日本糖尿病学会と日本糖尿病協会がアドボカシー委員会を設立 糖尿病であることを隠さない社会づくりを目指す

2019.11.15
 日本糖尿病学会(理事長:門脇孝・東京大学大学院医学系研究科糖尿病・生活習慣病予防講座特任教授)と日本糖尿病協会(理事長:清野裕・関西電力病院総長)は、糖尿病患者が疾患を理由に不利益を被ることなく、治療の継続により糖尿病のない人と変わらない生活を送ることができる社会環境を構築することを目指して、両会合同で「アドボカシー委員会」を設立すると発表した。今後、各種調査・研究を実施し、エビデンスを集積することで、社会の意識や仕組みを変革していきたいとしている。

ネガティブな面を強調した情報が独り歩きすることで誤解が拡がった

 両会は、糖尿病に対するスティグマを放置すると、糖尿病患者が社会活動で不利益を被るのみならず、治療に向かわなくなるという弊害をもたらすため、糖尿病であることを隠さずにいられる社会を作っていく必要性をあらためて認識したとしている。

 両会は今後、糖尿病の正しい理解を促進する活動を通じて、糖尿病があっても安心して社会生活を送り、人生100年時代の日本でいきいきと過ごすことができる社会形成を目指す活動(アドボカシー活動)を展開する。

1. 糖尿病とスティグマ

 スティグマは、特定の属性に対して刻まれる「負の烙印」という意味をもち、誤った知識や情報が拡散することで、対象となった者が精神的・物理的に困難な状況に陥ることをさす。日本では、予備群を含む糖尿病患者数は2,000万人となり、成人の4人に1人が関係する一般的な疾患となっているが、患者を取り巻く人々がもつ知識は正確なものばかりではない。

 近年、糖尿病治療は飛躍的に向上し、血糖コントロールを良好に保てば、健常者と変わらない生活を送ることができるにもかかわらず、古い情報にもとづく判断により、必要なサービスが受けられない、就職や昇進に影響する、などの不利益を被るケースが報告されている。こうしたスティグマを放置すると、患者は糖尿病であることを周囲に隠す → 適切な治療の機会損失 → 重症化 → 医療費増 → 社会保障を脅かす、という悪循環に陥り、個から社会全体のレベルまで、さまざまな影響を及ぼすことになる。

2. 医療情報の解釈

 日本の統計で糖尿病患者の約70%は高齢者であり、患者の生命予後が著しく改善されていることが示唆されている。しかし、統計上の糖尿病患者にはHbA1cが非常に高い患者から低い患者までがすべて含まれるため、糖尿病をもつ人の寿命が非糖尿病者より10年短いなど、誤ったメッセージが発信されることが多くある。

 また、糖尿病患者はがんや認知症も発症するリスクが高い、など糖尿病に起因する合併症の範囲が広がる傾向にあるが、それらは「併発症」の概念で説明できるものが多く、糖尿病治療の進歩により長寿の患者が増加したことに起因しているのではないかと考えられる。

 両会は「正しい治療を適切に続ければ、一病息災で長寿を全うできる。血糖コントロールを適切に行うことで合併症発症を減らし、医療費削減にも貢献できる」ことを社会に発信し、患者が治療を継続できるような環境づくりを目指す必要があるとしている。

3. 医療者にも求められる意識変革

 合併症発症予防を目的とする治療中断の阻止、受診勧奨など、これまでの糖尿病啓発では、合併症の恐ろしさを強調して患者自身の自覚を促す切り口が多く、患者の置かれた環境を理解し、それにもとづく実行性の高い指導を行うという視点に乏しい面があった。ネガティブな面を強調した情報が独り歩きすることで、社会における糖尿病に対するスティグマが助長されてきた面が否めない。

 また、「糖尿病」という病名についても、排泄物の名がつく病名であり、患者が病名により不利益を被る可能性があることにも配慮する必要があるとしている。

一般社団法人 日本糖尿病学会
公益社団法人 日本糖尿病協会
日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が2019年11月14日に読売新聞に掲載した
アドボカシーに関する意見広告

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