STAT3阻害薬で糖尿病モデルマウスの血糖値を改善 効率的なインスリン産生細胞作製法を開発 順天堂大学

 順天堂大学は、転写因子STAT3シグナルが、膵前駆細胞や腺房細胞からβ細胞へのリプログラミングを制御することを見出し、STAT3阻害薬を用いて糖尿病モデルマウスの血糖値を改善することに成功した。
短期間により多くのβ細胞をつくる方法を開発
 研究グループは、糖尿病の根治を可能とするβ細胞をつくることを目標に研究しており、今回の研究ではSTAT3シグナルがβ細胞へのリプログラミングを制御する新たな分子機構を解明し、短期間により多くのβ細胞をつくる方法を開発するのに成功。マウスの糖尿病を改善することに成功した。

 STAT3は、免疫系の制御、細胞の分化、増殖、細胞死といった多様な生体調節機構において重要な役割を担う転写因子だ。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の三浦正樹助手、宮塚健准教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもので、詳細は英科学誌「EbioMedicine」オンライン版に公開された。

 糖尿病は、膵β細胞から分泌されるインスリンの相対的・絶対的不足により発症する。糖尿病根治のためには失われたインスリン分泌を補う必要があり、インスリン産生細胞であるβ細胞を補充する糖尿病再生医療が注目されている。

 膵前駆細胞や腺房細胞は、β細胞と同じ発生学的起源を持ち、β細胞へと分化転換する可塑性のある細胞。研究グループはこれまでの研究で、ヒトやマウスの腺房細胞から膵管様細胞への分化転換で転写因子STAT3の活性化が不可欠であることを見出していた。

 このことから、膵前駆細胞や腺房細胞からβ細胞へのリプログラミング過程において、STAT3の活性化が何らかの役割を担っているのではないかと考え、マウス膵前駆細胞株と遺伝子改変マウスを用いて検証を行った。
STAT3シグナル抑制でβ細胞数が増加
 研究グループはまず、マウス膵前駆細胞株(mPAC細胞)を用いてリプログラミング過程におけるSTAT3活性化の役割を検討した。はじめに転写因子Pdx1またはMafaをmPAC細胞に発現させると、STAT3の活性化(リン酸化)がみられた。

 次に、3つの転写因子Pdx1、Neurog3、Mafaを同時にmPAC細胞に発現させると、β細胞新生が誘導されたが、β細胞ではSTAT3の活性化は抑制されていた。Pdx1は膵臓の初期形成に不可欠な転写因子で、成熟β細胞にも強く発現している。Pdx1の遺伝子異常は糖尿病の原因のひとつだ。また、Mafaは成熟β細胞の機能維持に不可欠な転写因子。

 このことから、3つの転写因子が発現した細胞で、STAT3シグナルを抑制することがβ細胞新生を誘導するという仮説を立てた。そこで、Pdx1、Neurog3、Mafaを発現させたmPAC細胞でアデノウイルスやSTAT3阻害薬を用いてSTAT3シグナルを抑制したところ、β細胞数が増加し、反対にSTAT3を恒常的に活性化させるとβ細胞数は減少した。これらの結果は、STAT3シグナルの活性化がβ細胞へのリプログラミングを負に制御することを示唆している。
STAT3を標的とした新たなβ細胞作製法の可能性
 次に、生体内におけるSTAT3の役割を検討するために、β細胞新生モデルマウスでStat3遺伝子を欠失させたところ、Stat3欠失マウスの膵臓では新生β細胞数が増加し、複数の新生β細胞が一塊となった膵島様構造を形成することが判明。さらに、糖尿病モデルマウスの膵臓にアデノウイルスを用いてPdx1、Neurog3、Mafaを発現させ、STAT3阻害薬(BP-1-101)を投与することで高血糖を改善することに成功した。
 最近、STAT3遺伝子の変異が新生児糖尿病の原因となることが報告されており、ヒトの膵臓発生においてもSTAT3シグナルがβ細胞分化を制御する可能性が示唆されている。今回の研究で、STAT3阻害薬を投与することによりβ細胞新生を効率化し、糖尿病マウスの血糖値を改善することに成功したことで、STAT3を標的とした新たなβ細胞作製法の可能性が開けてきた。

 現在、STAT3阻害薬は抗悪性腫瘍薬としての臨床応用が期待されており、同薬の安全性が確立されれば、糖尿病再生医療への応用も期待できるという。研究グループは、今回の研究成果をもとに、より多くのβ細胞を効率的に作製することにより、糖尿病根治に向けた新たな治療法を開発していきたいとしている。

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学
Suppression of STAT3 signaling promotes cellular reprogramming into insulin-producing cells induced by defined transcription factors(EBioMedicine 2018年9月25日)
[Terahata]

関連ニュース

2019年03月01日
糖尿病治療をサポート 持続血糖測定器「Dexcom G4 PLATINUMシステム」を発売 リアルタイムでグルコース濃度の変動を確認 テルモ
2019年02月28日
2型糖尿病患者「冬に数値が悪化」 HbA1cなどは季節変動している JDDMデータベースを解析
2019年02月28日
糖尿病の運動療法に新展開 運動により増えるアディポカインが糖代謝を改善 ジョスリン糖尿病センター
2019年02月26日
世界最短・最細の注射針「ナノパスJr.」を発売 「こわくない注射針」がコンセプト
2019年02月22日
中年期に高血糖でも適切に管理すれば循環器病リスクは低下 国立循環器病研究センター
2019年02月22日
2型糖尿病患者への肥満手術でインスリンが不要に 肥満手術の術後早期の血糖上昇抑制のメカニズムを解明 徳島大
2019年02月22日
運動が心筋梗塞発症後の腎機能低下を防ぐ 歩数が多いほどeGFRが良好に 患者の自主的なウォーキングがカギに
2019年02月19日
アルコールががんや生活習慣病を引き起こす「少酒の勧め」 全国生活習慣病予防月間2019 公開講演会 レポート
2019年02月19日
日本腎臓学会と日本糖尿病学会の専門医間の紹介基準を作成 両学会の連携を強化
2019年02月15日
糖尿病治療薬の薬剤料 2017年度は4,271億円に増加 SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の処方が増える

関連コンテンツ

編集部注:
  • 海外での研究を扱ったニュース記事には、国内での承認内容とは異なる薬剤の成績が含まれています。
  • 2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わすようになりました。過去の記事は、この変更に未対応の部分があります。ご留意ください。
ページのトップへ戻る トップページへ ▶