高脂血症治療薬「ピタバスタチン」の抗がん作用を発見 ドラッグ リパーパシングで新たな抗がん剤候補を探索 東京医歯大

 東京医科歯科大学は、高脂血症治療薬のピタバスタチンに抗がん作用があることを、既存の承認薬の再配置(ドラッグ リパーパシング:DR)の考え方をもとに、766種類の薬剤を搭載したFDA承認薬ライブラリーを用いた解析から発見した。
 ピタバスタチンは、がんの転移や増殖などに関わる間葉上皮転換(MET)を阻害することでがん細胞の増殖を抑制するという。MET阻害剤であるカプマチニブと併用すると、さらに強い細胞増殖の抑制効果を示すことも分かった。
FDA承認薬ライブラリーから新規抗がん剤候補を探索
 口腔・食道扁平上皮がん(OSCC、ESCC)は、比較的リンパ節転移をしやすく、予後不良ながんだ。現在までにOSCC、ESCCに対する特効薬となるような抗がん剤は開発されていない。しかし、抗がん剤を開発するために多くの時間や費用がかかる。

 一方、すでに他の疾患に認可されている薬剤を異なる疾患に応用しようというラッグ リパーパシング(DR)の取り組みが広まりつつある。アスピリンなどの複数の薬剤がその適応を拡大させている。DRのメリットは、ヒトでの安全性が確保されており、作用機序が明らかになっている薬剤を他の疾患で検討するため、開発にかかる時間や費用を大きく削減できることだ。

 こうした背景から、研究グループは今回、FDA承認薬ライブラリーを用いてOSCC、ESCCに対する新規抗がん剤候補を同定することを試みた。

 その結果、ピタバスタチンは、がんの転移や増殖などに関わる間葉上皮転換(MET)を阻害することでがん細胞の増殖を抑制することが分かった。MET阻害剤であるカプマチニブと併用すると、さらに強い細胞増殖の抑制効果を示すことも明らかになった。

 研究は、東京医科歯科大学難治疾患研究所・難病基盤・応用研究プロジェクト室の村松智輝助教、分子細胞遺伝分野の稲澤譲治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Cancer Research」に掲載された。
ピタバスタチンとカプマチニブとの併用が、口腔・食道扁平上皮がんの新たな治療戦略となる可能性
 研究グループは、766種類のFDA承認薬を搭載したライブラリーと高転移性を有するOSCC細胞株(HOC313-LM)を用いて、細胞増殖を抑制する効果のある新たな抗がん剤候補の探索を実施した。

 その結果、スタチンに分類されるピタバスタチンが顕著にがん細胞の増殖を抑制することが分かった。ピタバスタチンは脂質異常症治療薬として使われており、内因性コレステロール生合成においてHMG-CoA還元酵素の活性を阻害し、メバロン酸への代謝を抑制する薬剤だが、がん領域での適応はない。

 ヒトがんでは、さまざまな遺伝子異常が発見されており、がん遺伝子として機能することが知られている。とくに、遺伝子増幅やエクソン14のスキッピングの変異は、がんの転移や増殖などに関わる間葉上皮転換(MET)を恒常的に活性化させ、がんの促進に関与する。

 ピタバスタチンは、METのプロセシングを阻害することで、METシグナルを阻害し、ERK、AKT活性を低下させることで細胞増殖を抑制すると考えらめる。

 さらに、MET阻害剤であるカプマチニブとの併用により、ピタバスタチン単剤よりも、さらに強い細胞増殖の抑制効果を示すことも分かった。カプマチニブは、2020年5月にFDAに認可され、適応は、MET エクソン14スキッピングを有する非小細胞肺がんだ。

 さらに、ピタバスタチンの感受性は、メバロン酸経路代謝産物であるGGPPの合成酵素であるGGPS1遺伝子の発現に依存する傾向がみられた。

 メバロン酸経路は、細胞内代謝経路のひとつで、コレステロールの合成やタンパク質の翻訳後修飾に関与している。GGPS1は、メバロン酸経路の代謝酵素であり、FPPからGGPPに変換する。

 以上により、ピタバスタチンおよびカプマチニブとの併用は、OSCC、ESCCの新たながん治療戦略となる可能性があり、その感受性においてGGPS1の発現量が重要であることが明らかとなった。

 つまり、ピタバスタチンの細胞増殖の抑制効果を予測するために、がん細胞中のGGPS1の発現の確認が重要であり、適用患者の層別化バイオマーカーとして利用できる可能性が示された。「今後、OSCC、ESCCに対するピタバスタチンを用いた新規がん治療法の開発が期待されます」と、研究者は述べている。

東京医科歯科大学難治疾患研究所・難病基盤・応用研究プロジェクト室
Suppression of MET signaling mediated by pitavastatin and capmatinib inhibits oral and esophageal cancer cell growth (Molecular Cancer Research 2020年12月9日)
[Terahata]

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編集部注:
  • 海外での研究を扱ったニュース記事には、国内での承認内容とは異なる薬剤の成績が含まれています。
  • 2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わすようになりました。過去の記事は、この変更に未対応の部分があります。ご留意ください。
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