世界糖尿病デー 「リリー インスリン50年賞」 インスリン治療を続けて50年

2018.11.15
 インスリン治療を50年以上継続している糖尿病患者を表彰する「リリー インスリン50年賞」の表彰式が、世界糖尿病デーを前に東京で開催された。第16回にあたる今年は23名が受賞した。

「リリー インスリン50年賞」日本では142人が受賞

 「リリー インスリン50年賞」は、インスリン治療を50年以上継続している糖尿病患者を称えるために、米国でイーライリリー社が1974年に設立した。これまでに米国を中心に1万4,000名以上の患者が受賞している。日本でも2003年より表彰が開始され、これまでに142名の患者が受賞している。

 第16回となる今年は23名が受賞した。50年以上にわたる糖尿病やインスリン治療の道のりを振り返りながら、糖尿病患者への励ましのメッセージを熱く語った。受賞者には、名前を刻印した銀製のメダルと、世界糖尿病デーのシンボルカラーの「青いバラ」のコサージュが贈られた。

第16回「リリー インスリン50年賞」表彰式
今回授賞された方々
五十嵐義男さん(東京都、インスリン治療歴53年)、岩田和子さん(東京都、同51年)、大岩しずりさん(愛知県、同50年)、加藤 武さん(岩手県、同53年)、神田光子さん(長野県、同50年)、續世津子さん(大阪府、同52年)、福島昭男さん(岡山県、同54年)、堀田梅雄さん(大阪府、同51年)
※23名が受賞し、うち18名が表彰式に参加。公開を了承した受賞者の情報のみ公開されています。

「リリー インスリン50年賞」のこれまでの受賞者プロフィールは下記サイトで紹介されています。

インスリン療法を続けて50年 これから始める人に元気と勇気を

 「リリー インスリン50年賞」の受賞者は、インスリン製剤の進歩に歩調を合わせるようにして人生を歩んだといえる。受賞者がインスリン療法を開始した1960年代には、糖尿病患者は現在では考えられないような多くの困難を乗り越えなければならなかった。

 50年間インスリン治療を続けるために、患者がその家族、主治医や医療スタッフと三人四脚で取り組んだ。受賞者の主治医からは「インスリン治療を頑張っていらっしゃる方、インスリン治療をこれから始めようという方に、受賞した方々のお姿を見てもらうことで、元気と勇気を感じてもらいたい」というコメントが聞かれた。

 受賞者のひとりは25歳のときに1型糖尿病を発症。「インスリン製剤や注射器などのデバイス、血糖自己測定器などの進歩には目を見張ります。今は昔と違い、インスリン注射をするのが本当に楽になりました。インスリンさえあれば、どこへでも行けると実感しています」と言う。

 もうひとりの受賞者は0歳で1型糖尿病を発症。「50年間インスリン治療を続けるために、大切な家族と、主治医や医療スタッフの方々とともに取り組んだ。まだ幼い頃、冬の夜中に低血糖になり病院へ行き、帰りに交通手段がなくて父が私をおんぶして歩いて帰ってくれたことを覚えている」と語った。

 27歳で1型糖尿病を発症した受賞者は「糖尿病と診断された頃は、糖尿病の女性は子どもを産めないと言われていたが、諦めたくなかった。それが、糖尿病専門医や産科の先生や医療スタッフの皆さまのチームワークによって、無事に赤ちゃんを出産できた。おかげでいまでは孫にも恵まれている。50年間、インスリン治療を続ける原動力になっています」と言う。

 0歳で1型糖尿病を発症した受賞者は「インスリン療法を始めた50年前は、低血糖を起こすのが恐かった。いまでは、インスリン製剤が進歩しており、低血糖を起こす頻度は少なくなった。血糖値を測ってコントロールをしていけば、周りと変わらず無事でいられる。この50年賞が患者さん同士の励みになればいいと思っている」と感動をあらわした。

