1型糖尿病を根治する「バイオ人工膵島移植」 患者と家族を注射から解放 日本IDDMネットワーク

2019.11.20
 1型糖尿病の根治を目指す認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」(井上龍夫代表)は、福岡大学などの研究チームが取り組んでいる「バイオ人工膵島移植」の研究開発を支援している。名古屋大学のインスリンを使わぬ1型糖尿病治療法の開発への支援も決めた。

 ふるさと納税クラウドファンディンも公開しており、1型糖尿病の根治を現実のものにするために、多くの参加を呼びかけている。

1型糖尿病の根治への近道

 1型糖尿病は、インスリンを産生するβ細胞が自己免疫によって攻撃・破壊されることで発症する疾患。β細胞は膵臓の膵島にある。膵島移植は膵島を分離して移植する治療法で、1型糖尿病患者をインスリン治療から解放する根治療法だ。

 しかし、膵島移植には大きな課題がある。そのひとつは膵島を提供するドナーの不足だ。膵島移植が効果的な治療であることは実証されているが、深刻なドナー不足のため、日本での実施数は伸び悩んでいる。また、膵島移植では免疫抑制剤を一生服用する必要がある。

 そこでこの課題を一気に解決する新たな治療法の開発が進行している。それが、異種移植による「バイオ人工膵島移植」の開発だ。

 京都大学の山中伸弥教授のノーベル賞受賞をきっかけに、「再生医療」という言葉が話題になることが多くなった。再生医療は現在、急速に発展している分野で、それにより1型糖尿病を完治できるようになると期待されている。

 バイオ人工膵島移植も再生医療に包括されており、もっとも早く実現が可能な先端研究とみられている。

移植した膵島がインスリンを分泌 免疫抑制剤の必要もない

 「バイオ人工膵島移植」は、ヒト移植用に無菌状態で飼育されたブタの膵島細胞をカプセルに閉じ込め、患者の腹腔内に移植する治療法。移植した膵島がインスリンを分泌する。1型糖尿病を根治させるための新たな選択肢になる。

 この治療法であれば、膵島を大量に安価に入手でき、膵島を特殊なカプセルに封入することで免疫細胞の攻撃を回避できる。

 このカプセルは、インスリンや膵島の生存に必要な栄養は通すが、炎症性物質を通さないので、免疫反応を抑えられる。多くの患者が膵島移植を受けられ、免疫抑制剤の必要もない。

 「バイオ人工膵島移植」は海外ではすでに臨床試験が行われており、インスリン使用量が減少し、低血糖が減少し、患者のQOL(生活の質)が改善することが確かめられている。

患者と家族を生涯の負担から解放 日本IDDMネットワークの目標

ふるさと納税クラウドファンディン
着実に進歩を続ける「バイオ人工膵島移植」

 日本で「バイオ人工膵島移植」の臨床応用を目指して研究を進めているのが、福岡大学医学部の小玉正太教授(再生医学研究所長)の研究グループらだ。現在、課題である長期生着に対して、中大型の動物実験を行い積極的に取り組んでいる。

 この研究には、佐賀県庁「日本IDDMネットワーク指定ふるさと納税」を原資とする研究助成寄付金の一部が寄付されている。2019年11月1日から、「日本IDDMネットワーク」によるふるさと納税を活用したクラウドファンディングで、研究支援プロジェクトが展開されている。

 日本IDDMネットワークは、1型糖尿病の社会的な認知度の向上と理解を促し、一刻も早い「根絶(=予防+治療+根治)」の実現により患者と家族を生涯の負担から解放することを目的に活動しているNPO法人。

 同NPO法人は、バイオ人工膵島移植のヒトを対象とした臨床試験が1日も早く開始されるのを目指し、研究・開発している大学・研究機関の研究費を助成し支援している。

ふるさと納税クラウドファンディンを公開

 このプロジェクトではこれまで、国立国際医療研究センター、福岡大学、京都府立大学、明治大学に、総額1億6,400万円の研究助成を行ってきた。財源となったのは、1型糖尿病の患者や家族、支援者からの「1型糖尿病研究基金」への寄付と、佐賀県庁へのふるさと納税だ。

 ふるさと納税の運営母体は自治体であり、クラウドファンディングでは具体的な寄附金の使い道を指定して寄附ができ、税金の控除も受けられ、お礼の品をもらうこともできる。また、認定NPO法人である日本IDDMネットワークへの寄付は、税制優遇の対象となる。

 1型糖尿病患者・家族が中心となって運営されている日本IDDMネットワークは、2005年に「1型糖尿病研究基金」を設立、2014年より佐賀県庁への「日本IDDMネットワーク指定ふるさと納税」に取り組み、これまで64件、3億1,900万円の研究費助成を行ってきた。

 先進研究の推進や治療法の開発のために「日本の寄付文化を変えた」と大きく注目されている。

 「異種移植」に関する国の指針では、隔離した清潔な環境で動物を育て、数十種類のウイルスの検査を行い、人への感染を防ぐなど安全性を確保することが求められている。感染症を排除した医療用ブタの供給体制の整備が必要とされている。日本IDDMネットワークは、「無菌室を備えた細胞加工施設の整備」にも助成している。

インスリンを使わぬ1型糖尿病治療法の開発にも支援

 日本IDDMネットワークは11月には、名古屋大学が取り組んでいる「レプチン受容体シグナルを介した1型糖尿病の新規治療開発」の研究に、1,000万円の研究支援を行うことを決めた。

 この治療は、脂肪細胞から分泌されるレプチンというホルモンとレプチンの作用を増強する薬剤を組み合わせて投与し、インスリンを使わなくとも血糖値が正常化するというもの。

 実現すれば、1型糖尿病患者はこれまで行っていた毎日4~5回のインスリン皮下注射から解放され、インスリン治療で生じる低血糖の頻度が減るとともに、体重増加のリスクが軽減されると期待されている。

 研究に取り組んでいるのは、坂野僚一・名古屋大学総合保健体育科学センター准教授、伊藤禎浩・名古屋大学大学院医学系研究科寄附講座助教らの研究チームだ。

 今回の支援は、1型糖尿病の根絶に向けた研究への「循環型研究資金」によるものだ。これは、一方的な研究助成ではなく、研究成果が得られたときに、同NPO法人が提供した資金を上限にその研究資金が還元されるというもの。

 こうした患者・家族が中心になって研究資金の循環をつくりだす取組みは、同NPO法人が順天堂大学と契約を交わしたものが国内初で、徳島大学に続いて、名古屋大学が3例目だという。

1型糖尿病の根治治療が1日も早く実現するよう、研究のサポートをする募金を呼びかけている。

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