「SGLT2阻害薬」はケトアシドーシスに注意 「患者への説明も含めた十分な対策が必要」と呼びかけ 日本糖尿病学会
2019.08.22
日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は、SGLT2阻害薬が発売されてから5年以上が経過し、成人1型糖尿病患者におけるインスリン製剤との併用療法として適応を取得した一方で、副作用が報告されたのを受け、SGLT2阻害薬の適正使用を呼びかけるRecommendationを公表した。
情報を共有すれば副作用の拡大を防げる
「SGLT2阻害薬」は、血液中の糖を尿中に排出させることで血糖値を下げるタイプの2型糖尿病の治療薬。単剤で使用すると低血糖リスクの危険性がないことや、体重を減少させる効果が報告されている。日本で最初のSGLT2阻害薬は2014年4月に発売され、現在は6成分7製剤が使用されている。 まれではあるがSGLT2阻害薬に特有の副作用が報告されたのを受け、日本糖尿病学会は2014年に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」を発表した。 2018年12月以降、一部のSGLT2阻害薬が成人1型糖尿病患者におけるインスリン製剤との併用療法として適応を取得した。その一方で、SGLT2阻害薬によりケトアシドーシスのリスクが増加するという報告が公表されている。 これを受けて同学会は8月6日、最新の情報にもとづきRecommendationに改訂を加えた。「1型糖尿病患者への使用に際しては、十分な注意と対策が必要」としている。 SGLT2阻害薬の副作用として、尿路・性器感染症に加え、まれではあるが、重症低血糖、ケトアシドーシス、脳梗塞、全身性皮疹などの重篤なものがある。 同学会の「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は、これらの情報を広く共有することで副作用の拡大を防げるとして、以下を公表した。
SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会 Recommendation
1. 1型糖尿病患者の使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである。
2. インスリンやSU薬等インスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。
3. 75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。
4. 脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する。
5. 発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
6. 全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること。特に1型糖尿病患者では、インスリンポンプ使用者やインスリンの中止や過度の減量によりケトアシドーシスが増加していることに留意すべきである。
7. 本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと。さらに、必ず副作用報告を行うこと。
8. 尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。
重症低血糖
低血糖は血液中のブドウ糖が少なくなり過ぎた状態で、具体的には動悸や発汗、手足のふるえ、眠気などの症状がある場合は、低血糖が疑われる。 SGLT2阻害薬の添付文書には、他の血糖降下薬(とくに、SU薬、速効型インスリン分泌促進剤、インスリン製剤)を投与中の患者へのSGLT2阻害薬の追加は低血糖を起こすおそれがあると記されている。 報告された低血糖は、多数の血糖降下薬を使用している患者にさらに追加されている場合が多かった。SGLT2阻害薬による糖毒性改善などによりインスリンの効きが急に良くなり、低血糖が起こっている可能性がある。 Recommendationでは、「インスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬を投与中の患者へのSGLT2阻害薬の追加は重症低血糖を起こすおそれがあり、予めインスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬の減量を検討することが必要である」と記している。
2型糖尿病患者では、インスリン製剤との併用する場合には、低血糖に万全の注意を払ってインスリンを予め相当量減量して行うべきである。1型糖尿病患者では、インスリンの過度の減量によりケトアシドーシスリスクが高まる可能性に留意し、慎重に減量する。
1-a 血糖コントロール良好(HbA1c<7.5%)な場合、開始時に基礎および追加インスリンを10~20%前後を目安に減量することを検討する。
1-b 血糖コントロール良好でない(HbA1c≧7.5%)場合、服薬開始時の基礎および追加インスリンは減量しないかあるいはわずかな減量にとどめる。
2-a 経過中、血糖コントロールが改善し低血糖が顕在化した場合は、血糖自己測定や持続血糖モニタリングの結果に応じ、患者自身で責任インスリン量をすみやかに減量できるよう指導する。
2-b ただし、上記の場合でも患者にはインスリンを極端に減量することは控えるよう指導する。特に基礎インスリンの減量は治療前の20%を越えることは避け、慎重に減量すべきである。
SU薬にSGLT2阻害薬を併用する場合には、DPP-4阻害薬の場合に準じて、以下の通りSU薬の減量を検討することが必要である。
・ グリメピリド2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じる
・ グリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25mg/日以下に減じる
・ グリクラジド40mg/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じる
・ グリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25mg/日以下に減じる
・ グリクラジド40mg/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じる
ケトアシドーシス
インスリンの減量や中止、極端な糖質制限、清涼飲料水の多飲などが原因で、「ケトアシドーシス」が報告された。 インスリン作用が不足し、体がブドウ糖を利用できない状態では、代わりに脂肪や蛋白質がエネルギー源として使われが、そのときケトン体という物質が発生する。ケトアシドーシスは体内にケトン体が過剰に蓄積した、血液が酸性に傾いた状態を指す。 ケトアシドーシスでは、口渇、多飲、多尿、体重減少、全身倦怠感などの症状が急激に起こる。悪化すると、呼吸困難、速くて深い呼吸、悪心、嘔吐、腹痛、意識障害などが起こるおそれがある。 「SGLT2阻害薬を服用していると、インスリンが中断されても血糖上昇を伴わないままケトアシドーシスへと進行するため発見が遅れ、重症化させてしまう。また、通常の糖尿病性ケトアシドーシスと異なり、治療初期より十分なブドウ糖補充が必須となる」、「ケトアシドーシスが疑われる場合はすみやかに専門医を受診するよう指導する」と、注意を呼びかけている。脱水症状
SGLT2阻害薬を服用することで体液量が減少し、「脱水症状」が起こることがあるので、適度な水分補給を行うことが必要と強調されている。脱水は脳梗塞など血栓・塞栓症の原因になることもある。高齢者や利尿剤を併用している患者では、特に脱水が起こりやすいので、適切な水分補給が必ず必要となる。 「のどが渇く」、「めまい、ふらつき」、「たちくらみ」、「疲れを感じる、ぼんやりする」、「脈拍がいつもより速い」といった症状が起きているときは、脱水が疑われる。水分補給を続けることが必要だ。 発熱・下痢・嘔吐などがあったり、食欲不振で食事を十分にとれないよう「シックデイ」の場合には、脱水に対して特に注意が必要であり、SGLT2阻害薬を休薬することを勧めている。さらに、脱水はビグアナイド薬の重大な副作用である乳酸アシドーシスの危険因子なので、ビグアナイド薬とSGLT2阻害薬を併用している患者は、脱水と乳酸アシドーシスに十分な注意を払う必要があるとしている。皮膚症状
皮膚症状は薬疹、発疹、皮疹、紅斑などが報告され、もっとも頻度の高いSGLT2阻害薬の副作用となっている。皮疹が起こった場合には、皮膚科医に相談することが重要としている。尿路感染症や性器の感染症
尿路感染症(排尿時の痛みや残尿感など)や、性器感染症(性器やその周辺のかゆみなど)も報告されており、投与開始から2〜3日や、1週間以内に起こる例もあれば、2ヵ月程度経って起こる例もあるという。腎盂腎炎をなど重篤な尿路感染症に進展するおそれもある。症状がある場合には、主治医に伝えることが勧められている。 一般社団法人日本糖尿病学会SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]