脂肪肝がメタボ体質の司令塔 臓器ごとの脂肪化とメタボ体質の関連を解明

2014.04.18
 金沢大学の研究グループは、核磁気共鳴装置や人工膵臓の技術を用いて、臓器(肝臓・骨格筋・脂肪組織)ごとの脂肪化とインスリン抵抗性を精密に検査する手法を確立した。肝臓の脂肪量が肝臓自体のインスリン抵抗性だけでなく、肝臓から離れた骨格筋のインスリン抵抗性とも強く関連することを見出したと発表した。

 脂肪肝の悪化が、肝臓だけではなく全身のインスリン抵抗性悪化の中心的な役割を果たし、そのメカニズムに肝臓と骨格筋を結ぶネットワークがあるとみられている。このような肝臓と他臓器間のネットワークに関わる未知因子の解明が、糖尿病など対する新たな治療につながる可能性がある。

 同成果は、金沢大学医薬保健研究域医学系の篁俊成教授、金子周一教授らの研究グループによるもの。詳細は、米国科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。

 肥満やメタボリックシンドローム、2型糖尿病の状態では、脂肪量が増えるだけでなく、本来脂肪が蓄積しない肝臓や骨格筋などの臓器への脂肪蓄積も増えることが知られている。脂肪が増えると、インスリン抵抗性が起こることで糖尿病や動脈硬化になりやすくなるが、肝臓や骨格筋、脂肪組織ごとの脂肪化とインスリン抵抗性を精密に検査する手法は確立されておらず、臓器相互の関連も十分には解明されていない。

 研究グループはこれまでに、「肝生検」で正確に検査した肝臓の脂肪量が全身のインスリン抵抗性と関連することを明らかにした。しかし、肝生検で肝臓の脂肪の量を正確に知ることができても、検査に入院が必要なことや検査に伴う合併症がゼロでないことから、広く行うには限界があった。そこで、体質を正確に見極め適切な治療法を考える上で、インスリンが働く臓器(肝臓・骨格筋・脂肪組織)ごとの脂肪蓄積量、臓器ごとのインスリン抵抗性を精密かつ安全に検査する手法の確立が求められていた。

 研究グループは今回、下記の手法で、臓器(肝臓・骨格筋・脂肪組織)ごとの脂肪量とインスリン抵抗性を精密かつ安全に検査することに成功した。

1. 核磁気共鳴装置(NMR)を用いたMRS検査で、安全に肝臓と骨格筋の脂肪量を測定した。MRS検査は、NMRシステムで検出した水と脂肪の信号を分析する手法。MRSで測定した肝臓の脂肪量は肝生検で組織学的に評価した脂肪化スコアと強く相関したことから、この検査法が正確に肝細胞内の脂肪蓄積を反映することを確認した。

2. 生体電気インピーダンス法で体全体の脂肪組織量を測定した。インピーダンス法は、体に微弱な電流を流し、組織での電流の流れ方の違いから脂肪量などを予測する方法。

3. 人工膵臓を用いたグルコースクランプ検査で、肝臓、骨格筋、脂肪組織の臓器別のインスリン抵抗性を測定した。グルコースクランプ検査は、インスリンを注入しながら、血糖値が一定になるようにブドウ糖を同時に注入し続け、精密にインスリン抵抗性を検査する手法。

 上記の検査を行い、臓器(肝臓・骨格筋・脂肪組織)ごとの脂肪量とインスリン抵抗性の間にある、下記の関係を明らかにした。

1. 肝臓の脂肪蓄積が多いほど、肝臓及び骨格筋のインスリン抵抗性が強い。

2. 骨格筋の脂肪量は、骨格筋、肝臓、脂肪組織、いずれの臓器のインスリン抵抗性とも関連しない。

3. 体脂肪量は、脂肪組織のインスリン抵抗性と関連しない。

 以上の結果から、脂肪肝の悪化が、肝臓だけではなく全身のインスリン抵抗性の悪化に中心的な役割を果たし、そのメカニズムに肝臓と骨格筋を結ぶネットワークがあることが示唆された。
 なお、研究グループでは、これまでに同定した2つのの肝臓由来分泌タンパク「ヘパトカイン」が骨格筋のインスリン抵抗性をはじめとするさまざまな疾患の原因になっている可能性があると考えており、ヒトにおいても、肝臓から分泌されるヘパトカインが骨格筋のインスリン抵抗性の原因となっている可能性があると述べている。

 今回の研究成果などから、肝臓と他臓器間のネットワークに関わる新たな因子の解明が進むことで、糖尿病やメタボリックシンドロームに対する新たな治療法の確立につながることが期待されるとコメントしている。

金沢大学医薬保健学域
Ectopic fat accumulation and distant organ-specific insulin resistance in Japanese people with nonalcoholic fatty liver disease(PLOS ONE 2014年3月20日)

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