【第50回糖尿病学の進歩レポート】 2型糖尿病に対する薬物療法の最前線 血糖降下薬のグッドチョイス

2016.02.26
第50回糖尿病学の進歩
 2月19日~20日に東京国際フォーラムで開催された第50回糖尿病学の進歩(世話人:内潟安子・東京女子医科大学糖尿病センターセンター長)で、シンポジウム「2型糖尿病に対する薬物療法の最前線」が開催された。

経口血糖降下薬のグッドチョイス 血糖コントロールを超えて

 福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科の野見山崇氏は「糖尿病患者の未来を護る経口血糖降下薬のチョイス~beyond the BG control~」と題し講演。2型糖尿病の治療薬として1980年代まではインスリン治療とビグアナイド薬、SU薬による治療しか選べなかったものが、1990年代に入りαグルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン誘導体、グリニド系薬剤が使用可能になり、21世紀に入りDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬が使用可能になり、今日の糖尿病診療は一変した。

 インクレチン関連薬が使用できるようになってから、β細胞保護をふまえて、より安全に血糖コントロールできるようになってきた。他の経口血糖降下薬やインスリンなどの併用可能になったことで、それまで難渋していた症例への新たな治療が可能になり、患者の生活の質と寿命を確保するという目標に寄与しえる薬剤選択が視野に入ってきたといえる。

 DPP-4阻害薬は肥満を助長しにくく、低血糖を起こしにくいという特徴から、糖尿病治療の主軸を担う薬剤となっている。野見山氏らは2012年にDPP-4阻害薬が痩せ型で罹病期間が短い日本人2型糖尿病患者で有効であることを明らかにした(Diabetes Res Clin Pract. 2012 Feb; 95(2): e27-8)。DPP-4阻害薬を投与し動脈硬化の進展を抑制することで、将来の心血管イベントの発症を予防できる可能性を示した日本発の知見も示された(Diabetes Care. 2016 Jan; 39(1): 139-48)。

 「DPP-4阻害薬の適応が広がる理由のひとつは、一部が腎機能や肝機能が低下した意者にも投薬可能であることだが、DPP-4阻害薬は薬剤間で構造式が大きく異なり、心不全のリスクをはじめとした安全性に違いが有ることが最近の臨床試験で明らかにされつつあり、注意深く選択する必要がある」と野見山氏は指摘する。

 また、メトホルミンは古くから使用されている安価で使用しやすい抗糖尿病薬であるが、日本で750mg/日を超えて使用が可能になったのはつい最近のことだ。グルカゴンシグナル抑制作用など新たなメカニズムも解明されつつあり、有効性が大きく見直されている。野見山氏はメトホルミンを第一選択薬として治療された2型糖尿病患者はSU薬を投与された患者に比べ心血管イベントが有意に少ないこと(BMC Endocr Disord. 2015 17;15:49)や、モデル動物においてインクレチンとメトホルミンの併用が相乗効果でがんを抑制すること(PLOS One 2015 6; 10(10): e0139709)を明らかにした。

 グリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬は食後高血糖をターゲットとした薬剤で、血糖変動が重要視される近年の糖尿病診療では重要な役割を担っている。グリニド薬の中ではグルカゴンに対する作用に違いがあり、ピオグリタソンはアディポネクチンを上昇させる経口血糖降下薬であり、血管保護作用も臨床研究で報告されている。

 さらに、最も新しいクラスの経口血糖降下薬であるSGLT2阻害薬はさまざまなな懸念もあったが、現在はもっとも注目されている薬剤だ。EMPA-REG OUTCOMEではSGLT2阻害薬が主要エンドポイント心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)を有意に減少させ、特に心血管死が約4割も減少したことが示され(N Engl J Med. 2015; 373:2117-2128)、注目されている。

症例ごとの個別的な血糖管理目標を設定すること

 聖マリアンナ医科大学 代謝・内分泌内科の田中逸氏は「薬物療法総論」と題し講演。現在、日本で使用されている薬剤は経口薬が7種類、注射薬がインスリンとGLP-1受容体作動薬の2種類で、いずれも適応と禁忌と慎重投与を順守することが求められる。とくに、ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬については日本糖尿病学会が適正使用のためのリコメンデーションを出して注意を呼び掛けている(ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendationインクレチン(GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬)の適正使用に関するRecommendationSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation )

 「薬物治療でもっとも重要なことは、症例ごとに個別的な血糖管理目標を設定することだ。安全な妊娠・ 出産の場合は完全な正常レベル、糖毒性解消を図る場合はほぼ正常に近いレベル、慢性合併症の予防にはHbAlc7%未満、高齢者でフレイルや認知症など併存疾患の多い場合は8.5%未満程度が目標となる。加えて重症低血糖を伴わないことが重要となる」と、田中氏は指摘する。

 さらに膵β細胞になるべく負担をかけないことに配慮する必要もある。これらの点をふまえた薬剤の選択と上手な用量調節が求められる。また超高齢社会と総医療費抑制をふまえて、ジェネリックやバイオシミラー、配合剤などの適切な使用も考慮する必要がある。

 また、糖尿病の薬物療法がいくら進歩しても、食事療法と運動療法と合わせて行うのが基本であることは変わらない。食事療法と運動療法を励行しない患者に薬物療法を開始しても目標の血糖コントロールに到達しないケースが少なくなく、たとえ血糖コントロールが改善しても余分な糖質や脂質が体脂肪として蓄積され、次第に体重増加をきたすことが多い。米国では1型糖尿病患者が過食とインスリン増量により、2型糖尿病患者のような肥満に陥ったケースを「3型精尿病」と呼称している。

インスリンとDPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬の併用は安全性を第一に優先

 東邦大学医学部医学科内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野の内野泰氏は「進んでいくインスリン治療選択肢とその注意点」と題し講演。2型糖尿病患者においては、経口血糖降下薬による治療やインスリン療法のみでは、良好な血糖コントロールが得られないことがあり、より厳格な血糖コントロールを目的として、インスリン療法に加えて血糖降下薬を併用することが日常診療で行われているが、ときに低血糖が発現し問題になっている。

 DPP-4阻害薬は低血糖を起こすリスクが少ない経口血糖降下薬であり、臓器保護効果も期待され、広く臨床使用されている。インスリンにDPP-4阻害薬を追加投与することによって低血糖を増加させず、HbA1cを改善させるという報告は増えている。

 DPP-4阻害薬とインスリン製剤の作用機序は異なることから、両薬剤の併用による上乗せ効果は期待されている。インスリン療法はもっとも確実に血糖を低下できる治療法だが、インスリン製剤の増量による低血糖発現リスクの増大や体重増加、頻回注射による患者の負担が懸念され、インスリン製剤単独で治療を行っている患者でも血糖コントロールが不十分な場合が少なくない。

 このような患者に対しては、経口糖尿病薬との併用療法が実施されることがある。DPP-4阻害薬との併用は副作用の発現が比較的少なく、グルコース依存的にインスリン分泌を促進およびグルカゴン分泌を抑制させて血糖コントロールを改善することから、体重増加や低血糖の発現も少ないことが確認されている。

 また、SGLT2阻害薬とインスリン製剤との併用については、HbA1cの有意な低下と、体重の有意な減少が認められ、低血糖なケトアシドーシスなどの有害事象の増加を認めないという報告は増えている。いくつかの研究で、HbA1c8.5%以上の患者では治療後に0.5~1.0%の改善を認め、半年経過後に2.5~3kg程度の体重減少を得れられることが示された。いずれも有意な低血糖の増加はみられず、重症低血糖の中止例も少なかった。

 SGLT2阻害薬は血糖依存性に尿糖量を増加させ、食前血糖に比べ食後血糖の降下作用の方がより大きい。食後血糖の改善が比較的弱いBOTの方が、SGLT2阻害薬によりHbA1cの低下効果はより反映されやすく、低血糖もきたしにくいと考えられる。インスリン治療を行っているBMIの比較的高い患者での有用性や、SGLT2阻害薬を追加する際に低血糖を予防するために、どの程度のインスリンの減量が必要なのかを今後検討していく必要があるという。「安全性を第一にインスリン量をある程度減量してからSGLT2阻害薬を併用していく必要がある」と内野氏は指摘している。

DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬の配合剤の臨床的意義は大きい

 東京慈恵会医科大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科の森豊氏は「今後の糖尿病治療薬の開発動向」と題し講演。米国研究製薬工業業界(PhRMA)のサイトによれば、現在、米国では180剤もの糖尿病治療薬が既承認薬の適応拡大を含め臨床開発ステージにあるとされている。

(1)グルコキナーゼ活性化薬
 グルコキナーゼ(GK)は、解糖系の最初のステップであるグルコースからグルコース6-リン酸への変換を触媒する酵素であり、膵β細胞、肝、中枢、消化管などの代謝に関与する組織に発現が限局しており、特に膵β細胞と肝における役割はグルコース恒常性を保つうえで重要だ。膵β細胞ではグルコース濃度に依存してインスリン分泌を制御するグルコースセンサーの役割を果たす。血糖値が低い状態ではGK活性が低下しインスリン分泌を抑制するが、逆に高血糖の状態ではGK活性が上昇しインスリン分泌を促進することで正常な血糖コントロールの維持に寄与する。2003年、糖尿病モデルに対して、GK活性化薬の有効性が報告されたが、その後の臨床開発治験では長期投与に伴う血糖改善効果の消失が報告されており長期投与による有効性は示されていない。

(2)GPR40アゴニスト
 GPR40は、近年、その機能やリガンドが明らかになってきたG蛋白共役型受容体(GPR)のひとつ。GPRは、これまでのヒトゲノム解析で、約1000種類以上存在することが解明されているが、このうちGPR40は、刺激すると血糖依存性にインスリン分泌を促進する機能をもつことが分かっている。GPR40は主に膵β細胞に発現し、天然のリガンドは中長鎖脂肪酸だ。このGPR40をターゲットとして開発されたのがGPR40作動薬だ。GPR40作動薬fasiglifamは、第3相試験でも24週にわたり有意な血糖コントロール改善効果が示されていたが、肝臓での安全性の懸念が生じたため2013年12月に開発中止に至った。現在は、数社により開発が持続されている。

(3)SGLT2/1阻害薬
 主に小腸に存在するSGLT1は、食事からのグルコース吸収と腎臓での糖再吸収を行う。一方、ほぼ全てが腎臓に存在するSGLT2は、腎臓での糖再吸収のみを行う。SGLT2阻害薬は、尿への糖排泄を促進するため、2型糖尿病患者の血糖値を低下させる。SGLT1およびSGLT2を阻害するLX4211は、臨床試験や2型糖尿病患者の短期試験において、消化管からの糖吸収を低減し、尿中へのグルコース排泄を促進することが示されている。CGMですでに報告されているSGLT2阻害薬の血糖降下特性をふまえると、本剤のSGLT1阻害を介した小場からの糖吸収遅延作用は臨床的に意義のあるものと考えられる。

(4)配合剤
 現在、SGLT2阻害薬/メトホルミン、SGLT2阻害薬/DPP-4阻害薬、DPP-4阻害薬/チアゾリジン薬などの配合剤が開発中であり、配合剤の臨床的意義は、今後さらに大きくなるものと考えられる。

第50回糖尿病学の進歩

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