慢性腎臓病(CKD)治療に大きなギャップ 糖尿病と高血圧の治療が不十分、スタチン使用も限定的

2019.07.12
 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究で、米国の慢性腎臓病(CKD)の患者は、高血圧と2型糖尿病の罹患率が高く、また十分に管理されていないことが明らかになった。治療ガイドラインで推奨されているスタチンの使用も水準を下回っている。詳細は「Clinical Journal of the American Society of Nephrology」に7月11日付で掲載された。

CKD治療で高血圧と高血糖のコントロールが不十分 スタチン使用も限定的

 米国のCKD有病者数は3,000万人以上に上る。有効な治療法はあるにもかかわらず、2006~2014年の調査によると、CKD患者の50%近くが高血圧のコントロールが不十分で、40%が2型糖尿病のコントロールが不十分だ。

 「CKDと診断された患者で治療の質にかなりのギャップがあります。10年以上も改善されておらず、CKD治療の質を改善するための介入が必要です」と、UCSFの腎臓病専門医であるスリ レッカ タマラパリ氏は言う。

 CKDにより腎機能が低下あるいは腎障害の状態にある米国人は13.6%に上り、2020年までに14.4%、2030年までに16.7%に増加すると予測されている。末期腎臓病(ESRD)にまで進展すると、患者の予後が悪化し、死亡率や医療費が上昇する。

 USRDS(United States Renal Data System)によると、メディケア加入者のうち、CKDの総医療費は2016年には790億ドル(8兆5,320億円)、ESRDの医療費は350億ドル(3兆7,800億円)を超える。

 しかしCKDの治療は複雑で、腎不全を予防し患者の健康を守るために、複合的な介入が必要となる。患者の生活習慣改善を指導し、薬物療法で高血圧、高コレステロール、高血糖をコントロールしなければならない。

 タマラパリ氏らは今回の研究で、米国の一般診療医を対象とした全米外来診療調査(NAMCS)のデータを使用し、9年間にわたるCKDの診療所ベースの外来診療を調査した。血圧測定、管理されていない高血圧・糖尿病、50歳以上の患者のスタチン使用、および非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用などをレビューした。

 CKD患者の7,099件の受療記録を評価した結果、コントロールされていない高血圧の有病率は2006~2008年に46%、2012~2014年に48%と、統計的な有意差はみられなかった。コントロールされていない糖尿病の有病率は2012~2014年に40%に上った。

 NSAIDの使用率は2006~2014年に平均3%と低く、50歳以上の高コレステロール血症を併発したCKD患者でのスタチンの使用は、米国心臓病学会(ACC)および米国心臓協会(AHA)の治療ガイドラインにも関わらず、2006~2008年の29%から2012~2014年の31%へと統計学的に変化していなかった。
 研究者は、CKD治療の質の評価基準が整備されておらず、ガイドラインについての知識が不足していることが、全体的な質の低下につながっていると指摘。腎臓病専門医への紹介率が低いと、CKD治療の質を維持するのは難しくなるとしている。

 「地域のプライマリケア医のほとんどがCKDを診療しており、多職種による医療連携で中心的な役割を担うことが求められています」と、タマラパリ氏は指摘している。

 「CKD患者の慢性疾患管理は、疾患の進行を遅らせ、腎不全と心血管イベントのリスクを減らすために不可欠です。一方で、高血圧と糖尿病の管理を改善するのは困難で、より効果的に医療を提供し、生活習慣の改善と服薬遵守をサポートするために多面的な取組みが必要とされています。より効率的でスケーラブルなシステムを構築することが、今後10年間の医療での大きな仕事となります」としている。

Chronic Kidney Disease Patients Face Continual, Significant Gaps in Care(カリフォルニア大学サンフランシスコ校 2019年7月11日)
Trends in Quality of Care for Patients with CKD in the United States(Clinical Journal of the American Society of Nephrology 2019年7月)

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