Diabetic Complication Topics

糖尿病患者の足を守るために
内科医がやるべきこと、できること

富田 益臣 先生
(下北沢病院 糖尿病センター長)

富田 益臣 先生

初出:『Diabetic Complication Topics』 No. 2(2016年8月発行)

糖尿病患者の足病変は容易に進行し切断リスクが高い。しかしその統計的な実態は明らかでなく、切断が増加しているのか減少しているのかも明らかでない。なぜなら、足病変の治療において中心となる診療科がないことから、患者がさまざまな医療機関に分散しているためだ。このような現状を改善し「患者の足を守ろう」とする取り組みが今、各地で始まっている。新たに構築されていく下肢診療システムの中で、内科医はどのような立ち位置でかかわるべきなのか。東京都済生会中央病院で長年、下肢診療に携わり、下北沢病院糖尿病センターの開設とともにそのセンター長に就任された富田益臣氏に伺った。

救肢の外科的治療は進歩してきたが、
内科が主体となる予防的治療の普及は今一歩

──糖尿病患者さんの下肢切断は増えているのでしょうか?

 海外からは膝や股関節での大切断が減っているという報告がありますが、国内にはほとんどデータがありません。その理由として、国内には足を専門に診る診療科がないために、患者さんがさまざまな科に分散していることが挙げられます。ただ、糖尿病に関しては2008年に予防的フットケアの診療報酬(糖尿病合併症管理料)が新設されて各地にフットケア外来が立ち上がり、患者さんが集約されてきています。ようやく現状を把握できる環境が整いつつあり、下肢診療の質を向上させるための第一段階と言ったところだと思います。

──海外で大切断が減っているというのは、治療の進歩によるものですか?

 もちろん治療の進歩もありますが、予防対策が行き届いてきたことも寄与していると思います。国内でもこの数年で救肢医療が急速に進歩していますが、予防についてはまだ心もとないように感じています。

 数年前に当時の勤務先施設で糖尿病・内分泌内科の各医師が、日常診療でどのような検査・診察を行っているか調べたことがあります。その結果、HbA1cや血圧などはガイドラインの推奨値を概ね達成しており、定期的な眼科検査も約7割の患者さんに行われていたのですが、下肢の診察はわずか5.3%の患者さんにしか行っていないことがわかりました。ちなみに米国は68%に達しており、これをさらにアップさせるべく国家的目標が掲げられていますmemo1

memo1 下肢診察の実施率
 東京都済生会中央病院の糖尿病外来(担当医師は16名)の患者1,105名に対する諸検査の実施状況を調べたところ、調査日から遡ること1年以内に眼底検査が施行されていた患者は68.6%、6カ月以内に尿アルブミンが測定されていたのは63.6%だった。その一方、1年以内に下肢の診察が施行されていたのは5.3%に過ぎなかった。

〔Kabeya Y,Tomita M,et al.Diabetology Int 5:219-228,2014〕

 なお、米国では'Healthy People 2020'という我が国の「健康日本21」に相当する国家目標の中で、糖尿病患者の下肢診察 率向上を目標の一つに掲げている。それによると2008年時点の診察率は68.0%であり、2020年までに74.8%を目指すとしている。〔https://www.healthypeople.gov/

──国内の内科医の下肢への関心が低いということでしょうか?

 そもそも日本には「足病学」という教育・診療体系がありません。結果として、各専門領域の特性を生かした救肢医療は進化しつつあるものの、そのような先進的医療が必要になる前段階で足を総合的に診る予防医療が不十分なままです。

 また患者さんにも、足を医師に診てもらうという習慣が定着していません。「糖尿病の人は下肢切断の危険性が高い」という事実が患者さん共通の知識となり、患者さん側から主治医に「足を診てください」と訴えるようになれば、内科医の意識も変わり始めるでしょう。

糖尿病患者さんの足を短時間で
システマチックにアセスメントする診療体制

──しかし、糖尿病外来は多忙を極めていて、そもそも足を診る時間がないという話をよく聞きます。

 確かに限られた診察時間の中でどこまで医師が診るのかという問題はあります。経験的には患者さんに靴と靴下を脱いでもらうまでが大変です。足を診る必要性が高そうな人ほど、体が硬いなどの理由で靴や靴下を脱ぐのに時間がかかってしまうのです。しかしいったん靴下を脱いでもらえば、アセスメントにそれほど時間がかかるものではありません。

