【レポート】スローカロリー研究会 第5回年次講演会 ゆっくり吸収されるカロリーを具体的に活用

2019.03.26
 一般社団法人スローカロリー研究会は、第5回年次講演会「スローカロリーの考え方について正しく知ろう!~実際にスローカロリーを活用してみました~」を、3月11日に東京のトラストシティ カンファレンス・丸の内で開催した。
一般社団法人スローカロリー研究会 第5回年次講演会

糖質の摂り方や選び方に着目

 日本では糖尿病、高血圧、脂質異常症など、動脈硬化を促す生活習慣病が増えている。これらの病因が重なり、内臓脂肪が増えることで発症するメタボリックシンドロームも注目されている。こうした課題を解決するために、「スローカロリー」という新しい考え方が誕生した。

 「スローカロリー」とは、糖質が健康に与える影響をカロリーの「量」のみでみるのではなく「質」に着目しようという考え方だ。糖質(炭水化物)は三大栄養素のひとつ。糖質を摂らないと、脳や身体がエネルギー不足となり健康を維持できなくなる。

 カロリー値は同じでも、消化・吸収の速度が遅く、食後の血糖上昇や過剰なインスリン分泌を抑える食品は、持続型のエネルギーとなり、日常生活やスポーツなどにおいて健康増進の効果をもたらす。

 「スローカロリー研究会」は、「スローカロリー」の有用性について調査・研究を進め、情報を発信するために活動している。このほど「第5回年次講演会 スローカロリーの考え方について正しく知ろう!」を東京で開催した。
講演1「糖尿病一次予防へのスローカロリーの活用」
難波光義 氏(兵庫医科大学病院病 院長)

日本人の生活スタイルやニーズは変化している

 日本の糖尿病患者数は約1,000万人とされており、うち65歳以上の占める割合が70%を超えている。いまや糖尿病患者の4人に3人が高齢者だ。糖尿病の治療は一生にわたるため、年代に応じた治療戦略が必要となる。

 日本人の生活スタイルは1950年頃から急速に変化し、ファストフードやインスタント食品、コンビニが普及し、高脂質・高糖質で食物繊維の少ない食事が多くなった。住環境の変化や乗用車の普及などにより運動不足も日常化している。

 血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きによって、臓器は血糖をとりこんでエネルギーとして利用したり、蓄えたりする。2型糖尿病の人では、肥満などを原因に、インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性が憎悪しやすい。

 加えて、インスリンの食後の追加分泌が遅延したり低下すると、結果として食後の血糖値が高くなりやすい。インスリン分泌遅延が食後高血糖をまねき、これにより持続するインスリン分泌が反応性低血糖へとつながり、それがさらに食欲の亢進をまねくという悪循環に陥ってしまう。

注目されるインクレチン効果

 摂取後の吸収が速い食物を食べると、血糖上昇が大きくなり、膵臓へのダメージも大きい。こうした課題を解決する鍵となるのが「インクレチン」だ。インクレチンには、食後に高くなりやすい血糖値をコントロールする作用がある。

 インクレチンは、食事を摂取したとき腸管から血液中に分泌される消化管ホルモンで、インスリンを増加させたり、血糖を上げるグルカゴンの分泌を抑制したりする。とくに代表的なインクレチンであるGLP-1には、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴がある。

 しっかり良く噛む、食事は野菜・海藻・キノコ類から食べ始める、肉よりも魚(青魚)の献立を優先するなどの工夫をすると、インクレチンの合成を高めやすくなるという報告がある。

「パラチノース」でスローカロリーを実践

 「パラチノース」のような糖を利用するのも効果的だ。パラチノースは砂糖を原料として作られる糖で、ブドウ糖と果糖が砂糖と異なる位置でつながった構造をしている。

 「パラチノース」を摂取すると、普通の砂糖(ショ糖)を摂取した場合に比べ、血液中へのブドウ糖の流入が緩やかであり、血糖の上昇やインスリン分泌の急激な変化を引き起こしにくいことが確かめられている。

 「パラチノース」は、それ自体の吸収が遅いことに加え、小腸に分泌しグルカゴンの分泌を促進するGIPの分泌を少なくし、GLP-1の分泌を促進する作用もあることも報告されている。

 「パラチノース」の甘味度はショ糖の半分だが、甘味の質はショ糖によく似ており、まろやかでスッキリしていて後味に異味がないのが特長だ。

講演2「スローカロリーの認知と応用の実態~アンケート調査から」
宮崎 滋 氏(一般社団法人スローカロリー研究会 理事長)

スローカロリー研究会の活動

 スローカロリー研究会は、「スローカロリー」の可能性をさぐり、社会に啓発することを目的に2015年に設立され、その活動は5年目を迎えた。講演会、日本病態栄養学会や日本肥満症予防協会などとの連携セミナー、産学交流会、教育資材の制作、すろかろアンバサダー(スローカロリー活用&事例収集事業)の開始、ホームページやFacebookでの情報公開など、積極的に活動している。

 糖質の「質」に着目し、食べ方を工夫して、消化吸収をゆっくりにするのが「スローカロリー」の考え方。消化吸収が早いと、肝臓への糖流入速度が早くなり、急激な血糖上昇とインスリンの過剰分泌を起こすおそれがある。

 ゆっくり消化吸収されれば、肝臓への糖流入速度が遅く、血糖がゆっくり上がり、インスリンの過剰分泌を抑え、血糖がゆっくり下がるようになる。

 「スローカロリー」によって、内臓脂肪がつきにくかったり、満腹感が持続するといった効果を期待できる。「スローカロリー」に多くの効用があることがさまざまな研究で明らかになっている。

