抗精神病薬「オランザピン」が糖尿病を引き起こすメカニズムを解明 体重増加以外にも注意が必要

 京都大学の研究グループは、第二世代抗精神病薬「オランザピン」(商品名:ジプレキサ)が引き起こす、非典型的な糖尿病の発症について、分子メカニズムで明らかにしたと発表した。
オランザピン誘発性の糖尿病には肥満をともなわない例も
 京都大学の研究グループは、第二世代抗精神病薬「オランザピン」(商品名:ジプレキサ)が引き起こす、非典型的な糖尿病の発症について、分子メカニズムで明らかにしたと発表した。

 第二世代抗精神病薬オランザピン(商品名:ジプレキサ)は、統合失調症などの症状を効率的に抑える薬だが、副作用として糖尿病を引き起こすことが知られている。日本では糖尿病患者へのオランザピンの投与は禁忌とされている。

 公式な統計データはとられていないが、医師の臨床経験にもとづくと、オランザピン内服者の場合、リスクが2倍程度上がり、20~30%が糖尿病を発症するという。また非典型的な糖尿病を発症する服用者は、そのうちおよそ2~3%と見積もられている。ケトアシドーシスのリスクは10倍程度上がると考えられている。

 オランザピン誘発性の糖尿病はこれまでは、食欲亢進にともなう体重増加、それに続くインスリン抵抗性によって説明されてきた。しかし、なかには肥満をともなわない非典型的な糖尿病も誘発されることが臨床的に報告されている。

 インスリン抵抗性などで糖尿病になる場合には発症まで通常数年かかるが、オランザピン誘発性糖尿病の場合では半年以内に発症する例もある。

 そこで京都大学の研究グループは、オランザピンが直接膵β細胞に作用している可能性を考え検証し、オランザピンがインスリンの前駆体であるプロインスリンの適切な構造形成を妨げて分解へと導くことにより、膵β細胞からのインスリン分泌を阻害することを明らかにした。

 「未解明であった副作用発症機構が解き明かされたことで、今後のより適切なオランザピンの処方と服用につながることが期待される」と、研究者は述べている。

 研究は、京都大学大学院理学研究科の森和俊教授、蜷川暁特定助教らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「eLife」にオンライン掲載された。

研究で解明されたオランザピンによる糖尿病発症のメカニズム

出典:京都大学大学院理学研究科、2020年
オランザピンが膵β細胞へ毒性を発揮、プロインスリンの成熟を妨げる
 研究では、インスリン分子の品質管理の観点から、オランザピン誘発性糖尿病発症メカニズムが解析された。

 インスリン分泌のためには、その前駆体プロインスリンが小胞体で成熟型となることが必須だ。マウス膵β細胞由来のMIN6 細胞株にオランザピンを投与したところ、インスリンの分泌抑制が観察された。インスリンそのものの存在場所に変化はなかったが、通常状態ではインスリン分泌顆粒に主に存在しているプロインスリンが、オランザピン処理後には小胞体に存在していた。

 オランザピンによって小胞体に留められたプロインスリンには顕著な構造異常が認められ、細胞質に逆行輸送され、プロテアソームによって分解されていた。さらに、ヒトへの投与量を換算した量のオランザピンをマウスに内服させ、数週間後に膵島を単離して解析すると、プロインスリンの構造異常とその存在量低下が認められた。

 今回発見された、新たなオランザピン作用機序の分子基盤は、オランザピンが直接膵β細胞へ毒性を発揮し、プロインスリンの成熟(適切な構造形成)を妨げ、その結果、インスリン分泌を阻害していることを示している。

 このことは、オランザピン内服者のうち、肥満やインスリン抵抗性を介さずに糖尿病を発症する患者がいる病因の説明になる。

オランザピンがインスリン分泌を阻害する分子メカニズム

通常、プロインスリンは、小胞体内で分子シャペロンや酸化還元酵素などの助けを借りて、分子内で3つのジスルフィド結合を形成する。適切な構造を獲得したプロインスリンは、ゴルジ体以降の分泌経路へと進み、インスリンとしてインスリン分泌顆粒に蓄えられる。 オランザピン存在下では、プロインスリンの分子内ジスルフィド結合形成がうまくいかず、分子間ジスルフィド結合してしまい、適切な構造を獲得できない。その結果、構造異常タンパク質として小胞体から細胞質へと逆行輸送され、プロテアソームによって分解される。
出典:京都大学大学院理学研究科、2020年

 「オランザピンが非典型的な糖尿病を引き起こすことは、10年以上前から臨床的に分かっていましたが、臨床の現場ではそのことに気が付いていても原因が分からないため、明確な対処法がない状態でした。実際、研究を学会発表した際には、臨床の先生から、同様の症状を確認しているが困っていることを伝えられております。研究をきっかけとして、オランザピンが非典型的な糖尿病をも発症させるということを世界の医薬学界に認識していただいて、今後、適切な処方と服用がなされることを望んでおります」と、森教授らは述べている。

京都大学理学研究科・理学部
Antipsychotic olanzapine-induced misfolding of proinsulin in the endoplasmic reticulum accounts for atypical development of diabetes(eLife 2020年11月17日)
[Terahata]

関連ニュース

2020年12月18日
週1回投与デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬「Tirzepatide」 2型糖尿病患者のHbA1cおよび体重を有意に減少
2020年12月16日
肥満状態では肝臓などの血糖制御ネットワークの変化は広範に及ぶ 血糖恒常性の破綻である2型糖尿病のメカニズムを解明
2020年12月15日
MR拮抗薬「フィネレノン」が2型糖尿病を合併するCKD患者の心血管系アウトカムで一貫した有用性を示す 心血管疾患の既往の有無にかかわらず
2020年12月15日
【新型コロナ】抗原定性検査キット「Rapiim SARS-CoV-2-N」を発売 微量なウイルス抗原を15分で検出 横浜市立大との共同研究をもとに開発
2020年12月14日
【新型コロナ】COVID-19ワクチンがついに実用化 米国でも緊急使用許可 ワクチン接種には課題も
2020年12月11日
SGLT2阻害薬「ジャディアンス」が初回および再発の心血管イベントリスクを減少 心血管疾患既往の2型糖尿病患者で EMPA-REG OUTCOME試験の新たな解析結果
2020年12月11日
【新型コロナ】運動・スポーツを通じて健康二次被害を防ぐポイントは? スポーツ庁がガイドラインを公表
2020年12月09日
【新型コロナ】COVID-19入院患者の1.85%が⾎栓症 抗凝固療法は14.5%に施⾏ 日本初のCOVID-19関連⾎栓症の調査
2020年12月09日
【新型コロナ】コロナ禍で食生活はどう変化した? 在宅ワークは野菜と果物の増加に貢献 子育て時間が増えた人では悪影響も
2020年12月04日
「フォシーガ」が慢性心不全に対する効能・効果の追加承認 2型糖尿病合併の有無に関わらず、慢性心不全治療薬として国内で最初に承認されたSGLT2阻害薬に

関連コンテンツ

編集部注:
  • 海外での研究を扱ったニュース記事には、国内での承認内容とは異なる薬剤の成績が含まれています。
  • 2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わすようになりました。過去の記事は、この変更に未対応の部分があります。ご留意ください。
ページのトップへ戻る トップページへ ▶