「高血圧治療ガイドライン2019」を公表 糖尿病患者の降圧目標は従来通り130/80mmHg未満 日本高血圧学会

2019.04.25
 日本高血圧学会は、5年ぶりに改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を発表した。このほど都内で記者会見を行い、JSH2019の改訂ポイントを紹介した。
 「高血圧への対策は、個人のレベルにとどまらず、社会全体で行う必要がある」と、同学会では強調している。

糖尿病患者の降圧目標は従来通り130/80mmHg未満

 日本高血圧学会は、5年ぶりに改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を発表した。

 新しいガイドラインで示された高血圧の基準値は従来通り、診察室血圧が140/90mmHgで、家庭血圧が135/85mmHg。

 正常高値血圧(120~129/80mmHg未満)以上のすべての者は、生活習慣の修正が必要で、高リスクの高値血圧者および高血圧者(140/90mmHg以上)では、生活習慣の修正を積極的に行い、必要に応じて降圧薬治療を開始することが推奨された(いずれも診察室血圧)。

 降圧目標は、診察室血圧が130/80mmHgで、家庭血圧が125/75mmHg。糖尿病患者、CKD患者(蛋白尿陽性)、抗血栓薬服用中の患者などの降圧目標も、従来通り130/80mmHg未満(家庭血圧は125/75mmHg未満)になった。

 ただし、75歳以上の高齢者の降圧目標は140/90mmHg未満とより強化され、さらに併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、75歳以上でも忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指す。

 糖尿病合併高血圧の降圧薬の選択について、微量アルブミン尿、蛋白尿がない糖尿病の場合は第一選択薬として、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、利尿薬を設定した。微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はARB、ACE阻害薬を選択する。

 糖尿病合併高血圧での薬物療法では、個々の降圧薬のインスリン感受性、糖代謝、脂質代謝に対する影響についての十分な配慮が必要としている。

「脳卒中・循環器病対策基本法」でも他業種の連携を推奨

 「NIPPON DATA 2010」などの調査によると、日本の高血圧有病者数は4,300万人に上るが、うち57%(2,450万人)しか治療を受けていない。さらに、治療を受けている患者の50%(1,200万人)しか血圧が基準である140/90mmHg未満にコントロールされていない。

 「単なる診断や治療法の開発のみでは解決できない。高血圧への対策は、個人のレベルにとどまらず、社会全体で行う必要がある」と、日本高血圧学会では強調する。

 厚生労働大臣が2012年に告示した「健康日本21(第二次)」では、2022年までの10年間に国民の収縮期血圧の平均値を4mmHg低下させる(男性 138mmHg → 134mmHg、女性 133mmHg → 129mmHg)ことが目標に掲げられている。

 高血圧対策を実効を上げるために、医療機関(かかりつけ医、看護師など)、保健師、管理栄養士、薬剤師、地域の行政機関、地域の産業界などが、密接に連携・協働する必要がある。

 こうした総合的な対策は、2018年に公布された「脳卒中・循環器病対策基本法」の中核をなすものだ。同法では、国民、地方行政、医療・保健機関、学協会、産業界を含め循環器病に関連するあらゆる分野のコミットメントを求めている。

 地域での高血圧診療でもっとも重要なのは、患者・家族と医療チームが十分なパートナーシップを築き、降圧目標に到達するための具体的な治療計画を設定・共有することだという。

自分の高血圧を知らない有病者は1,400万人

 かかりつけ医と保健師などが緊密に情報交換をして、患者個々の実状に合わせた効果的な保健指導を行い、経過をフォローすることが重要となる。また、住民・高血圧患者の家庭で日常をみているのは地域の保健師だ。

 「高血圧の早期発見・治療を促進するために、医師会、行政・保健機関、学協会などが密接に協力・連携する体制の確立は不可欠」と、高血圧学会は強調する。

 地域における高血圧対策で柱のひとつとなるのは、未治療患者の減少だ。高血圧の治療を受けていない有病者の数は1,850万人に上る。こうした現状を改善する優れた制度として、特定健診への期待は大きい。

 また、健診データと診療レセプトデータとの突合せにより、未受診者や治療未達成患者の同定を行い、治療の経過を追跡することも可能になってきた。保険者や行政機関の連携・協働により、データを有効に活用するシステムを構築することが急務になっている。

食塩摂取量を減らすために産学官のコミットメントが欠かせない

 日本人の高血圧の特徴として挙げられたのが、(1)食塩摂取量が多いこと、(2)肥満とメタボリックシンドロームの増加。日本人の食生活で大きな特徴となっているのは、食塩の摂取量が多いこと。日本高血圧学会は、社会全体として食塩節酒量を低下させる取組みを重視している。

 そのために、産学官の強いコミットメントが欠かせない。たとえば英国では、政府が主導し食品業者が商品の塩分制限の自主的な目標を設定し、食品の塩分量を徐々に提言した結果、成人の1日あたりの食塩節酒量は2006年には9.5gだっが、2011年には8.4gになり、15%の減塩に成功した。これに合わせて、2003年から2011年の間に脳卒中・心臓病による死亡が約40%減少したという。

 日本人の食塩摂取のかなりの部分が加工食品に起因する。減塩製品も味が改善され、数は増えているが、まだ十分に普及していないという。国民に対し減塩の重要性を啓発し、行政や産業界のコミットメントにより、減塩食品を一般家庭に普及させ、行政指導や栄養指導の現場で活用されるようにすることを求めている。

高血圧診療での「臨床イナーシャ」の克服も課題に

 高血圧の治療法は進歩しており、日本高血圧学会が治療ガイドラインを策定しているにもかかわらず、高血圧対策はいまだ不十分だ。同学会はその原因として、服薬アドヒアランスの不良、不適切な生活習慣とともに、「臨床イナーシャ(臨床的な惰性)」を挙げている。

 高血圧診療での臨床イナーシャは、「高血圧であるにもかかわらず治療を開始しない、または、ガイドラインで示されている降圧達成目標よりも高いにもかかわらず、治療を強化せず、そのまま様子をみること」だという。

 臨床イナーシャには、医療提供者、患者、医療制度の問題など、さまざまな因子が関与しているという。臨床イナーシャを放置することが、心血管疾患や腎臓病の発症に悪影響を及ぼしている。

 とくに日本の高血圧診療は高血圧を専門としない医療機関で行われることが多く、高血圧専門医と実地医家との連携、治療ガイドラインの浸透を推進すること、患者・一般に対して啓蒙・教育プログラムを提供することが求められている。

 患者にあわせて実地医家にも教育プログラムを提供することも重要だ。高血圧診療に携わる医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、保健師などに対する教育プログラムも充実させる必要があると指摘している。

特定非営利活動法人 日本高血圧学会
  高血圧治療ガイドライン

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