血管の老化が糖尿病を引き起こす 血管内皮細胞の老化が脂肪細胞のインスリン作用不全を引き起こす

 血管内皮細胞が老化するとさまざまな有害物質を分泌し、脂肪細胞の早期老化を引き起こすことを、神戸薬科大学の研究チームが発見した。
血管老化が老化関連疾患の直接原因になることを証明
 超高齢化社会を迎えた日本では、平均寿命と健康寿命の間に10年もの開きがある状態が約20年間続いており、多くの日本人は晩年の10年間を不健康な状態で過ごしている。

 高齢化社会を健全に維持していくために、いかに健康寿命を延伸するかが、健康長寿を達成するために課題となっている。そのために、糖尿病・心不全・がんなどの老化と関連の深い疾患の発症・進展を予防することが重要だ。

 とくに糖尿病は脳卒中や心筋梗塞だけでなく、認知症の発症リスクも高めることも知られており、予防・治療が重要だ。

 そこで神戸薬科大学の研究チームは、血管の内層を覆う血管内皮細胞が老化すると、さまざまな有害物質を分泌し、脂肪細胞の早期老化を誘導し、脂肪細胞のインスリン作用不全を引き起こすことを明らかにした。
血管内皮細胞だけが老化したマウスを作出
 研究チームは、世界ではじめて血管内皮細胞だけが特異的に老化した遺伝子改変マウスの作出に成功し、このマウスで脂肪組織が早期老化に陥り、若齢の時から全身のインスリン感受性が低下して糖尿病予備群になることを確かめた。

 「人は血管とともに老いる」と言われるように、血管は全ての臓器にあり、全身を隈なく巡っており、老化において重要な役割を果たしている。「人の老化において血管の老化が中心的・原因的役割を果たしている」ことを解明した意義は大きい。

 将来的には、血管内皮細胞を標的とした新しい抗加齢療法(アンチエイジング)の開発につながることが期待される。

 研究は、神戸薬科大学臨床薬学研究室の池田宏二准教授や江本憲昭教授らによるもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載された。
血管内皮細胞の老化が全身の糖代謝を障害
 加齢にともない、体内ではさまざまな細胞が老化する。研究チームは、ヒト培養血管内皮細胞を用いて、分裂を繰り返したことによる複製老化、およびDNAストレスによる早期老化モデルを作成し、これら老化血管内皮細胞が分泌する物質を多く含む培養液を作成した。

 この培養液で脂肪細胞を培養すると、酸化ストレスが誘導されて、脂肪細胞が早期老化に陥ることが分かった。早期老化を起こした脂肪細胞ではインスリンシグナル伝達を仲介するIRS-1の発現が減少し、インスリンシグナル伝達不全が引き起こされることも判明した。

 インスリンは血糖値を下げるために必要不可欠なホルモンであり、インスリンの作用不全は糖尿病を引き起こす。細胞実験の結果から、血管内皮細胞の老化は脂肪細胞老化を引き起こして全身の糖代謝を直接的に障害する可能性が示された。

 研究チームは次に、血管内皮細胞だけが特異的に老化したマウスの作出を試みた。一般的に老化研究では、高齢のマウスを使用することが多いが、高齢マウスでは血管だけでなくさまざまな臓器・細胞の老化が同時並行で進行しているため、血管老化の影響だけを選別して解析することは不可能だ。
血管内皮が老化するとインスリン感受性が悪化
 テロメアに結合するタンパクである「TERF2」の優性阻害変異体(ドミナントネガティブ)は強いDNAストレスを誘導することで細胞老化を引き起こすことが報告されている。ドミナントネガティブ体を過剰発現させると、その遺伝子の機能が障害されるため、目的遺伝子の働きを特異的に阻害することができる。

 そこで研究チームは、血管内皮細胞特異的にTERF2ドミナントネガティブを発現するトランスジェニックマウスを作出した。このマウスでは若齢から血管内皮細胞だけが特異的に老化しており、その遺伝子発現様式の変化は自然老化に近いことが確認できた。

 この血管内皮特異的老化マウスは10週齢の時点では野生型と同等のインスリン感受性を示したが、20週齢になるとインスリン感受性が野生型より明らかに悪化することが分かった。

 さらに、20週齢の血管内皮特異的老化マウスでは脂肪組織が早期老化に陥り、IRS-1の発現が低下して脂肪のインスリンシグナル伝達が障害されていることを明らかにした。

 また、血管内皮特異的老化マウスに抗酸化剤を投与しておくと脂肪の早期老化が起こらず、全身のインスリン感受性低下が予防できることも判明した。
糖尿病発症の原因は血管の老化
 さらに、血液循環を共有するパラビオーシスモデルを用いた研究の結果、血管内皮特異的老化マウスで認める糖代謝異常は血液中に存在する分泌因子(群)によって引き起こされることを明らかにした。

 これらのことから、血管内皮細胞の老化は酸化ストレスによって脂肪細胞の早期老化を引き起こし、その結果、全身のインスリン感受性を低下させ、老化にともなう糖尿病発症の原因となることを明らかにした。

 今回の研究成果から、血管内皮細胞の老化が全身のインスリン感受性を低下させ、糖尿病や糖尿病予備群の原因になることが明らかになった。加齢にともなう糖尿病の発症に、血管の老化が原因的な役割を果たすことから、老化血管内皮細胞を標的とした新しい抗加齢療法の開発が期待される。

神戸薬科大学臨床薬学研究室
Endothelial progeria induces adipose tissue senescence and impairs insulin sensitivity through senescence associated secretory phenotype(Nature Communications 2020年1月24日)
[Terahata]

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