「日本糖尿病学会・日本循環器学会 合同ステートメントの背景」 第63回日本糖尿病学会年次学術集会レポート(3)

第63回日本糖尿病学会年次学術集会
シンポジウム20「合同ステートメントの背景」

シンポジスト:荒木栄一(熊本大学大学院生命科学研究部総合医薬科学部門代謝・循環医学講座代謝内科学分野)、稲垣暢也(京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学)、室原豊明(名古屋大学循環器内科)、杉山雄大(国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センター)、田中敦史(佐賀大学医学部循環器内科)、野出孝一(佐賀大学医学部循環器内科)
座長:荒木 栄一(熊本大学大学院生命科学研究部 代謝内科学)、野出 孝一(佐賀大学医学部循環器内科)
糖尿病と循環器疾患に関する最新のエビデンスに基づいたコンセンサスが集約
 日本糖尿病学会(JDS)と日本循環器学会(JCS)は、2020年3月に「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」(以下、合同ステートメント)を発刊した。本シンポジウムでは、合同ステートメントを執筆した先生方が合同ステートメント作成の背景やポイント、今後の予定について講演した。

 座長であり、1人目のシンポジストである荒木栄一氏は「合同ステートメントの背景」と題して、JDSとJCSの合同委員会発足から合同ステートメントの作成と発行に至った背景、合同ステートメントの構成を紹介した。荒木氏は、合同ステートメントは、糖尿病と循環器疾患に関する最新のエビデンスに基づいたコンセンサスが集約され、1診断、2予防・治療、3紹介基準の3つのパートから構成されていると述べた。
糖代謝異常の評価
 シンポジスト2人目の稲垣暢也氏は「糖代謝異常の評価」と題して、糖尿病の病態と成因による分類とその特徴、糖尿病を診断するための検査、糖尿病の診断基準と臨床診断のフローチャートを解説した。

 1回の血液検査で糖尿病と診断できる条件としては、HbA1cが6.5%以上、かつ空腹時血糖値126mg/dL以上または随時血糖値200mg/dL以上を満たすこととされている。1回の検査で糖尿病の診断に至らない場合には、空腹時血糖値が110~125mg/dL、随時血糖値140~199mg/dL、HbA1c値6.0~6.4%のいずれかであれば75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を施行することを強く推奨し、空腹時血糖値100~109mg/dL、HbA1c値5.6~5.9%のいずれかであれば75gOGTTを施行することが望ましいとされている。

 75gOGTT2時間値が高いほど全死亡(主に心血管イベントを示す)のリスクが高くなることが示されている。そのため、糖尿病と診断されなくても、境界型で75gOGTT2時間値が140~199mg/dL、正常型で75gOGTT1時間値が180mg/dL以上の場合には、高血圧症、脂質異常症、肥満などの心血管疾患の危険因子も併せて、食事療法や運動療法といった介入を積極的に開始することが重要であると述べた。
血糖値以外のリスク管理と冠動脈治療
 シンポジスト3人目の室原豊明氏は「2型糖尿病患者のリスクファクター管理と冠動脈治療」と題して、糖尿病患者の冠動脈疾患評価、心不全評価、心房細動評価、心房細動の治療、高血圧の管理、脂質異常症の管理、抗血小板薬の使用方法、糖尿病を合併する虚血性心疾患患者の治療などについて解説した。

 室原氏は最後に、糖尿病専門医から循環器専門医に紹介する患者として、高血圧症、脂質異常症、喫煙、家族歴、動脈硬化性疾患の既往がある患者、心電図などで異常または自覚症状のある患者、心不全を疑う症状や所見があり、BNP値100pg/mL以上またはNT-proBNP値400mg/mL以上の患者、心房細動確定または疑いの患者などを挙げた。
循環器疾患予防のためのライフスタイル改善とその効果
 シンポジスト4人目の杉山雄大氏は「循環器疾患予防のためのライフスタイル改善」と題し、運動療法、禁煙、食事療法、栄養摂取とそれらの効果を解説した。運動療法に関しては有酸素運動とレジスタンス運動に加えて、心臓リハビリテーション1の効果を紹介した。

 杉山氏は最後に、糖代謝異常者における大血管障害予防のための生活習慣として、禁煙は大血管疾患の発症を予防するだけでなく、糖代謝の悪化や腎症など他の合併症の進展を予防するため強く推奨されること、食事に関しては糖尿病患者においてもDASH食や地中海食が有効という報告があるものの主要栄養素の望ましい比率は提示されていないこと、体重の設定、脂質や食塩の摂取の目安を述べた。
循環器疾患予防のための糖尿病薬物治療
 シンポジスト5人目の田中敦史氏は「循環器病予防のための糖尿病薬物治療」と題し、循環器病(冠動脈疾患、心不全、心房細動)の診断と、大血管障害と心不全予防のための糖尿病薬物治療について解説した。

 田中氏は最後に、糖尿病患者の動脈硬化性心血管疾患の予防おいては、欧米同様に現時点で特定の薬剤を推奨すべきかどうかの結論には至っておらず、患者の病態に応じて、これまでに発表されているエビデンスも踏まえて薬剤を選択することが重要である。一方、糖尿病患者の心不全予防としては、生活習慣改善と危険因子に対する介入に加えて、心不全があるまたは心不全のリスクがある場合には、SGLT2阻害薬の使用を検討する必要があるとまとめた。

 座長であり、6人目のシンポジストである野出孝一氏は「JDS・JCS合同ステートメントの今後」と題して、英文化、実地医家向けのポケット版の作成を検討していること、今後発表される大規模臨床試験の結果や関連ガイドラインなどを反映した改訂、関連学会との連携などを予定していることを発表した。

1 心臓病の患者が体力を回復し自信を取り戻し、快適な家庭生活や社会生活に復帰するとともに、再発や再入院を防止することを目指して行う総合的活動プログラム。内容には、運動療法、学習活動、生活指導、相談(カウンセリング)などが含まれる。

参考:「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」(編集:日本循環器学会・日本糖尿病学会 合同委員会)

一般社団法人 日本糖尿病学会

第63回日本糖尿病学会年次学術集会
[Shiga]

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編集部注:
  • 海外での研究を扱ったニュース記事には、国内での承認内容とは異なる薬剤の成績が含まれています。
  • 2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わすようになりました。過去の記事は、この変更に未対応の部分があります。ご留意ください。
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