「腎機能が低下した患者」に誤った量の薬を提供 医療機能評価機構が注意喚起

2018.12.27
 薬剤量の減量などが必要な「腎機能が低下している患者」に対し、誤って通常量の薬剤を提供してしまい、患者に悪影響が生じた――。こうした事例が、2014年1月から2018年10月までに8件報告されたことが、日本医療機能評価機構が公表した「医療安全情報 No.145」で明らかになった。

腎機能低下患者への薬剤の常用量投与

 薬剤には添付文書上、腎機能が低下している患者には投与量を減らすことや慎重に投与することが記載されているものがある。これらの薬剤を通常の用法・用量で腎機能が低下している患者に投与すると、患者に大きな影響を与える可能性があるため、注意が必要となる。

 日本医療機能評価機構は、医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故に至る前に防げたが、その可能性がありヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を、全国の医療機関から受け付けている(国立病院や特定機能病院などについては義務付け)。その内容や背景を詳しく分析したうえで、事故の再発防止に向けた提言を行っている(医療事故情報収集等事業)。

 また、事故事例から「とくに留意すべき事例」を毎月ピックアップし、「医療安全情報」として公表。医療現場で情報を共有し、医療事故の発生予防・再発防止を促している。12月17日に公表された「No.145」は「腎機能低下患者への薬剤の常用量投与」がテーマ。

 飲んだ薬は小腸から吸収され肝臓を通って血中へ入り、腎臓で処理される(薬によっては肝臓で処理される)。体に入った薬は病気に対してさまざまな場所で作用した後、徐々に腎臓から尿として、または肝臓から胆汁として排出される。

  腎不全や腎機能が低下した患者では、薬剤を体外に排出する能力が落ちており、薬が効きすぎたり、中毒量になってしまう危険性がある。そのため、薬の種類と腎機能低下の程度に応じて、通常よりも減量した薬剤の投与を行ったり、投与間隔を調整する、あるいは腎臓からの排出の少ないタイプの薬を選ぶといった対応がとられる。

薬剤を処方する前に患者の腎機能を把握する必要が

 しかし、ある病院では、透析を受けている患者が夜間に外来を受診したときに、対応した医師が「病歴から透析を受けている」ことは把握していたものの、「薬剤減量の必要性」を把握しておらず、通常量の薬剤(帯状疱疹などの治療に用いる「バルトレックス錠」)を処方。服用した患者に呂律の緩慢や幻視が生じたため、入院することになった。

 また、別の病院では、医師が「患者が透析を受けている」ことを把握せず、通常量の薬剤(抗菌剤の「クラビット錠」)を処方。後にその患者の嘔吐症状が強くなり、汎血球減少が認められ、内服が中止になった。

 いずれも、薬の添付文書には、腎障害のある患者などで副作用が現れやすいことや、腎機能の低下した患者では高い血中濃度が持続するので必要に応じて減量する必要があることなどが記載されている。

 同機構では、▼医師は、薬剤を処方する前に患者の腎機能を把握し、患者の腎機能に応じた用量で処方する、▼薬剤師は、腎臓で代謝・排泄される薬剤を調剤する際は、患者の腎機能を確認する――といった注意喚起をしている。

糖尿病の治療薬についても注意を喚起

 日本腎臓病薬物療法学会では、「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」を公開しており、糖尿病の治療薬についても注意を呼びかけている。

 とくに高齢の糖尿病患者では腎機能が低下していることが多く、糖尿病腎症の合併はさらに腎機能の低下を進行させる。腎機能の低下した2型糖尿病患者に血糖降下薬を使用すると、低血糖をはじめとした副作用が起こりやすいので、薬剤の使用には十分な注意が必要だ。

 糖尿病の薬では、スルホニル尿素(SU)薬は、重度の腎機能障害のある患者への投与は禁忌となっている。軽度あるいは中等度の腎機能障害患者に対して使用する場合は少量にとどめ、低血糖に十分に注意する必要がある。

 ビグアナイド薬でもっとも注意しなければならない副作用は「乳酸アシドーシス」だ。中等度以上の腎機能障害がある患者では腎臓での排泄が減少するため禁忌となっている。また、速効性インスリン分泌促進薬は単剤投与で低血糖を起こすことがあるので、腎機能が低下した患者では注意が必要だ。DPP-4阻害薬は腎機能が低下していると血中濃度が上昇するため、必要に応じて減量を考慮する必要がある。

 GLP-1受容体作動薬の中では、バイエッタ皮下注は腎臓で分解されるため、腎機能が低下した患者では胃腸障害が起こりやすいので、透析患者を含む腎機能障害のある患者では禁忌となっている。

 一方、ビクトーザ皮下注やリキスミア皮下注は、体内で分解されると尿中へ排泄されないため、減量の必要がないと考えられているが、新しい薬で使用経験が少ないので慎重投与となっている。

医療事故情報収集等事業(公益財団法人 日本医療機能評価機構)
腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与方法一覧(日本腎臓病薬物療法学会)

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