メディアも注目しているという。「スローカロリーの考え方は奥が深く、真意を伝えるのが難しいが、粘り強く情報発信していきたい」と奥野氏は言う。

「お菓子会社でのスローカロリー商品開発」

笹川克己氏(株式会社ブルボン健康科学研究所栄養科学研究室室長代理)

 ブルボンはスローカロリーの考え方を取り入れた「スローバー」を2010年に発売した。スローカロリーの「パラチノース」を配合し、カロリーと栄養バランスを調整し、カロリーの「質」に着目した満足感が持続しやすい機能性食品だ。健康志向を前面に出しながら、「お菓子本来のおいしさ」を追求し、しっとりとしたやわらかな食感にしてあるという。

 また、「越のかおり」は、アミロースを多く含む高アミロース米。お米に含まれるデンプンは、アミロースとアミロペクチンの2種類から構成されており、高アミロース米はアミロースが25%以上含まれる。アミロースは消化に時間を要することから、多く含まれる程吸収がゆるやかになる。コシヒカリなどに比べ糖の吸収が遅いので、糖尿病の食事療法などに利用できる食品として期待されている。

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