米国糖尿病学会(ADA)学術集会の最新ニュース9件を一挙公開

2014.06.23
 米国糖尿病学会(ADA)第74回学術集会が、6月13~17日にサンフランシスコで117ヵ国から1万8,000人が参加し開催された。
 糖尿病の最先端のニュースとインタビューを、ADAは「Breaking News」としてYouTubeで公開している。

DPP終了後に開始されたDPPOSの最新の知見

 「DPP」(Diabetes Prevention Program)の終了後に実施された「DPPOS」(Diabetes Prevention Program Outcomes Study)の最新の知見が発表された。2001年に終了したDPPは、(1)ライフスタイル改善プログラムと、(2)薬物療法(メトホルミン)による2つの介入により、糖尿病発症を予防または遅延させられるかを調査した介入試験。結果として、(1)は58%、(2)は31%、それぞれ糖尿病リスクを低減できることが示された。
 2002年に開始されたDPPOSでは、平均15年の期間中に(1)は27%、(2)は17%の低減効果が確認され、メトホルミン治療の長期間の効果は認められないことが示された。治療内容に関わらず介入群では糖尿病を発症した群に比べ、細小血管合併症は28%抑えられていた。

2型糖尿病患者のスタチン治療の妥当性について議論

 米国心臓病学会(ACC)と米国心臓病協会(AHA)は、脂質異常症治療に関するガイドラインを2013年に発表した。そこでは、脂質管理目標値が設定されておらず、スタチンによる治療が有用と判定される4つの指標が示されている。すなわち(1)心臓血管疾患を有する患者、(2)LDL-Cが190mg/dL以上の患者、(3)LDL-Cが70~189mg/dLで40~75歳の糖尿病患者、(4)LDL-Cが70~189mg/dLで40~75歳の非糖尿病患者のうち、10年間の心臓血管疾患の発症リスクが7.5%以上の患者。
 このガイドラインに従うと、2型糖尿病患者の圧倒的多数はスタチン治療が適用されることになるが、この判断は妥当かについて議論が交わされた。米国糖尿病学会(ADA)は、糖尿病患者のLDL-Cを100mg/dL未満に、心臓血管疾患を併発している患者では70mg/dL未満にコントロールするために、高用量スタチンの使用を奨励している。

糖尿病による苦悩はうつ病と切り離して捉えるべきだと主張

 糖尿病患者がうつ病を発症しやすいことはかねてより知られているが、多くの患者は「うつ病」というレッテルが貼られ、合併性の精神疾患と捉えられている。実際には、患者は糖尿病療養に伴う様々な困難への反応としてうつ状態になっており、糖尿病が引き起こす苦痛を解決する介入を行えば軽減できるのではないかと、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のローレンス フィッシャー氏は指摘している。
 フィッシャー氏らは、2型糖尿病患者392人(平均年齢56歳)を対象に、糖尿病による悩みを患者から聞き取り、医療者が電話や電子メールで応答する糖尿病セルフマネージメントプログラムを実施した。その結果、介入前には84%がうつスコア(PHQ-8)の得点が10点以上だったのが、12ヵ月の介入後には10点以下に下がった。フィッシャー氏は、「糖尿病による苦悩」(diabetes distress)とうつ病を切り離して考えるべきだと主張している。

2型糖尿病予防にもっとも効果的なのは「健康的な食事」

 2型糖尿病の発症を抑制するのにもっとも有利なのは食事であることが、ハーバード公衆衛生大学院のシルビア レイ氏らの研究で明らかになった。研究チームは、14万8,484人の非糖尿病者を4年間追跡して調査し、「食事品質インデクススコア」(Alternate Healthy Eating Index 2010)を使用し、食事内容を判定した。「全粒粉・野菜・果物の摂取、糖分・飽和脂肪酸の制限」といった条件が当てはまる人は、2型糖尿病の発症が最大で20%減少することが判明。運動の頻度や体重コントロールといった他の生活習慣要因に比べ、食事の管理がもっとも効果的だった。「2型糖尿病を予防するために、もっとも有利なのは健康的な食事をすることだ」と述べている。

