免疫チェックポイント阻害薬に関連した「劇症1型糖尿病」の発症 日本糖尿病学会が疫学調査を実施

2017.03.03
 免疫チェックポイント阻害薬である「抗ヒトPD-1/PD-L1抗体」の投与に関連した1型糖尿病の発症が日本でも報告されている。これを受けて、日本糖尿病学会では、「抗ヒトPD-1/PD-L1抗体投与後」に発症する1型糖尿病の臨床像や発症リスク、病態、発症時の対応などを明らかにすることを目的とした疫学調査を行っている。

「ニボルマブ」(オプジーボ)に1型糖尿病の副作用

 抗PD-1抗体をはじめとする「免疫チェックポイント阻害薬」については、すでに承認された「ニボルマブ」(商品名:オプジーボ)だけでなく、日本でも治験が進められている抗PD-1抗体の「ペンブロリズマブ」についても劇症1型糖尿病の発症が報告されている。

 日本糖尿病学会は、こうした「免疫チェックポイント阻害薬」を臨床もしくは治験の現場で使用されるがん薬物療法の専門家に対し、劇症1型糖尿病についても熟知し、これら薬剤の適正かつ安全に使用するよう注意を呼び掛けている。

 また、糖尿病専門医には、「免疫チェックポイント阻害薬」が劇症1型糖尿病を含む1型糖尿病の原因となりうることを承知し、各施設のがん薬物療法専門医などとの連携や劇症1型糖尿病に関する啓発に努めるよう要望している。

抗ヒトPD-1/PD-L1抗体投与後に発症する1型糖尿病に関する疫学調査(日本糖尿病学会)

「劇症1型糖尿病」の可能性を念頭に入れる必要がある

 抗PD-1抗体をはじめとする「免疫チェックポイント阻害薬」は、新たな機序による抗がん治療として注目されているが、そのうちヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体である「ニボルマブ」(商品名:オプジーボ)については、日本臨床腫瘍学会が2016年1月に適正使用について声明を出し、主に肺臓炎に関する注意喚起を行った。

 「ニボルマブ」などの免疫チェックポイント阻害薬による免疫反応活性化にともなう免疫学的有害事象として、甲状腺炎(甲状腺機能低下症など)、下垂体炎(下垂体機能低下症など)などとともに、1型糖尿病の発症が見られることが報告されている。「ニボルマブ」については添付文書上も「1型糖尿病(劇症1型糖尿病を含む)」が副作用として明記されている。

 1型糖尿病は膵β細胞の破壊により絶対的インスリン欠乏に陥る疾患だ。中でも劇症1型糖尿病は、極めて急激な発症経過をたどり、糖尿病症状出現から早ければ数日以内にインスリン分泌が完全に枯渇して、重篤なケトアシドーシスに陥る病態だ。適切に診断し、ただちにインスリン治療を開始しなければ死亡する可能性が非常に高い緊急事態となる。

 しかし、劇症1型糖尿病の可能性が念頭にないと、偶発的な高血糖として経過観察とされたり、通常の2型糖尿病として誤った対応がなされて不幸な転帰をたどることも少なくない。

「ペンブロリズマブ」でも劇症1型糖尿病が報告

 免疫チェックポイント阻害薬使用中に急激な血糖値の上昇、もしくは口渇・多飲・多尿・全身倦怠感などの糖尿病症状の出現を見た際には、劇症1型糖尿病の可能性を考慮し、糖尿病専門医との緊密な連携のもと早急な対処が必要となる。患者に対しても、劇症1型糖尿病の可能性や、注意すべき症状についてあらかじめ十分に説明しておくことが求められる。

 劇症1型糖尿病は日本で確立された疾患概念で、患者は日本を中心とする東アジア諸国に多くみられ、これまで欧米ではほとんど報告がなかった。したがって、日本では欧米よりも高率に劇症1型糖尿病を併発する可能性も想定される。

 また、すでに承認された「ニボルマブ」のみでなく、日本でも治験が進められている抗PD-1抗体の「ペンブロリズマブ」についても劇症1型糖尿病の発症が報告されている。

劇症1型糖尿病診断基準(​2012)
 下記1~3のすべての項目を満たすものを劇症1型糖尿病と診断する。
1. 糖尿病症状発現後1週間前後以内でケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る(初診時尿ケトン体陽性、血中ケトン体上昇のいずれかを認める)。
2. 初診時の(随時)血糖値が288mg/dl以上であり、かつHbA1c値(NGSP)<8.7%*である。
3. 発症時の尿中Cペプチド<10µg/day、または、空腹時血清Cペプチド<0.3ng/mlかつグルカゴン負荷後(または食後2時間)血清Cペプチド<0.5 ng/mlである。
* 劇症1型糖尿病発症前に耐糖能異常が存在した場合は、必ずしもこの数字は該当しない。

免疫チェックポイント阻害薬に関連した1型糖尿病ことに劇症1型糖尿病の発症について(日本糖尿病学会)

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