メトホルミンが認知機能低下を抑制する可能性

2020.10.01
 メトホルミンが高齢2型糖尿病患者の認知機能低下を抑制する可能性が報告された。メトホルミンを投与されている患者に対し、されていない患者の認知症新規発症オッズ比は5を超えるという。オーストラリアのGarvan Institute of Medical ResearchのKatherine Samaras氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Care」9月23日オンライン版に掲載された。

 2型糖尿病は、認知機能低下や認知症のリスク因子であることが知られている。糖尿病と認知症はともに世界的に増加しており、その対策が急務とされており、一部の血糖降下薬が認知機能に影響を及ぼすとの報告も見られる。こうした中、Samaras氏らは、認知症リスクを高める低血糖を起こしにくい血糖降下薬であるメトホルミンに着目。メトホルミン処方の有無と認知機能低下との関連を検討した。

 研究対象は、オーストラリアで実施されている地域在住高齢者の前向き観察研究の参加者のうち、ベースライン時に70〜90歳であった1,037人。認知症や神経・精神疾患、悪性腫瘍の既往を有する人は除外した。2年ごとに認知機能テストを行い、6年間追跡。また、一部の参加者にはMRI検査により、脳容積、海馬容積の変化を検討した。

 対象者1,037人のうち、糖尿病を有していたのは123人で、そのうち67人にメトホルミンが処方されていた。メトホルミンが処方されていた群と処方されていなかった群で、年齢や性別などの人口統計学的因子は類似していた。

 年齢、性別、教育歴、BMI、喫煙習慣、心疾患や高血圧、脳卒中の既往、アポリポ蛋白E4保有で調整の上、メトホルミンが処方されていた群を基準に処方されていなかった群の認知症発症頻度を比較すると、オッズ比5.29(95%信頼区間1.17~23.88、P=0.05)となった。また、認知機能テストのスコアの低下速度が抑制されていた。

 これによりSamaras氏らは、「メトホルミンを投与されている高齢糖尿病患者は、認知機能低下が遅く、認知症発症リスクが低い」と結論づけるとともに、「メトホルミンの長年の使用経験に裏付けられた安全性を踏まえると、同薬が認知症や認知機能低下に対する保護効果を有しているか否かを明らかにするため、糖尿病患者のみでなく、糖尿病のない高齢者をも対象に組み込んだ無作為化比較試験の実施が望まれる」と述べている。

 なお、一部の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

[HealthDay News 2020年9月23日]

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