 そこで我々は、靴下を脱いでもらうべき患者さんを簡便に抽出するAAAスコアを作成しました。糖尿病足病変を合併した入院患者さんの背景因子を多変量解析で検討したところ、罹病期間や視力・腎機能、生活スタイルの関与が明らかになったのですmemo2。これらはいずれも特別な検査を必要とせず日常診療で容易に得られる情報です。AAAスコアの合計が7点以上の場合、靴下を脱いでもらい、糖尿病足病変の詳しい検査が推奨されます。患者さんの足を診るきっかけとして、このスコアも活用していただきたいです。

memo2 AAAスコア
 富田氏らが東京都済生会中央病院の患者データをもとに開発した糖尿病足潰瘍のリスクスコア。以下の合計が7点以上の場合、糖尿病足病変国際ワーキンググループ(The Internation-al Working Group on the Diabetic Foot : IWGDF)が半年に1回以上の診察を推奨するカテゴリー1(糖尿病性神経障害を有する)以上に該当する可能性が高い(感度56.9%、特異度95.2%)。

〔Tomita M,et al.Diabetology Int 6:212-218,2015〕

 本スコアは、同氏も参画している下肢切断を減らすための社会活動'Act Against Amputation'に活用され「AAAスコア」と呼ばれている。※AAAについて ▶
糖尿病罹病期間 15年以上
2点
両眼での矯正視力 0.5以下
6点
eGFR 60mL/分/1.73m 2 以下
2点
独 身
3点
肉体労働者
4点

 医師が一度スクリーニングした後は、定期的なアセスメントを看護師に任せられます。既に足病変の既往がある人は受診の都度、既往がなくてもリスクが高そうな人は3か月ごと、低リスクなら年1回といった具合に、定期的なチェックの間隔を看護師だけでなく患者さんにも伝えておきます。こうしたシステマチックな方法で、多くの患者さんの足の異常を医師が直接関与しなくても早期に発見できます。年1回であれば、心電図検査で靴下を脱いでもらったついでに足を診るという方法も良いでしょう。

──足病変を見つけても適切な処置方法がわからず、紹介先を探すのにも難渋している内科医が多いと思うのですが...

 どのような処置が"適切"なのか判断に窮するのはなにも内科医だけではありません。なぜなら、進行した足病変の治療についてはまだ未確立な部分が多いからです。同じような病変であっても、その患者さんが最初に訪れた診療科により治療方針が異なることも珍しくありません。足病変治療の標準化と診療連携の確立は、ともに急務の課題です。

 こうした状況においては、"足病科"のようなわかりやすい名称の診療科を標榜し、地域の下肢診療の拠点となる医療機関が必要になると思います。私が5月に移籍した下北沢病院には糖尿病センターとともに「足病総合センター」が開設されたのですが、そのセンターが都内西部における下肢診療の拠点の一つになり得るでしょう。近隣の内科の先生方には、糖尿病患者さんの足を安心して診ていただければ幸いです。

若い糖尿病患者さんの足を守るにはより積極的な予防的介入を

──下北沢病院では富田先生が下肢診療を手掛けられるのですか?

 私は内科医として糖尿病センターを担当し、週1回は足病医とともに足病総合センターでも外来を行います。もちろん内科での日常診療においても患者さんの足を診たりフットケアを行いますが、専門的な治療が必要な患者さんには足病総合センターを受診していただきます。同センターでは、形成外科、整形外科、血管外科それぞれの医師が連携しながら各自のもつテクニックを駆使して、患者さんごとに最適な治療を探っていくことになります。下肢診療を一施設内で完結できる、国内でも数少ない医療機関の一つになると思います。

──そのような下肢診療の専門チームの中で内科医が果たす役割はどんなことでしょうか?

 糖尿病の診療にあたる内科医と他科の医師との違いは、患者さんとともに過ごす時間の圧倒的な長さです。足病変の治療には月単位の時間を要することも珍しくなく、他科の医師にとっては"長い"と感じられるようですが、糖尿病の治療は足病変の治療後もさらに年単位で続きます。そのため、やはり「予防」に真剣にならざるを得ません。

