「HbA1c」を直接に酸化できる酵素を創製 シンプルで短時間の測定が可能に
2019.02.08
京都大学は、糖尿病診断マーカーである「HbA1c」臨床検査試薬に応用が可能な改変酵素「HbA1c ダイレクトオキシダーゼ(HbA1cOX)」の創製に成功したと発表した。タンパク質分解酵素を用いない「1ステップ法」により、従来のHbA1c測定試薬よりも、シンプルで短時間にHbA1cを測定できるようになるという。
協和メデックスが保有する酵素の構造を改変 HbA1cに直接作用する酵素を創製
研究は、京都大学大学院農学研究科の橋本渉教授、摂南大学の村田幸作教授、協和メデックスらの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。 臨床検査でさまざまなHbA1c測定試薬が開発され、使用されているが、近年開発された「HbA1c酵素測定法」は抗体を用いる方法に比べて、安価かつ扱いやすいという特長があり、普及が進んでいる。 現行のHbA1c酵素測定法は、糖化ペプチドオキシダーゼ(FPOX)を主要な酵素として使用するが、FPOXは大きな分子であるHbA1cと直接反応できない。そのため、前処理としてタンパク質分解酵素でHbA1cの分解処理を行い、生成されたF-VH(フルクトシルバリルヒスチジン)を測定することで、間接的にHbA1cを測定する(2ステップ法)。 タンパク質分解酵素を用いない「1ステップ法」はより簡便な測定法になると期待されるが、直接HbA1c分子に作用する酵素が自然に見つからない、あるいは作ることができないことから、実現していなかった。 研究グループは今回、協和メデックスが保有する酵素「AnFPOX-15」の構造を改変させることで、HbA1cに直接作用する酵素「HbA1cOX」を創製し、HbA1cの1ステップ酵素測定法を開発することを目的に研究を開始。 AnFPOX-15は本来、直接HbA1cに作用することができない酵素。構造改変の手がかりを得るためにAnFPOX-15のX線結晶構造解析を行ったところ、AnFPOX-15の活性部位の入口が、大きな分子であるHbA1cにとって狭すぎて直接反応できないことが分かった。 そこで、活性部位の入口を形成するアミノ酸(R61:61位アルギニン)を、より小さなアミノ酸(G61:61位グリシン)に置き換えて、入り口を拡張するように構造を改変したところ、HbA1cへの反応性のきっかけとなる新たな反応性を得るのに成功した。 さらに、ランダム変異(分子進化的手法)を織り交ぜて改変を進め、反応性を段階的かつ飛躍的に上昇させた。最終的にAnFPOX-15を構成するアミノ酸のうち10個を置き換えることによって、改変酵素「AnFPOX-47」を取得。 このAnFPOX-47が、タンパク質分解酵素を用いなくてもHbA1cと直接反応できる酵素、すなわち「HbA1cOX」であると、世界ではじめて実験的に証明することに成功した。 そこで、AnFPOX-47を使用してHbA1cの測定試薬を試作したところ、臨床の場で使用されている既存のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による測定法と良好な相関が得られることがわかり、新しい測定法として機能することが示された。 研究グループは現在、創製したHbA1cOX(AnFPOX-47)を用いて実用的なHbA1c測定試薬(臨床検査薬)の開発を進めている。今後は、世界的な要求に応えるべく開発を推進し、1日も早く実用化したい、と述べている。 Creation of haemoglobin A1c direct oxidase from fructosyl peptide oxidase by combined structure-based site specific mutagenesis and random mutagenesis(Scientific Reports 2019年1月30日)[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]