2型糖尿病の治療薬「SGLT2阻害薬」の新たな効果 カナグリフロジンがNASHおよびNASH肝がんの発症を遅延・抑制

2018.02.16
 東京医科歯科大学の小川佳宏教授らは、九州大学、名古屋大学、田辺三菱製薬との共同研究により、2型糖尿病の治療薬として使われているSGLT2阻害薬「カナグリフロジン」の経口投与が、脂肪肝から脂肪肝炎(NASH)を経て、肝細胞がん(NASH肝がん)を発症するのを遅延・抑制することをはじめて見出したと発表した。
 すでに糖尿病治療薬として臨床で使われているSGLT2阻害薬がNASHおよびNASH肝がんの予防に有用である可能性がある。

脂肪肝はNASHを経て、NASH肝がんに進展 予防・治療法は未確立

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はメタボリックシンドロームの肝臓での表現型と考えられており、進行すると非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を経て、肝硬変や肝細胞がん(NASH肝がん)に至る。しかし、NAFLDの発症・進展予防には、減量以外に確立された治療法がないことが大きな問題となっている。

 研究グループはこれまでの研究で、SGLT2阻害薬が肥満マウスの脂肪組織重量の増加を伴って脂肪肝を抑制することを確かめていた。しかし、NASHおよびNASH肝がんに対する効果は不明だった。

 研究グループは、独自に開発したNASHモデルマウスを用いて、SGLT2阻害薬「カナグリフロジン」のNASHおよびNASH肝がんに対する予防効果を検討した。カナグリフロジンは2型糖尿病に対する治療薬として、すでに臨床現場において使用されている。

カナグリフロジンが脂肪細胞のエネルギー蓄積能を増加させ、肝臓への脂肪蓄積を減少

カナグリフロジンはNASHモデルマウスの脂肪細胞のエネルギー蓄積能を増加させ、肝臓でNASHおよびNASH肝がんの発症を遅延・抑制する
 研究グループは、NASHモデルマウスにカナグリフロジンを経口的に投与することで、脂肪肝、NASH、およびNASH肝がんの発症を遅延・抑制できることを確かめた。

 さらに、カナグリフロジンはNASHモデルマウスの脂肪組織でのグルタチオン代謝を「還元型グルタチオン」優位に変化させ、脂肪組織のエネルギー蓄積能を増加させることを明らかにした。

 グルタチオンには還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)があり、GSHとGSSGの比率は、酸化ストレスの指標となる。GSHは細胞障害につながる活性酸素種を消去する働きをもつ。
カナグリフロジンがNASHモデルマウスの肝線維化および肝がん(黒矢印)発症を遅延・抑制

臓器代謝ネットワークを介した新たなエネルギー代謝制御機構

 今回の研究により、既存の糖尿病治療薬が、NASHモデルマウスの脂肪肝からNASHを経たNASH肝がんの発症を遅延・予防することが明らかになった。さらに、腎臓からのグルコースの尿中排出の結果、脂肪組織のエネルギー蓄積能を増加させて肝臓の脂肪蓄積を抑制するものと考えられ、臓器代謝ネットワークを介した新たなエネルギー代謝制御機構が示唆された。

 この研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子細胞代謝学分野および九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野の小川佳宏教授、東京医科歯科大学医学部附属病院の土屋恭一郎助教(現・山梨厚生病院)、同大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝内科の柴久美子大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「サイエンティフィック リポーツ」オンライン版に発表された。

 研究は、日本医療研究開発機構の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」研究開発領域における研究開発課題「細胞間相互作用と臓器代謝ネットワークの破綻による組織線維化の制御機構の解明と医学応用」(研究開発代表者:小川佳宏教授)の一環で行われた。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子細胞代謝学分野
九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野
Canagliflozin, an SGLT2 inhibitor, attenuates the development of hepatocellular carcinoma in a mouse model of human NASH(Scientific Reports 2018年2月5日)

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