「人工膵臓」の最新の試験結果を発表 クローズドループシステムの安全性と有効性を検証

2016.10.07
第52回欧州糖尿病学会(EASD)

 インスリンを自動的に調整しながら投与する「人工膵臓」の最新の試験結果が第52回欧州糖尿病学会(EASD)で発表された。「人工膵臓」は1型糖尿病患者の血糖コントロールを改善し、ベースライン時に比較して血糖値変動がより少なく、低血糖と高血糖を抑制することが示された。

血糖コントロールが改善、低血糖は減少、自宅で操作できるのも利点のひとつ

 インスリンポンプ(CSII)と持続血糖測定(CGM)を組み合わせた「人工膵臓」として開発された「MiniMed 670G ハイブリッド クローズドループシステム」は、現時点では患者が食事時にインスリンのボーラス注入をする必要があり「ハイブリッド」と呼ばれている。

 第52回欧州糖尿病学会(EASD)で発表された試験では、平均年齢37.8歳、罹病歴21.7年の1型糖尿病患者124人が3ヵ月間、このクローズドループシステムを着用した。

 主要なアウトカムとなった重症の低血糖およびケトアシドーシスのエピソードは報告されなかった。2週間で5人の患者が低血糖を経験したが、原因はインスリンポンプの輸液セットの詰まりだった。

 人工膵臓の着用中にクローズドループのモードに切り替えたのは、全体の87.2%(中央値)の期間だった。結果としてHbA1c値の平均はベースラインの7.4%から6.9%に低下した。目標血糖値を維持できた時間は、ベースラインの66.7%から72.2%に改善した。インスリン投与量は47.5U/dから50.9U/dに増加し、体重は76.9kgから77.6kgへ増加した。

 「人工膵臓は従来の治療に比べ、より少ない血糖値変動を実現する。試験が行われたのは、現在の治療に使われているCSIIとCGMを組み合わせたシステムの改良型だが、より自動化されており自宅で操作でき、患者の負担を軽減できることが確かめられた」と、マサチューセッツ総合病院糖尿病研究センターのSteven J Russell氏は言う。

 ミネソタ州ミネアポリスの国際糖尿病センターのエクゼクティブ ディレクターであるRichard M Bergenstal氏は、「今後30年間で人工膵臓が実用化できるかについて確信をもてなかったが、今回の試験結果を受けて、実現できる日が近いと自信をもった」と述べている。

 Bergenstal氏は今回の試験について「対照群を設けず、血糖コントロールが比較的良好な患者を選び、試験の継続期間も短かった」と限界を認めつつ、「ハイブリッドクローズドループの自動化されたインスリン投与により、深刻な有害事象が起こらなかったことは評価できる。自宅でデバイスを操作できるのも利点のひとつだ」と指摘する。

 現在、小児の1型糖尿病患者を対象とした試験も進行中だ。「ハイブリッドのクローズドループシステムの安全性と有効性を検証するために、より長期のレジストリデータと無作為研究が必要だ」と、Bergenstal氏は述べている。

 インスリンとグルカゴンを自動投与する「人工膵臓」の開発も進められており、「バイオニック膵臓」と名付けられている。第76回米国糖尿病学会(ADA)で発表されたは、22人の1型糖尿病患者を対象とした試験では、ブラセボと比べ低血糖を75%、夜間低血糖を91%減らすことが報告された。

Safety of a Hybrid Closed-Loop Insulin Delivery System in Patients With Type 1 Diabetes(JAMA 2016年9月15日)
第52回欧州糖尿病学会(EASD)年次学術集会

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

脂質異常症の食事療法のエビデンスと指導 高TG血症に対する治療介入を実践 見逃してはいけない家族性高コレステロール血症
SGLT2阻害薬を高齢者でどう使う 週1回インスリン製剤がもたらす変革 高齢1型糖尿病の治療 糖尿病治療と認知症予防 高齢者糖尿病のオンライン診療 高齢者糖尿病の支援サービス
GLP-1受容体作動薬の種類と使い分け インスリンの種類と使い方 糖尿病の経口薬で最低限注意するポイント 血糖推移をみる際のポイント~薬剤選択にどう生かすか~ 糖尿病関連デジタルデバイスの使い方 1型糖尿病の治療選択肢(インスリンポンプ・CGMなど) 二次性高血圧 低ナトリウム血症 妊娠中の甲状腺疾患 ステロイド薬の使い分け 下垂体機能検査
NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療-減量・代謝改善手術- 骨粗鬆症治療薬 脂質異常症の治療-コレステロール低下薬 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症 FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 褐色細胞腫

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料