急性心不全患者の腎機能悪化を早期に予測する指標を発見 国立循環器病研究センター

2019.08.29
 国立循環器病研究センターは、急性心不全患者における腎機能悪化と脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の内在分子の比率の変動の関連性をはじめて明らかにしたと発表した。

活性型BNPとNT-proBNPが腎機能に関連

 心不全患者における入院中の腎機能悪化(WRF)は、しばしば認められる重要な合併症のひとつ。心不全の治療入院中に急激に腎機能悪化を起こす率が高く、心不全患者の長期予後にも悪影響をおよぼすため、その早期発見は重要な課題とされてきた。

 腎機能の評価は血中のクレアチニン濃度にもとづき評価する方法が一般的だが、クレアチニンは年齢や体重、筋肉量などの影響を受ける点や、腎機能悪化からクレアチニン上昇までに時間を要する点などが問題となっている。そのため、より早期に腎機能悪化を発見する腎機能評価法やバイオマーカーの確立が望まれている。

 心不全患者は、心臓で脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の産生が亢進するため、BNPは心不全のバイオマーカーとして世界中で広く利用されている。BNPは心筋細胞内で前駆体(ProBNP:BNPのもととなる物質)として合成され、活性型BNPと非活性型であるNT-proBNPに切断されて放出される。

 この2つの分子は、心不全のバイオマーカーとして広く利用されているが、その代謝経路には大きな差異があった。すなわち、活性型BNPとNT-proBNPは、前駆体のProBNPから1:1の割合で生成し、活性型BNPはクリアランス受容体に結合して速やかに代謝されるが、NT-proBNPは腎臓により代謝され血中から徐々に除去される。

 そこで研究グループは、心臓から産生・分泌されるこの2つの分子の代謝の差異が腎機能と関連すると考え、この現象が心不全患者の腎機能悪化の予測に利用できるとの仮説を立て検証を行った。

NT-proBNP/推定活性型BNPの比率は早期に上昇

 研究グループはまず、ProBNPを特異的に測定する方法を開発。この方法と総BNP(total BNP)濃度を用いて、活性型BNPの推定値(推定活性型BNP=総BNP-ProBNP)の算出を可能にした。

 そこで、入院後の研究説明に同意を得た患者から計4回の血液採取を行い、この推定活性型BNP、NT-proBNPの濃度と腎機能の推移を検討。NT-proBNPは入院後、WRF発症者と非発症者の間で差異が認められなかったのに対して、推定活性型BNP濃度はWRF発症者で低下が認められた。

 さらに、両者の比率(NT-proBNP/推定活性型BNP)は、クレアチニンをもとに計算された推定糸球体濾過量の上昇よりも、早期に上昇することを確認した。

 この現象(NT-proBNP/推定活性型BNP比率と腎機能の関係)は、心不全の重症度の高い患者(NT-proBNP中央値より高値の患者)で、より顕著に認められることを明らかにした。

急性心不全の急性期の腎機能の評価法は非常に重要

 急性心不全入院後3日目に、NT-proBNP/推定活性型BNP比率が増加し、その高値群ではcGMP濃度が上昇していることから、WRFを起こす症例ではクリアランス受容体(NPR-C)とNPR-Aの発現が亢進するなどの考察も可能だが、今後の原因究明と検証が必要だしている。

 研究は、国立循環器病研究センターの髙濱博幸・心不全科医師、泉知里・心臓血管内科部長、南野直人・創薬オミックス解析センター特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、米国の科学誌「Journal of American Heart Association」に電子版に掲載された。

 今回の研究は、従来は複数の分子をまとめて測定していたBNPという検査項目(総BNP)を、同センターの創薬オミックス解析センターで、BNPの検査項目を構成する分子であるproBNP、推定活性型BNPなどを測定・解析可能としたことにより実施できた。

 「急性心不全の急性期において腎機能の評価法は非常に重要でありながら、良い評価法や指標がなかった。この問題の解決に、今回の新しい指標が役立つように、より多くの症例で測定を行い信頼度を十分検証して、臨床での使用へと研究を進める」と、研究グループは述べている。
国立循環器病研究センター
Change in the NT‐proBNP/Mature BNP Molar Ratio Precedes Worsening Renal Function in Patients With Acute Heart Failure: A Novel Predictor Candidate for Cardiorenal Syndrome(Journal of American Heart Association 2019年8月23日)

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