Diabetic Complication Topics

『動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂』
糖尿病患者の脂質異常症の扱いは?

山下 静也 先生
(地方独立行政法人 りんくう総合医療センター 病院長、
大阪大学大学院総合地域医療学寄附講座・循環器内科学 特任教授)

山下 静也 先生

初出:『Diabetic Complication Topics』 No. 5(2018年2月発行)

日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』が改訂され、診断基準にnon-HDL-Cが追加された。また二次予防においてより厳格に管理すべき病態とそのLDL-Cの管理目標値が明確に掲げられた。そのいずれもが、糖尿病に伴う大血管症の抑制戦略において重要なメッセージを含む変更だ。糖尿病患者に本ガイドラインを適用する際の留意事項や、改訂後の反響、次回改訂の方向性などを、発行から約4カ月が経過した昨年11月、日本動脈硬化学会理事長の山下静也氏に伺った。

臨床的疑問(CQ)に対応しながらも、
ステートメントの明確さを重視して編集

――ガイドライン2017年版策定の手順や方法、2012年版からの主な改訂点を教えてください。

 日本動脈硬化学会では1997年、主に脂質管理を主眼にしたガイドラインを発行し、以後5年おきに改訂を重ねてきています。2017年版の発行にあたっては、最近の潮流を尊重しMinds*1の手法を用いて策定しました。臨床的疑問をクリニカルクエスチョン(CQ)として設け、その回答をシステマティックレビューによって得るという方法です。ただし、CQの羅列のみでは重要ポイントが埋もれてしまう恐れもあるため、適宜、従来の記述方式も用いてフォーカスがぶれないように配慮しました。

*1:Mindsは、公益財団法人日本医療機能評価機構の医療情報サービス「Medical Information Network Distribution Service」の略称

 その他、リスク評価に吹田スコアを採用したこと、non-HDL-Cによる診断基準を定めたこと、二次予防においてLDL-C70mg/dL未満を目指すべき病態について明示したことなどが大きな改訂点です。

――吹田スコアの採用はどのような理由で?

 2012年版で用いたNIPPON DATA 80は脂質低下療法が今ほど積極的になされていない頃のデータで、かつ「死亡率」で評価しているため、これからの時代のリスク評価に即したものを探索する必要性が生じました。約10件のデータベースが検討対象となり、その中からLDL-Cが層別解析されていることや、冠動脈疾患発症のリスク評価に適しているという視点で絞り込んでいき、最終的に吹田研究に基づくスコアを採用しましたmemo 1

memo1 吹田スコア
大阪府吹田市民を対象としたコホートスタディ「吹田研究」のデータを基に、国立循環器病研究センターが開発した冠動脈疾患発症リスクスコア。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年版』において一次予防のリスク評価に採用された。年齢、性別、喫煙、血圧、耐糖能異常の有無などを点数化し、今後10年間の冠動脈疾患発症確率を割り出す。その確率が2%未満の場合を低リスク、2~9%未満を中リスク、9%以上を高リスクと層別化する。このリスク判定のためのアプリケーションも公開されている。
冠動脈疾患発症予測・脂質管理目標値設定アプリのご案内(日本動脈硬化学会)

 この変更に際し、以前のリスク分類と改訂後のリスク分類とで、リスク判定の結果が大きく異ならないということを、さまざまなポピュレーションで検討し確認しています。

――新たにnon-HDL-Cを診断基準に追加した背景は?