 以前、40歳代の建設作業員の糖尿病患者さんがいました。救肢医療というと高齢患者さんが中心と思われるかもしれませんが、実際にはまだ働き盛りの方も少なくないのです。この方の場合、仕事中に履く安全靴が原因と思われる下肢潰瘍を来して他科で治療を受けた際、今後安全靴を履かないようにと指示されたそうです。もちろんその指示は医学的には正しいのですが、患者さんにとっては職を失うことを意味します。患者さんの人生を考えると、安全靴を履く仕事を続けながら潰瘍を再発させない手段はないかと悩みます。その答えは、より丁寧なフットケアや適切な補装具の選択、あるいはよりこまめなアセスメントなのかもしれません。

 一方で、当院の患者データから、下肢潰瘍を起こした患者さんは我々が最大限努力しても約2割が再発してしまうことがわかっています。この2割をなんとか1割にできないか、その手段を他科の医師とともに見つけ出せるのではないかとの期待もあります。

 具体的には、リハビリによる歩行機能や関節可動域の改善、そしてアキレス腱延長や関節固定術などの予防的な手術です。国内ではまだほとんど行われておらず遠隔期アウトカムが不明確ですが、手術後に内科医が長期にわたり診療にあたるという下北沢病院の体制を生かし、新しいエビデンスを発信していけると考えています。

すべての内科医が一定水準の下肢診療を行うための
ガイドラインが求められている

──他科の医師とチームになることで、いろいろな可能性が広がりそうですね。

 はい。しかし、糖尿病足病変の増加に対応するため、内科医が行う領域を広げる努力ももちろん求められてくるでしょう。例えば皮膚科との密な連携があれば下肢潰瘍に対してはbFGF製剤などの皮膚潰瘍治療薬を用いた治療ができるでしょうし、糖尿病患者さんに多い爪白癬に対しても近年、外用薬が登場し介入のハードルが下がりました。

 爪白癬をあまり気にしない糖尿病患者さんもいらっしゃいますが、爪白癬は陥入爪や巻き爪を起こしやすく感染創の原因になりやすいのです。そのようなリスクを安易に放置せず、きちんと対処していくという患者指導は食事療法や運動療法の指導と相通じる部分があり、糖尿病内科医であればこそ手腕を発揮できるところです。こうしたきめの細かい診察と指導の積み重ねが、結果的に患者さんの足を守ることにつながるのだと思います。

──そのような内科医としての下肢診療の技術を富田先生はどのように習得されたのでしょうか?

 それは渥美義仁先生(現:永寿総合病院糖尿病臨床研究センター長)のもとで研修を積んだことが大きいと思います。ご存知のように渥美先生は我が国における糖尿病下肢診療の先駆け的な存在で、診察室ではご自身で患者さんの足を診て処置もされていました。日頃からその姿を目にしていたので、それが当然のように考えていたのです。ですから実は今も自分が患者さんの足を特に力を入れて診療しているという感覚はなく、問診や聴診の流れで足も診ているというのが実感です。

──今後の抱負をお聞かせください。

 我々の世代には、渥美先生が光を当てられたこの分野をより確かな道にしていく責務があると感じています。具体的には、糖尿病の下肢診療において内科医ができることとすべきことを明確にすることです。内科医ならだれでも一定のスクリーニングや予防的治療を提案できるようなガイドラインが必要だと感じています。その実現に多少なりとも寄与できればと考えています。

「一般社団法人Act Against Amputation」のご案内

 「なくそう下肢切断、見逃すな足病変」を合言葉に、下肢切断を減らすための活動を展開している団体。WEBを通じて医療従事者および患者向けの情報発信をしているほか、市民講座の開催なども行っている。糖尿病内科、形成外科、整形外科、皮膚科、血管外科、循環器内科、腎臓内科、透析科などの医師や、看護師、義肢装具士などが参画。代表理事は杏林大学医学部形成外科教授の大浦紀彦氏。

「一般社団法人Act Against Amputation」(画像左)WEBサイトへ ▶
「足病変とフットケアの情報ファイル(監修:AAA)」(画像右) ▶

富田 益臣 先生 プロフィール

下北沢病院 糖尿病センター長。2003年 東京慈恵会医科大学卒業、東京都済生会中央病院に勤務。同院 糖尿病・内分泌内科のフットケア外来を担当するなど、糖尿病による足病変の予防・治療に尽力。2016年5月より現職。日本糖尿病学会専門医・指導医、義肢装具等適合判定医。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

この記事は、糖尿病合併症ニュースレター
『Diabetic Complication Topics』に
掲載されたものです。

監修・企画協力:糖尿病治療研究会
提供:科研製薬株式会社
企画・編集・発行:糖尿病ネットワーク

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