糖尿病網膜症に高脂血症治療薬「ペマフィブラート」が有用 選択的PPARαモジュレーターによる新規網膜症治療の可能性

2019.12.25
 慶應義塾大学は、抗高脂血症薬の選択的ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)モジュレーターである「ペマフィブラート」(製品名:パルモディア)が、網膜症のモデルマウスで、網膜の病的血管新生を有意に抑制することを確認した。
 さらに、ペマフィブラートは肝臓での線維芽細胞増殖因子21(FGF21)の発現を亢進させ、血漿FGF21濃度を高めることで、網膜の血管新生抑制に作用していることを見出した。

ペマフィブラートの抗血管新生作用への期待
肝臓のFGF21の発現を亢進し血中濃度を高め、網膜の血管新生抑制に作用

 研究は、慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授、栗原俊英特任准教授、富田洋平訪問研究員、小澤信博助教らの研究グループと興和の共同研究グループによるもの。研究成果は、「InternationalJournal of Molecular Sciences」のオンライン版に掲載された。

 糖尿病網膜症や加齢黄斑変性は日本の失明原因の上位を占めており、共通の病態として「病的血管新生」がある。抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)療法が確立され、一定期間においては完全矯正視力の改善・維持が得られるようになったが、高額な医療費、合併症、視力改善困難な症例等、多くの課題がある。

 海外の大規模臨床試験で、脂質代謝改善薬である「フェノフィブラート」が糖尿病網膜症の進行を抑制したという結果が得られ注目を集めた。その作用メカニズムはPPARαの活性化にあるとされていたが、糖尿病網膜症に対する治療効果のメカニズムには、未だ統一された見解はない。また、加齢黄斑変性の発症メカニズムも不明な点が多く、加齢黄斑変性と脂質沈着との関連も報告されており、脂質のコントロールも疾患の制御に重要な要素になると考えられている。

 近年、選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)である「ペマフィブラート」が、高脂血症に対する治療薬として日本で承認され販売が開始された。同剤は、既存薬であるフェノフィブラートと同等の血清のトリグリセリド(TG)低下作用と、HDLコレステロールの上昇作用があるが、腎代謝であるフェノフィブラートと違い、肝代謝であるため、軽度腎障害のある患者への利用が期待されている。

 ペマフィブラートはフェノフィブラートより特異的にPPARαを活性化させるとされるが、未だ眼疾患への評価の報告はない。そこで研究では、網膜の病的血管新生のモデルである酸素誘導性網膜症(OIR)モデルマウスで、ペマフィブラート投与による抗血管新生効果を検討した。

 主な結果は以下の通り――。

(1) ペマフィブラートが網膜症モデルマウスにおいて、網膜の抗血管新生作用を示す

 ペマフィブラート投与群では、投与されていないコントロール群に比べ、網膜での病的血管新生が有意に抑制された(p<0.01)。一方、フェノフィブラート投与では、有意な病的血管新生の抑制効果は認められなかった。
(2) ペマフィブラートはFGF21を介して網膜に作用する

 ペマフィブラートの投与により、肝臓のFgf21遺伝子の発現の亢進と、血漿中FGF21濃度の上昇、網膜でのVegfaの発現低下も確認された。

 線維芽細胞増殖因子21(FGF21)はFGFファミリーの一つで、209アミノ酸からなる分泌蛋白。FGF21の全身投与により、血糖・中性脂肪の低下作用、膵β細胞の機能の維持、肥満と脂肪肝の改善、レプチン抵抗性の改善、LDL-Cの低下・HDL-Cの増加、アディポネクチンの増加など、さまざまな効果が報告されている。

 網膜でのFgf21の発現には変化がなく、ペマフィブラートは肝臓におけるFgf21の発現を亢進することで血中FGF21濃度を上昇させ、網膜に到達した血中FGF21が抗血管新生に作用する可能性を示された。

 また、フェノフィブラート投与群では、血漿中のFGF21の濃度の上昇と、網膜でのVegfaの発現低下が認められ、肝臓でのFgf21の発現亢進はコントロール群と比べ有意ではなかった。

(3) ペマフィブラートが低酸素誘導因子(HIF-1α)を抑制し、VEGF遺伝子(Vegfa)の発現を制御し、血管新生を抑制する

 ペマフィブラートの投与により、免疫組織化学染色で網膜でのHIF-1α 発現抑制が認められた。また、培養網膜細胞を使った実験でも、FGF21が直接HIF活性を抑制していることが確認された。
 HIF-1αは、低酸素環境下におかれた細胞が生存に必要なさまざまな遺伝子発現を制御する組織恒常性維持に重要な転写因子。

 VEGFは、血管内皮細胞の増殖、血管新生の促進、血管透過性の亢進作用などをもつことから、血管新生が重要な役割を果たす各種疾患との関連が考えられている。抗VEGF薬は眼科領域では、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症にともなう黄斑浮腫、近視性脈絡膜新生血管が適応症として承認されている。

 近年、長期作用型のFGF21が、網膜、脈絡膜において病的新生血管を抑制するという報告や、神経網膜の保護効果をもつことが報告されている。現在、世界各国で約1万人の患者を対象とした大規模な国際共同治験「PROMINENT試験」が行われており、網膜疾患に関する解析も行われる予定だ。

 「さらにFGF21とその網膜症発症・進行との関りを検討することで、失明を防ぐ治療薬の開発の一助となることが期待される」と、研究グループは述べている。

慶應義塾大学医学部眼科学教室
Pemafibrate Prevents Retinal Pathological Neovascularization by Increasing FGF21 Level in a Murine Oxygen-Induced Retinopathy Model(International Journal of Molecular Sciences November 2019年11月23日)

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