【新型コロナウイルス】感染予防策を単独・部分的に実施しても効果は低い いくつもの対策を組み合わせることが重要 筑波大学

2020.05.13
 筑波大学は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への効果を網羅的に推定できるコンピュータモデルを開発した。
 このモデルを用いたシミュレーションにより、COVID-19に対する個々の感染予防策(時差通勤、テレワーク、学級閉鎖、接触率の低減、発熱後の自宅待機)を単独あるいは部分的に複合して実施しても、大きな効果は得られないことを明らかになった。
 これらの対策を組み合わせることが極めて重要であることが示唆された。また、感染者に対しては、自宅待機ではなくホテルなどへの隔離が有効だという。

個々の感染予防策を単独・部分的に実施しても効果は得られない

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大にともない、テレワークや外出自粛の要請、学級閉鎖など、さまざまな感染対策が講じられているが、それらの効果に関するデータは限られている。

 そこで、筑波大学ビジネスサイエンス系の倉橋節也教授は、新型コロナウイルスの感染プロセスを、エージェント・ベース・モデル(個人の行動が集団に与える影響を評価するコンピュータモデル)に実装し、一般の市民や企業、学校などで、実施可能な予防策の有効性についての比較検討を行った。

 このモデルでは、1,120人の仮想的な住民が通勤通学および店舗などへの訪問を行い、新型コロナウイルスの感染リスクに曝されている状態を模している。

 これによるシミュレーションの結果、個々の感染予防策(時差通勤、テレワーク、学級閉鎖、接触率低減、発熱後自宅待機)を単独あるいは部分的に複合して実施しても、大きな効果は得られないことが明らかになった。

新型コロナウイルスの感染プロセスをシミュレーション

 このモデルでは、隣接する2つの町があり、それぞれの住民が通勤や通学、商業施設利用などを定期的に行うことを想定している。

 1つの町には子供のいる4人家族と、大人だけの2人家族が住んでいる。子供のいる4人家族は100世帯あり、2人の親と2人の子供によって構成される。大人だけの2人家族は80世帯あり、合計で560人の住民が住んでいることになる。

 そして、同じ構成の町がもう1つあり、全体で1,120人のモデルとなっている。親の10%が別の町に通勤し、それ以外の親は日中に自分の町で働き、すべての子供は学校に通っている。

 通勤をする両親のうち半分は電車を利用している。2人家族の大人は高齢者を想定しており、通勤はしない。医療サービスを提供する共同の病院が1つあり、各町から5人、合計10人がこの病院で働いている。住民の中の大人は、定期的に商業施設などの人混みのある場所を訪れるように定義されています。

 モデルの基本パラメータである、人口データ、通勤比率は、総務省統計局の国勢調査の首都圏データを参考にしている。高齢者比率については、国内の2017年の65歳以上の高齢者人口比率が約28%であることを用いている。

 子供のいる世帯構成は、通勤者数(親)と通学者数(子供)を同数としている。1日あたりの店舗など外出回数は買物行動調査データを用い、各場面での感染伝播確率や接触率は、新型コロナウイルスの基本再生産数R0(2.0~2.5)と、住民1日当たりの接触時間にもとづき設定している。接触率は、シミュレーション実験の中で各予防策シナリオに合わせて変更する。

 感染者重症化率と世代別致死率は、2020年2月~3月に公表された中国CDC(中国疾病預防控制中心)およびWHO(世界保健機関)の報告にもとづいて設定している。

予防策に1つでも抜けがあると感染リスクが高いまま

 このモデルに対して、27種類の感染予防策を策定し、それぞれの効果を予測するために、(1):対策なし、(2)~(11):基本予防策の効果、(12)~(22):基本予防策の複合効果、(24)~(27):接触率低減策と基本予防策の複合効果、の4カテゴリーに分け、入院数、死亡数、感染速度のシミュレーションを行った。

 その結果、有効な効果が期待できるのは、テレワークや学校閉鎖、外出抑制などを組み合わせた複合予防策をとった場合であり、単独の対策や、部分的な対策の組み合わせの場合は、入院数の減少が見られず、有効な予防策にならないことが明らかになった。

 一方、学校閉鎖のような社会的な影響が強い政策以外でも、全接触低減策に発熱後自宅待機の強化対策を組み合わせた(23)の複合策、時差通勤とテレワークを組み合わせた(25)の複合策でも、十分に効果的な予防が可能であることが示唆された。

 このことから、予防策の実施される場所や時間に「抜け」が1つでもあった場合は、感染リスクが高いままであることが推測された。

感染者に対しては自宅待機ではなくホテルなどへの隔離を

 また、複合予防策に、店舗などへの外出頻度低減策を組み合わせた場合に、大きな効果が見られた。店舗へは、親や子供に加えて高齢者も定期的に訪れており、高齢者を含めた感染クラスターが発生するリスクが高い場所と考えられる。

 重度入院者数の世代別の数値は、若年世代や成年世代に比べて、高齢世代ではどの場合においても数倍高くなっている。このことから、高齢者への感染をいかに防ぐかが、全体の重度入院者や死亡者を減らすことにつながるものと考えられる。

 加えて、感染力のある患者を自宅に待機させるだけでは、家庭内感染が発生し、家族から外へと感染が広がることが分かった。

遅くて不十分な封鎖では感染拡大が再発する

 現状では、PCR検査数や検査確定までの時間的制約から、感染が疑われる発熱者でも、すぐに入院させることはできず、一定期間の自宅待機措置が取られている。

 今回の研究で、このような状況を避けるためには、家族を含めた外出時の時差通勤、テレワーク、学校閉鎖、店舗などへの外出抑制などの対策を組み合わせることが極めて重要であることが示唆された。

 また、感染者に対しては、自宅待機ではなくホテルなどへの隔離が有効であることが示された。

 今回の研究成果を応用することで、さまざまな感染予防策の中から効果的な組み合わせを推定できるようになるとしている。

 研究で用いたモデルを利用し、イベント開催の影響(イベント規模よりもイベント種類が影響すること)、PCR検査率増加の効果と影響(感染可能性のある人へのPCR検査数を増やすことで感染者数が抑制できること)、都市封鎖の効果と解除期間の推定(遅く不十分な封鎖では感染拡大が再発すること)などがすでに示されている。

筑波大学 大学院 人文社会ビジネス科学学術院 ビジネス科学研究群 GSSM: 経営学学位プログラム 倉橋研究室
Estimating Effectiveness of Preventing Measuresfor 2019 Novel Coronavirus Diseases(COVID-19)(新型コロナウイルス(COVID-19)における感染予防策の推定)(人工知能学会論文誌 2020年3月)

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