慢性痛が気分を落ち込ませるメカニズムを解明 慢性痛・うつ病の治療薬開発に期待

 北海道大学大学院薬学研究院の南雅文教授らの研究グループは、慢性痛が抑うつ状態を引き起こす脳内メカニズムを解明した。慢性痛による抑うつ状態とうつ病との間には共通の脳内メカニズムがあるという。研究成果は、「Journal of Neuroscience」に掲載された。
慢性痛による抑うつ状態とうつ病との間には共通の脳内メカニズムがある
 痛みは体の危険を教えてくれる警告信号として重要な役割を果たす一方で、慢性痛では警告信号の役割を果たした後でも痛みが続き、生活の質(QOL)を大きく損なうだけでなく、うつ病や不安障害などの精神疾患の引き金ともなる。

 さらに、慢性痛とうつ病の併発率が高いことが報告されており、慢性痛による抑うつ状態とうつ病との間には共通の脳内メカニズムがあることが考えられる。

 しかし、慢性痛が抑うつ状態を引き起こし、気分を落ち込ませ、やる気を減退させる脳内神経機構は明らかにされていない。

 そこで研究グループは、分界条床核と呼ばれる脳部位に着目。「慢性痛によって分界条床核から腹側被蓋野への神経経路の働きが変化することで、脳内報酬系が持続的に抑制され、抑うつ状態が引き起こされる」と仮説をたてた。

 分界条床核は扁桃体とともに、不安・恐怖・抑うつなどのネガティブな情動の生起に関与することが知られている。

 腹側被蓋野に細胞体を有し、軸索を側坐核に送るドパミン神経は脳内報酬系で重要な役割を担っており、このドパミン神経の活動低下がうつ病と関連すると考えられる。これまでに、慢性痛でもこのドパミン神経の活動が低下することが報告されている。

 さらに、分界条床核から腹側被蓋野への神経経路が、脳内報酬系の働きを制御することが報告されている。

 そこで研究グループは、分界条床核から腹側被蓋野への神経経路が慢性痛によってどのような影響を受けるかを調べた。
神経ペプチドを標的とした創薬につながる可能性
 研究グループはまず、神経障害性疼痛モデルラットを作製し、4週間にわたる慢性痛を誘導した後、単一の神経細胞の活動状態を計測できる電気生理学的手法を用いて、腹側被蓋野に軸索を送る分界条床核の神経細胞の活動状態を解析した。その結果、腹側被蓋野に軸索を送る分界条床核の神経細胞は、慢性痛時に持続的に抑制されることが判明した。

 次に、こうした慢性痛による神経回路の変化にコルチコトロピン放出因子(CRF)が関与するかを調べた。

 CRFは41個のアミノ酸からなるペプチドで、さまざまなストレスにより脳内で分泌される。脳内の下垂体で分泌されるCRFはステロイドホルモンなどの遊離を促進し、全身性のストレス応答を引き起こし、また扁桃体などで分泌されるCRFは不安や恐怖などのネガティブな情動の生起に関与する。

 慢性痛モデルラットにおけるCRF遺伝子の発現量を調べたところ、分界条床核と、分界条床核との機能的な連関が知られている扁桃体中心核の2つの脳領域でCRF遺伝子発現が増えていた。

 さらに、慢性痛による分界条床核の神経細胞の活動抑制にCRFが関与するかについて、電気生理学的手法を用いて調べた。すると、慢性痛モデルラットの分界条床核にCRFの効果を遮断する薬物を処置すると、分界条床核の神経細胞の活動抑制は解除された。

 これらから、慢性痛時に分界条床核内のCRFによる神経情報伝達が過剰となり、腹側被蓋野に軸索を送る分界条床核神経細胞が持続的に抑制されることが示唆された。

 続いて、慢性痛時の分界条床核における過剰なCRF神経情報伝達の遮断が脳内報酬系に与える影響を調べたところ、脳内報酬系において重要な役割を担っているドパミン神経の活動が上昇することが明らかになった。

 これらの結果と、慢性痛時にドパミン神経活動が低下しているというこれまでの報告を併せて考えると、慢性痛によって分界条床核でCRFによる神経情報伝達が過剰となり、腹側被蓋野に軸索を送る分界条床核神経細胞が抑制されると、脳内報酬系で中心的な役割を担うドパミン神経が持続的に抑制されるメカニズムが考えられるという。

 痛みが持続することで分界条床核内の神経情報伝達に変化が生じ、その結果、脳内報酬系が持続的に抑制されると考えられる。脳内報酬系は、「快情動」や「やる気」を司る神経系であり、うつ病では本神経系の機能低下のため「楽しいはずのことが楽しくなくなる(快情動の喪失)」、「やる気がなくなる」といった状態が引き起こされるとしている。

 慢性痛による抑うつ状態の脳内メカニズムを明らかにした今回の研究成果は、慢性痛による抑うつや不安を改善するだけでなく、うつ病の治療にも役立つ新しい治療薬の開発につながる可能性がある。さらに、慢性痛モデル動物において分界条床核にCRFの効果を遮断する薬物を処置すると、脳内報酬系の抑制が解除されたことから、CRFなどの神経ペプチドを標的とした創薬につながる可能性がある。

北海道大学大学院薬学研究院
Tonic suppression of the mesolimbic dopaminergic system by enhanced corticotropin-releasing factor signaling within the bed nucleus of the stria terminalis in chronic pain model rats(Journal of Neuroscience 2019年8月26日)
[Terahata]

関連ニュース

2020年03月05日
高齢糖尿病患者などで血糖コントロールが厳格過ぎる 低血糖リスクが高い可能性
2020年02月27日
SGLT2阻害薬の心血管保護効果は背景因子に関わらず有意
2020年02月20日
膵島抗体スクリーニングで小児1型糖尿病リスクを評価可能
2020年02月13日
NAFLD併発2型糖尿病患者の医療費が今後20年で6兆円――米国の推計
2020年02月06日
高齢1型糖尿病患者では重症低血糖が認知機能低下のリスク
2020年01月30日
isCGMで成人1型糖尿病患者の低血糖や欠勤が有意に減少
2020年01月23日
SGLT2阻害薬で痛風発症率が低下
2020年01月16日
歯周病の治療で糖尿病の合併症が減り、費用対効果がアップ
2020年01月09日
高齢2型糖尿病患者の低血糖リスクを3項目で評価
2019年12月25日
男性は運動により空腹時GLP-1が低下し糖負荷後の応答が改善

関連コンテンツ

編集部注:
  • 海外での研究を扱ったニュース記事には、国内での承認内容とは異なる薬剤の成績が含まれています。
  • 2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わすようになりました。過去の記事は、この変更に未対応の部分があります。ご留意ください。
ページのトップへ戻る トップページへ ▶