 健診などの血液検査を非空腹時に受ける方が結構いるのです。non-HDL-Cであれば非空腹時でも支障なくスクリーニングが可能ですから、今回その基準値を設けました。170mg/dL以上であれば「高non-HDL-C血症」、150~169mg/dLは「境界域高non-HDL-C血症」と診断します。

 またnon-HDL-CにはLDL-C以外の動脈硬化惹起性リポ蛋白、例えばトリグリセライド(TG) richなレムナントやLp(a)なども含まれていて、それらの高リスク病態を見つけるきっかけになるという利点があります。実際にLDL-Cよりもnon-HDL-Cのほうがイベント発症リスクとの相関が強いとの報告が増えています。

高non-HDL-C血症には、
糖尿病患者に多いLDL-C以外のリスクも反映されている

――LDL-Cだけでは見逃してしまうリスクがnon-HDL-Cに含まれているということでしょうか。

 はい。まずnon-HDL-Cでリスクのある患者さんを漏らさずに拾い上げ、その後、なぜnon-HDL-Cが高くなっているのかを見極めて治療方法を判断します。LDL-Cが高いためにnon-HDL-Cが高いのであれば介入対象はLDL-Cです。しかしLDL-Cはそれほど高くないのにnon-HDL-Cが高いのであれば、別に介入すべき対象が存在するということになり、多くの場合それはTGです。

――治療介入後はnon-HDL-Cをどのように活用するのでしょうか?

 今回、脂質管理目標値を掲げた表の中で、LDL-Cの欄のすぐ右隣にnon-HDL-Cを配置しました。二番目に達成すべき目標として明確に位置づけたということです。治療介入においてはまずLDL-Cの目標達成が第一ですが、それだけでよいということではなく、ぜひnon-HDL-Cも管理していただきたいです。このことは第4章のCQ21で取り上げて推奨していますmemo 2。糖尿病の患者さんではこの見逃しに特に注意していただきたいところです。non-HDL-Cを下げるには、TGも主要なターゲットになることが多いです。

memo2

第3章 包括的リスク評価 1.危険因子の評価

CQ5 トリグリセライドは日本人の動脈硬化性疾患の発症・死亡を予 測するか?

空腹時、非空腹時にかかわらずトリグリセライドの上昇は、将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測する。(エビデンスレベル:E-1b)

第4章 包括的リスク管理 3.薬物療法

CQ21 LDLコレステロールが管理目標値を達成した場合、non-HDLコレステロールを指標に脂質管理をおこなうべきか?

LDLコレステロールが管理目標を達成してもトリグリセライドが高い場合にはnon-HDLコレステロールを目標とした脂質管理をおこなうべきである。(エビデンスレベル:3、推奨レベル:B)

CQ23 高TG血症あるいは低HDL-C血症を合併する脂質異常症患者において、スタチンへのフィブラート系薬剤・ニコチン酸誘導体・n-3多価不飽和脂肪酸の併用は動脈硬化性疾患の発症抑制に有効か?

イコサペント酸エチル(EPA)製剤およびフィブラート系薬剤のスタチンへの併用療法は、動脈硬化性疾患発症抑制に有効である。(エビデンスレベル:2、推奨レベル:B)

4.主要な高リスク病態への対応 4-2 糖尿病

ステートメント

  • 糖尿病患者では発症早期から血糖値のみならず脂質値、血圧値の厳格な管理を包括的に行う必要がある。(エビデンスレベル 1、推奨レベルA)
  • 糖尿病に家族性高コレステロール血症、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)、細小血管合併症(網膜症、腎症)、メタボリックシンドローム、血糖コントロール不良状態の持続、主要危険因子の重複、喫煙継続など合併の場合には、LDLコレステロール以外の危険因子の管理と共にLDLコレステロールのより厳格な管理が推奨される。(コンセンサス、推奨レベルA)

〔日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版.日本動脈硬化学会,2017〕

高リスク病態合併糖尿病の二次予防で、
目標を「LDL-C70mg/dL未満」と明記

――糖尿病に関係することとしては、二次予防の管理基準の一部が厳格化されましたね。

 二次予防の基本的なLDL-C管理目標値が100mg/dLであることは前回と同じです。しかし今回、二次予防の中でもより厳格な管理を目指すべき病態を明確にし、「LDL-C70mg/dL未満」という数値を掲げました。その病態とは、家族性高コレステロール血症と急性冠症候群で、糖尿病でハイリスク病態を合併している場合もこれに準ずるとしています。糖尿病のハイリスク病態として具体的には、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)、慢性腎臓病(CKD)、メタボリックシンドローム、主要危険因子の重複、喫煙を挙げています。

――糖尿病における二次予防の対象者のうち、ハイリスク病態を'合併していない'患者さんは、あまりいな いのでは?

