脳由来神経栄養因子(BDNF)の投与により心不全による運動能力低下が改善 糖尿病への応用に期待

2019.01.23
 北海道大学は、心不全による骨格筋ミトコンドリア機能と運動能力の低下が、神経系の成長や維持に不可欠なタンパク質である脳由来神経栄養因子(BDNF)の投与により治療できることを明らかにした。
 従来は心不全による運動能力低下は運動トレーニングだけが唯一の治療法とされてきたが、BDNF投与でも治療できるという。心不全に限らず、糖尿病などの慢性疾患でも健康寿命の延伸を期待できるとしている。

身体活動が制限された患者された患者への治療が必要されている

 心不全患者は運動能力が低下し、また運動能力の低下と心不全の予後不良は密接に関連している。これには骨格筋ミトコンドリア異常が関わっていると考えられる。運動トレーニングは、運動能力と末梢骨格筋異常を改善する唯一の治療法であり、心不全の予後を改善する。しかし、重症の心不全患者では身体活動が大幅に制限され、十分な運動トレーニングを行えないことが多く、代わりとなる薬物治療の開発が求められている。

 脳由来神経栄養因子(BDNF)は、神経系の成長や発達・維持に関与しており、運動により血中や骨格筋でのBDNF発現が増加する。研究グループはこれまで、心不全患者は血中BDNFが低下し、その血中レベルが運動能力と密接に関連していることや、血中BDNFが心不全の生命予後・心不全による再入院などと関連することを明らかにしていた。

 今回の研究では、心不全モデルマウスへのBDNF投与により、運動能力の低下と骨格筋ミトコンドリア機能低下が改善するという仮説を立て検証した。研究は、北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学教室の絹川真太郎氏らの研究グループによるもので、詳細は「Circulation」に掲載された。
脳由来神経栄養因子(BDNF)の投与は心不全における運動能力低下を改善する

運動能力低下と骨格筋ミトコンドリア機能異常が治療可能に

 研究グループはまず、心臓の左冠動脈を糸で縛り心筋梗塞・心不全を誘導した心筋梗塞後心不全モデルマウスと、比較対象として心臓の左冠動脈に糸を通す処理のみを施したマウス(偽手術群)を用いて解析。心筋梗塞作成2週間後に心機能評価(心エコー検査)、運動能力評価(小動物用トレッドミル)、取り出した骨格筋のミトコンドリア機能評価(高感度ミトコンドリア呼吸能測定装置)を行った。

 さらに別の群のモデルマウスを作成し、心筋梗塞手術後2週間目より、リコンビナントヒトBDNF(1日あたり5mg/kg体重)または同BDNFを含んでいない溶媒を2週間皮下投与した。その後、心機能、運動能力、骨格筋ミトコンドリア機能を評価した。

 その結果、心筋梗塞の2週間後、心機能は障害され、心不全を呈した。同時に、運動能力も偽手術群のおよそ40%程度まで低下し、骨格筋ミトコンドリア機能は低下していた。

 一方、リコンビナントヒトBDNFを2週間投与した心筋梗塞後マウスでは、溶媒を投与した心筋梗塞後マウスと比較して、有意に運動能力が回復(偽手術群のおおよそ70%まで)。また、骨格筋ミトコンドリア機能も有意に改善したが、心機能や身体活動量には影響しなかった。骨格筋のBDNF発現量をウエスタンブロット法で調べたところ、心筋梗塞後マウスではその発現量が低下し、BDNFの投与で改善した。

 これらの結果より、(1)心筋梗塞後心不全モデルの運動能力低下や骨格筋ミトコンドリア機能異常と骨格筋BDNFが密接に関連していること、(2)リコンビナントヒトBDNFによって心不全の運動能力低下と骨格筋ミトコンドリア機能異常が治療できることが明らかとなった。

 研究グループは、「高齢の心不全患者が増加している現代は、運動能力改善を目指した治療法の開発が重要な課題となっている。今回の研究は運動能力をターゲットとした新たな治療法の発見であり、臨床応用を目指した研究へとつながる貴重な基礎研究であると評価されている」とし、「骨格筋ミトコンドリア機能異常にもとづく運動能力低下は、糖尿病をはじめとする種々の慢性疾患での健康寿命の短縮に関与している。研究結果の幅広い疾患への応用も期待できる」と、述べている。

北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学教室
Brain-derived neurotrophic factor improves limited exercise capacity in mice with heart failure(Circulation 2018年10月29日)

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