1型糖尿病の診療ガイドラインの治療目標は「HbA1c7.5%未満」

 米国糖尿病学会(ADA)は、19歳以下の1型糖尿病患者が「HbA1c7.5%未満」を維持することを推奨するガイドイラン(Position Statement)を発表した。以前のガイドラインでは「6歳以下 HbA1c8.5%未満」、「6~12歳 同8.0%未満」、「思春期の若者 同7.5%未満」を推奨していたが、今回の改訂で目標値はより厳しくなった。「DCCT」と「EDIC」では、HbA1c7%を達成する強化療法により、細小血管合併症を減らせることが明らかになった。「杓子定規(one-size-fits-all)の治療ではなく、個々の患者に合わせた治療が求められる」と強調している。

1型糖尿病小児患者の学校での療養生活をサポート

 米国糖尿病学会(ADA)は、1型糖尿病の小児患者の学校での療養生活をサポートするために、「セーフ アット スクール」(Safe at School)キャンペーンを展開している。オハイオ州議会に働きかけ、州下院法264条を改定し、低血糖を起こした小児1型糖尿病患者に対し、医療者による指導を受けた教職員がグルカゴンを投与する処置が認められることになった。同キャンペーンでは、小児患者が安心して学校生活をおくれるよう、法律的な保護や教育機関の教職員への教育を含め全般的な運動を展開している。米国の小児1型糖尿病患者数は20万8,000人と推定されている。

ウォーキングに適した地域に住むことが糖尿病の予防につながる

 ウォーキングに適した公園や街路の多い地域の住民は、2型糖尿病の発症率が低い。近所にウォーキングができる場所のある住民は、そうでない住民に比べ、10年間の糖尿病発症率が13%低下することが、カナダ・トロントのセントマイケル医療センターのジリアン ブース氏らの調査で明らかになった。
 ウォーキングに適した地域の住民は、歩くか自転車に乗る頻度が3倍高く、乗用車を使わず公共交通を利用する頻度が2倍高かったという。65歳未満でこの傾向は強かった。「身体活動を奨励する整備計画を都市開発に盛り込む必要がある」と研究者は指摘している。

高糖質の食品を摂取するときに若者の脳で何が起きているか

 米国では小児や若年者の肥満と2型糖尿病の増加が問題になっている。イェール大学医学大学院のアニア ジェトレボフ氏(小児学)らは、思春期の若者が75gブドウ糖液を飲んだときの脳の血流の変化を、脳イメージングで解明。ブドウ糖を摂取すると、依存や快楽などの意思決定に関する領域である線条体の血流が、若者では増加するが、成人では減少することが判明。「思春期の若者は、糖分が添加された飲料や食品の最大の消費者だ。糖分の多い食品を摂取することで、脳で何が起きているか理解することが必要となる」と述べている。
 一方、ドイツのライプチヒ大学のアンティエ ケルナー氏(小児学)は、肥満の小児の脂肪細胞の機能障害を調べ、小児においても成人と同じように脂肪細胞の肥大と炎症の促進がみられることを突き止めた。「小児おいても、肥満が脂肪組織の炎症およびインスリン抵抗性を惹起することが判明した」と述べている。

グリア細胞が糖尿病などの治療薬のターゲットに

 グリア細胞は、ニューロン(神経細胞)とともに中枢神経系を構成する細胞だが、近年、様々な神経機能に積極的に関わっていることが明らかになってきた。一方、脳の視床下部へ空腹感をブロックする信号を送るホルモン「レプチン」は、脂肪細胞で作られ、脳に代謝の状態を伝える。レプチンの代謝への効果は脳の神経回路を制御することによる。
 脳のグリア細胞にあるレプチンの受容体がノックアウトされたマウスを用いた実験で、レプチンの食欲抑制効果は減弱し、反対に食欲増進ホルモンであるグレリンへの反応性は高まることが判明した。このことから、グリア細胞は脳と末梢の間の主要なバリアとしての機能をもつことが明らかになった。グリア細胞が、肥満や糖尿病などの代謝性疾患の治療薬のターゲットになると期待されている。

米国糖尿病学会(ADA)第74回学術集会

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