 イベントを起こして運ばれてきて初めて糖尿病が見つかるというケースでは、ハイリスク病態を合併していないこともあります。そのようなケースでLDL-C70mg/dLを目指すべきとのエビデンスはまだ得られていません。その一方、イベント発症前から糖尿病で治療を受けている患者さんの場合、ハイリスク病態を全く合併していないということは確かに少ないです。そして、後者は前者と区別し厳格に対処しなければなりません。

 なお、実は2012年版のガイドラインでも本文中には、LDL-Cを100mg/dLよりさらに下げることを考慮してもよいという主旨の記載はありました。今回、より厳格に管理することの有用性を示すエビデンスが充実してきたことから、目立つように格上げして表の中に示しました。これに対する反響は大きく、「患者さんへ説明しやすくなった」と評価いただく声をよくお聞きします。

リスク区分別脂質管理目標値
治療方針の原則 管理区分 脂質管理目標値(mg/dL)
LDL-C non-HDL-C TG HDL-C
一次予防
まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮する
低リスク <160 <190 <150 ≧40
中リスク <140 <170
高リスク <120 <150
二次予防
生活習慣の是正とともに薬物療法を考慮する
冠動脈疾患の既往 <100
(<70)*
<130
(<100)*

糖尿病における一次予防
高リスク病態を合併していない糖尿病における二次予防
高リスク病態を合併している糖尿病における二次予防

*家族性高コレステロール血症、急性冠症候群の時に考慮する。糖尿病でも他の高リスク病態を合併する時はこれに準ずる。

●一時予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、低リスクにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮するとともに、家族性高コレステロール血症の可能性を念頭においておくこと。
●まずLDL-Cの管理目標値を達成し、その後non-HDL-Cの達成を目指す。
●これらの値はあくまでも到達努力目標値であり、一時予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30%、二次予防においてはLDL-C低下率50%以上も目標値となり得る。

〔日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版.日本動脈硬化学会,2017より一部改変〕

食後高脂血症の有無の確認が、糖尿病患者では必須

――近年、糖尿病に伴うことの多い食後代謝異常と動脈硬化の関連がホットな話題になっています。今回のガイドライン改訂ではどのように反映されていますか?

 2016年に欧州動脈硬化学会が、空腹時よりも非空腹時採血を推奨するステートメントを発表するなど(Eur Heart J 37 (25):1944-1958, 2016)、非空腹時の検査値を重視する動きが広がっています。糖尿病の患者さんでは、この点は特に注意が必要です。食事由来の脂質吸収が亢進してカイロミクロンの合成も亢進していること、またインスリン作用不足に伴うリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性低下のためにカイロミクロンの代謝が滞りTGの分解が遅延し、食後長時間、高TG血症の状態にあることが多いからです。このように食後高脂血症で問題となるTGについて、今回のガイドラインでは第3章で取り上げ、空腹時・非空腹時にかかわらずリスクであることを述べていますmemo 2

 ただし、まだ国内では食後高脂血症の診断基準を設けるに至っておらず、今回のガイドラインにもカットオフ値の記載はありません。ただ、臨床的にはTGが最も高くなる食後3~4時間後に受診していただき200mg/dLを超えていれば、食後高脂血症と言ってよいのではないかと考えています。

――食後高脂血症への介入方法を教えてください。

 外因性の脂質負荷を下げカイロミクロンを減らすこと、具体的には脂質の摂取量を制限することが第一です。加えて糖尿病でみられることの多い肝臓由来のVLDL合成が亢進しているような病態に対しては、炭水化物の摂り過ぎを是正します。薬剤ではLPLの活性を高めるフィブラート系薬剤が用いられます。なお、食後高脂血症のようなTGが高くなる病態でLDL-Cも高いという場合には、スタチンとフィブラート等の併用療法を考慮しますが*2、その点も第4章CQ23で取り上げていますmemo 2

*2:腎機能検査値に異常がある場合、スタチンとフィブラートの併用は原則禁忌

次回改訂に向け二次予防の定義を明確にし、
TGの管理目標を策定していきたい

――今回の改訂で先生が最も強調されたかったことはどんなことですか?