50年前のインスリン療法は多くの困難を伴った

 インスリン製剤や注入器は50年間にめざましく進歩し、インスリン療法を開始・継続する患者の負担は軽くなっている。現在は、患者の病態や治療に合わせて、作用の現れる時間や持続する時間の異なるさまざまなタイプのインスリン製剤が開発されており、インスリン製剤の選択肢は広がっている。

 インスリンは20世紀最大の医薬品の発明ともいわれる。インスリンは1921年にカナダのトロント大学のフレデリック バンティングとチャールズ ベストによって発見された。その翌年にイーライリリー社がはじめてインスリンの製剤化に成功。1923年に世界で最初のインスリン製剤「アイレチン」が発売され、治療に使われるようになった。当時インスリンはミラクル(奇跡)の薬といわれるほど貴重だった。

 日本でインスリン自己注射の保険適用が始められたのは1981年になってからのこと。それまでは自宅でのインスリン自己注射は認められておらず、注射は原則として病院など医療機関で行わなければならなかった。また、血糖自己測定が保険適用になったのは、1986年になってからだ。

インスリン療法はめざましく進歩している

 50年前は、速効型インスリンや中間型インスリンしかなく、現在治療に使われている使いやすいペン型注入器や、注入器とインスリン製剤が一体になったキット製剤もなかった。

 インスリン療法を行っている患者は、バイアル(注射剤を入れるための容器)から製剤を吸い出して注射をした。当時の注射針は太く長く、注射には痛みが伴い、使用するごとに煮沸消毒が必要だった。

 イーライリリー社が遺伝子組換えによる世界初のヒトインスリン製剤を発売したのは1982年のこと。ヒトインスリン製剤はヒトと同じアミノ酸の並び方で作られており、副作用が少ない。さらに同社は、2001年に超速効型インスリンアナログであるインスリンリスプロ(ヒューマログ)を、2005年にインスリンリスプロ混合製剤を、それぞれ日本で発売した。

 現在では、健康な人のインスリン分泌パターンを再現するために、多種多様なインスリン製剤が使われている。インスリン療法は個々の病状や生活に合わせて、より安全に行える時代になった。より生理的なインスリン動態に近づけたインスリン製剤も開発され、多くの糖尿病患者の血糖コントロールに役立てられている。

 インスリン注入器も進歩している。一見すると注入器と分からないようなペン型のインスリン注入器が1990年代に使われるようになり、あらかじめインスリン製剤がセットされ、ペン型の注入器と一体になっているディスポーザブル製剤も登場し、インスリン療法の利便性は増している。

 注射針も31G(0.25mm)、32G(0.23mm)といったきわめて細く短いものが使われており、インスリン療法を始めた患者からは「痛みを感じないので驚いた」という声がよく聞かれる。

糖尿病に負けないという気持ちが大切

 日本糖尿病協会理事で東京女子医科大学東医療センター病院長の内潟安子先生は、「50年賞を受賞した患者さんと主治医の先生方に、心から敬服とお祝いを申し上げます。50年前は糖尿病の治療選択肢は非常に乏しくご苦労も多かったと思いますが、本日皆様のお顔を拝見して、感謝と喜びの表情にあふれていることに非常に感激いたしました。インスリン製剤やデバイスなどは進歩していますが、なにより大切なのは、患者さんの糖尿病に負けないという気持ちです」と、受賞者たちの姿に感動の意をあらわした。

 日本糖尿病学会監事で東京女子医科大学糖尿病センター内科教授の馬場園哲也先生は、「お元気に50年間インスリン治療を続けてこられたことは大変に貴重なことで敬服いたします。35年前の夏にヤングの1型糖尿病の患者さんの会に参加したとき、育ち盛りの小児の患者さんが2.5cc、40単位のインスリンを注射しておられるのを見て驚きました。現在の日本は糖尿病治療の選択肢が増えています。適切に自己管理すれば、糖尿病でない人とほとんど変わらない寿命をまっとうすることが可能です」と、述べた。

「リリー インスリン50年賞」のこれまでの受賞者プロフィールは下記サイトで紹介されています。

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