「スローカロリーの認知と応用の実態」アンケート

 今年1月に、栄養指導や保健指導の現場に関わる専門職を対象に、「スローカロリーの認知と応用の実態」アンケートを実施。「スローカロリー」について76.5%が認知しており、78.7%が理解しているという結果になった。

 一方で、「スローカロリー」について理解はしているが、「指導できるまでのスキルや指導箋などがない」「一般の方や高齢者に説明する時間の余裕がない」という声も寄せられた。

 糖質コントロールと、体重減少などを目的したカロリーコントロールとの違いについて、「大変に興味がある」(56%)ことも示された。食の問題は、単に「量」の加減だけでは解決が難しいとの実感を、現場の指導者の多くが抱いていることが示された。

 糖質は生きるために必要なエネルギー源であり、思考や活動のために中心的な役割を果たしている。糖質を適切に摂取しないと、栄養バランスが崩れ、活動力や思考力も落ちてしまう。

 「スローカロリー」を、肥満、メタボ、生活習慣病、食育、フレイル、ロコモなどへの対策に活用することが期待されている。スローカロリー研究会の今後の活動について、「科学的な情報」「指導者向けに具体的な活動内容」を発信してほしいという声が寄せられた。

事例報告1「老舗すきやき屋でのスローカロリーシュガーによる取組み
~食環境をより良くするために~」

森 真理 氏(東海大学健康学部健康マネジメント学科 准教授)
同志社大学プロジェクト科目履修生
 森氏らは、1日1食だけでも栄養バランスの良い健康的な食事に置き換えると、生活習慣病リスクが軽減できることを、「1日1膳プロジェクト」で実証している。そうした栄養バランスの良い献立により利用者の健康リスクを軽減する食環境の構築を提案している。

 そのなかで、京都の老舗のすき焼き店の協力を得て、砂糖の代わりに「パラチノース」を利用し、血糖値の上昇にどのような影響があるかについてデータを収集する研究を行った。「スローカロリー」の考え方に興味を示した京都の大学に通う女子大生3名が、すき焼きに使用される砂糖をスローカロリーにした場合の影響を調査。純粋に知りたいという気持ちからはじめたという。

 その結果、通常の砂糖の利用時に比較し、「パラチノース」使用時では、最大血糖値の上昇時間に30分の遅れがあることを確認。「パラチノース」を使ったすき焼きでは、食後の血糖値の上昇が穏やかであることが分かった。また、砂糖と「パラチノース」を利用したすき焼きの味の差はまったく感じられず、両方ともにおいしく食べられた。

 このように、実際の外食産業との協力が進めば、スローカロリーの考え方にもとづく献立開発は、あらゆる場所でも可能になるとみられる。将来的には、消費者を巻き込みながら外食産業と実食データを構築し、生活習慣病の予防・改善に有効な食環境の実現を期待している。

事例報告2「スローカロリーにおける郄島屋での今後の展開について」
小坂直也 氏(株式会社髙島屋)
 郄島屋は三井製糖とコラボレートして、新しいお菓子のコレクションである「スローカロリー倶楽部」を展開している。糖質量は変わらず、本来のおいしさを楽しみながら、ゆっくり吸収されるというスローカロリーの考え方を活かしたスイーツが「スローカロリー倶楽部」だ。

 これまで「パラチノース」を使用した「どら焼き」「大福」「種まき」「フルーツロール」「ムース ペシェ」「フルーツフィナンシェ」などを開発し、髙島屋各店で販売している。「スローカロリー倶楽部」の立ち上げ時にメディア試食会を開催し好評を得て、メディアでも数多く紹介された。

 2018年には三井不動産のオフィス事業「三井のオフィス」と協力し、「働く人を応援する」をコンセプトに、「スローカロリー倶楽部」の新たなラインアップを展開。

 「仕事の合間に手軽に食べたい」「間食として利用したい」「集中力を持続したい」といった働く人の声を活かして、これまで満たされなかったニーズに応えるスイーツを商品化した。コレド日本橋オフィスビル内で試食会を開催するなど、積極的に活動している。
一般社団法人スローカロリー研究会
スローカロリー倶楽部(スローカロリープロジェクト)

一般社団法人スローカロリー研究会
第5回年次講演会「スローカロリー」の考え方について正しく知ろう!~実際にスローカロリーを活用してみました~
2019年3月11日(月)18:00~20:00
トラストシティ カンファレンス・丸の内

司会進行:奥野雅浩 氏(一般社団法人スローカロリー研究会 理事)

開会のご挨拶
宮崎 滋 氏(一般社団法人スローカロリー研究会 理事長)

講演1「糖尿病一次予防へのスローカロリーの活用」
難波光義 氏(兵庫医科大学病院病 院長)

講演2「スローカロリーの認知と応用の実態~アンケート調査から」
宮崎 滋 氏(一般社団法人スローカロリー研究会 理事長)

事例報告1「老舗すきやき屋でのスローカロリーシュガーによる取組み~食環境をより良くするために~」
森 真理 氏(東海大学健康学部健康マネジメント学科 准教授)
同志社大学プロジェクト科目履修生

事例報告2「スローカロリーにおける郄島屋での今後の展開について」
小坂直也 氏(株式会社郄島屋)

パネルディスカッション、Q&A

[提供:一般社団法人スローカロリー研究会

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料