 包括的なリスク管理の重要性です。本ガイドラインの改訂では毎回、脂質管理目標値の数値のみが注目されがちですが、それが全てではありません。脂質異常症は動脈硬化の主要なリスク因子ではあるもののそれ以外に、糖尿病、高血圧、CKD、喫煙などさまざまなリスク因子があり、それらすべてを包括的に管理していかなければ、動脈硬化性疾患の予防は達成できません。糖尿病では特にこの点が強調されるべきですので、ガイドライン上でもステートメントとして掲げていますmemo 2。また、動脈硬化リスクを広く集めようという観点から、今回新たに考慮すべき病態として、「高尿酸血症」、「睡眠時無呼吸症候群」を取り上げています。

――次回の改訂に向けて抱負をお聞かせください。

 課題はいろいろありますが、一つは、二次予防の定義を明確にできればと考えています。最近、多くの診断機器が開発され冠動脈病変をさまざまな方法で検出できるようになってきました。その結果、どこから二次予防の介入対象にすべきなのか、範疇が曖昧になっているからです。

 もう一つはTGの基準値です。現在は150mg/dLという一点のみですが、本当はもっと細かい分類が必要なはずです。例えば糖尿病であればTGが130mg/dLであっても私はハイリスクだと思っています。エビデンスの蓄積次第でガイドラインに管理目標を記載できるようになる可能性はあると思います。

――最後に、糖尿病臨床医へのメッセージをお願いします。

 JDCSが明らかにしたように、日本人の糖尿病患者においても冠動脈疾患の危険因子として、TGとLDL-Cが上位に位置していますmemo 3。ですから、本ガイドラインをぜひご活用いただき、血糖管理に加えて糖尿病患者さんの脂質管理目標を徹底するとともに、例えば運動負荷心電図、頸動脈エコーやABIにより動脈硬化進展レベルを適宜評価するなどして、患者さんの生命予後とQOLの改善を目指していただきたいと思います。

memo3 JDCS

 JDCS(The Japan Diabetes Complications Study)は、日本人2型糖尿病患者を対象とする臨床研究。その冠動脈疾患リスク因子の解析結果から、血清脂質の影響の強さが示された。

日本人2型糖尿病患者の冠動脈疾患リスク因子(JDCSサブ解析)
リスク因子* ハザード比(1SDあたり) p値
logTG 1.54(1.22-1.94) p<0.01
LDL-C 1.49(1.25-1.77) p<0.01
HbA1c 1.20(1.00-1.45) p=0.05
収縮期血圧 1.19(0.97-1.45) p=0.09
*性、年齢、糖尿病罹病期間、BMI、喫煙、飲酒、HbA1c、LDL-C、HDL-C、TGで調整
〔J Clin Endocrinol Metab 96; 3448-3456, 2011より改変〕

山下 静也 先生 プロフィール

地方独立行政法人 りんくう総合医療センター 病院長 大阪大学大学院総合地域医療学寄附講座・循環器内科学 特任教授 1979年 大阪大学医学部卒業。同大学医学部附属病院、市立豊中病院などに勤務後、1988年 米国シンシナティ大学臨床病理学教室留学。帰国後、1992年 大阪大学医学部助手。同講師、助教授を経て、2005年 医学部附属病院・病院教授(循環器内科)。2015年から現職。2016年からは日本動脈硬化学会理事長を務めている。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

この記事は、糖尿病合併症ニュースレター
『Diabetic Complication Topics』に
掲載されたものです。

監修・企画協力:糖尿病治療研究会
提供:科研製薬株式会社
企画・編集・発行:糖尿病ネットワーク

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