DPP-4阻害薬の併用療法 インスリンとの併用は有用
2013.05.22
第56回日本糖尿病学会年次学術集会
インスリンが発見されたことは、糖尿病治療の歴史に大きな衝撃を与え、それまで十分な治療ができなかった糖尿病患者にとって希望となった。そして、近年はインクレチン関連薬の登場により、糖尿病治療に新たな変化が起こっている。2009年に新たな糖尿病治療薬として登場したDPP-4阻害薬は経口で容易に服用できることもあり、適用となる症例は多い。第56回日本糖尿病学会年次学術集会(5月16〜18日、熊本市)では、武田純・岐阜大学大学院医学研究科内分泌代謝病態学教授がインクレチン関連薬の併用療法について講演した。
インスリンが発見されたことは、糖尿病治療の歴史に大きな衝撃を与え、それまで十分な治療ができなかった糖尿病患者にとって希望となった。そして、近年はインクレチン関連薬の登場により、糖尿病治療に新たな変化が起こっている。2009年に新たな糖尿病治療薬として登場したDPP-4阻害薬は経口で容易に服用できることもあり、適用となる症例は多い。第56回日本糖尿病学会年次学術集会(5月16〜18日、熊本市)では、武田純・岐阜大学大学院医学研究科内分泌代謝病態学教授がインクレチン関連薬の併用療法について講演した。
GLP-1作用を高めるDPP-4阻害薬などのインクレチン関連薬は、食後高血糖の抑制に優れ、低血糖を惹起しない、より有害事象の少ない新しい糖尿病治療薬として登場した。インクレチン関連薬はインスリン分泌促進やグルカゴン分泌抑制など膵島機能の改善作用とインスリン抵抗性の改善によって血糖降下作用を示す。 膵α細胞から分泌されるグルカゴンは、空腹時に肝臓の糖新生・糖放出を促進するホルモンである。糖尿病の病態として、インスリン分泌の異常とともにグルカゴン分泌の異常が重要である点については、古くから指摘されていた。しかし、グルカゴン分泌を抑制できる薬剤が存在していなかったこともあり、グルカゴン研究は進展しなかった。だが、グルカゴン分泌抑制作用をもつインクレチン関連薬が登場し、グルカゴン研究は再興している。
DPP-4阻害薬 経口血糖降下薬との併用療法
日本人はインスリン分泌予備能が低いため、早期からのインスリン分泌で良好な血糖コントロールをはかることが重要となる。そのため、DPP-4阻害薬との併用は、インスリン分泌節約から膵β細胞保護につながるビグアナイド(BG)薬やチアゾリジン誘導体(TZD)などのインスリン抵抗性改善薬が考えられる。 BG薬やTZDの主な薬理作用として、末梢での糖取り込みの亢進と肝臓での糖新生の抑制がある。BG薬は糖新生の抑制が優れており、幅広いHOMA-Rで有効であり、日本人型の軽度のインスリン抵抗性に適している。 他に、食後血糖値の上昇、さらに、その結果追加インスリン分泌を抑えて膵β細胞の保護をはかる方法がある。糖尿病を発症するとインスリンの初期分泌が障害されて遅延型となることが多く、食事によるグルコース吸収を遅らせてインスリン分泌に同調させればよいという発想からα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)が開発された。 その後、食後高血糖は心血管イベントの重要リスクであることがあきらかになり、α-GIは単なる腸管での糖吸収遅延薬という位置づけから新たな展開を示している。DPP-4阻害薬との併用は、低血糖が少ない血糖変動の平坦化とインクレチン作用増強の観点からも注目されている。 DPP-4阻害薬とインスリン製剤の作用機序は異なることから、両薬剤の併用による上乗せ効果も期待されている。インスリン療法はもっとも確実に血糖を低下できる治療法だが、インスリン製剤の増量による低血糖発現リスクの増大や体重増加、頻回注射による患者の負担が懸念され、インスリン製剤単独で治療を行っている患者でも血糖コントロールが不十分な場合が少なくない。 このような患者に対しては、経口糖尿病薬との併用療法が実施されることがあるが、既存の薬剤との併用療法では、胃腸障害(α-グルコシダーゼ阻害薬)、浮腫(チアゾリジン系薬剤)などの発現が問題となる場合がある。 一方、DPP-4阻害薬はそのような副作用の発現が比較的少なく、グルコース依存的にインスリン分泌を促進およびグルカゴン分泌を抑制させて血糖コントロールを改善することから、体重増加や低血糖の発現も少ないことが確認されている。インスリン製剤とDPP-4阻害薬の併用
インスリンとシタグリプチンの併用は理想的な組み合わせのひとつであり、インスリン療法中で目標のHbA1c値に達していない患者にとっては「次の一手」になる治療法と考えられる。食後血糖降下作用の優れたDPP-4阻害薬併用によりインスリンを減量できれば、低血糖リスクを減少させられる可能性もある。 2012年12月発表のEASIE試験の延長試験では、HbA1cが7.0%以下に到達しなかった患者(インスリン グラルギン+メトホルミン、シタグリプチン+メトホルミン)に対して、インスリン グラルギンとメトホルミンとシタグリプチンの3剤併用としたところ、全体としてHbA1cは0.8%低下し、被験者の52%においてHbA1c7.0%未満を達成するという結果が得られた。 臨床試験血からは、インスリン製剤とDPP-4阻害薬の併用は有用性が高く、その結果は患者背景にほとんど影響されないことが示されたが、有意ではないものの低血糖の発現はDPP-4阻害薬併用群でやや多いことも示された。 DPP-4阻害薬とインスリン製剤の併用に関しては、臨床試験成績だけではまだ情報が不足しており、今後さまざまな検討の余地はあるが、持効型溶解インスリン製剤へのDPP-4阻害薬の追加投与は非常に有効な組合せと考えられると、武田教授はまとめた。 第56回日本糖尿病学会年次学術集会[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]