レポート『糖尿病領域における血糖コントロールの最前線』

2018.11.26
糖尿病のインスリン治療において、最も懸念すべきトラブルの一つ、低血糖。重症化すると最悪の場合、死に至るケースもある。重症低血糖を起こす患者の特徴とは? 低血糖を防ぐ手立てとは? 徳島大学先端酵素学研究所 糖尿病臨床・研究開発センター 松久宗英先生のご講演をレポートする。

1型は年齢に関係なく、2型は高齢の患者に好発
重症低血糖を起こす糖尿病患者の特徴

 日本メドトロニックが11月9日にメディア勉強会「糖尿病領域における血糖コントロールの最前線」を開催。低血糖は、インスリンや血糖を下げる薬が効きすぎて、血糖が下がりすぎてしまう状態を言い、血糖値の降下とともに症状は悪化し、血糖値が55mg/dLを下回ると、発汗やふるえ、動悸などの症状がではじめるが、自覚症状がまったく起こらず重症化してしまうケースもある。

 2017年に日本糖尿病学会が発表した「糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告」によると、「自己のみでは対処できない低血糖症状があり、発症・発見・受診時の静脈血漿血糖値が60mg/dL未満であることが明らかにされていることが望ましい」と定義された重症低血糖患者のうち、1型糖尿病の場合は、発症時の年齢やHbA1c値にかかわらず重症低血糖を起こしている傾向が見られたという。

 一方、2型糖尿病の場合は明らかに高齢の患者に多く(中央値77.0歳)、発症時のHbA1cが低い傾向が見られた。また1型糖尿病では、2型糖尿病よりも重症低血糖に陥る前に症状を感じない「無自覚性低血糖」が多かった。

 すなわち1型糖尿病にとって重症低血糖は、いつでも誰にでも起こりうるものであり、2型糖尿病では、特に高齢者で、自覚症状があったにも関わらず対応ができず重症化を招く可能性がある。

<低血糖の症状>
【血糖値55mg/dL未満】(おもに交感神経症状)
 発汗 ふるえ 動悸 空腹感 頭痛
【血糖値50mg/dL未満】(おもに中枢神経症状)
 眠気 脱力感 めまい 集中力の低下 不安感 抑うつ 不機嫌 周囲との不調和
【血糖値30mg/dL未満】
 異常な行動 けいれん 意識がない 手足のまひ 昏睡

繰り返すことで無自覚化 重症低血糖によるダメージは長期に及ぶ

 低血糖時は、脳への糖の供給を確保するため、糖の産生が促され、骨格筋では糖の利用が抑制される。この生体反応に関わっているのが、グルカゴンやアドレナリン、ノルアドレナリンといったホルモン。低血糖時に発汗やふるえといった症状が出るのは、アドレナリンやノルアドレナリンの分泌が増えることで、交感神経が活性化されるからだ。しかしこの生体反応がうまく働かない場合があるという。「1型糖尿病患者さんは、グルカゴンの反応が悪いため低血糖が起こりやすくなります。また低血糖を繰り返すと、アドレナリンやノルアドレナリンが反応しなくなり、交感神経系の症状が出なくなるため、無自覚性低血糖を起こしやすくなります」と松久先生。低血糖を繰り返すことで、重症化のリスクが高まるおそれがある。

 さらに重症低血糖は、急性期には神経症状の後遺や認知機能の低下、最悪の場合、死亡といった有害事象が起こりうるが、長期にわたっても心血管イベントや死亡リスクに関連するという。

低血糖予防のために~運転時の患者指導~

 1型糖尿病患者や、インスリン治療、およびスルホニル尿素(SU)薬で治療をしている2型糖尿病患者、高齢者、腎機能が低下している患者、無自覚性低血糖を有する患者は、重症低血糖の高リスク者といえる。松久先生は、こうした高リスク者に対して、低血糖の教育、低血糖の可視化、低血糖のリスクを低減した治療への変更といったアプローチが大切だと述べた。

 低血糖教育については、例えば運転時の低血糖予防策として、運転前に必ず血糖を測定する(目安は 100mg/dL以上)、血糖を上昇させる際は「1gブドウ糖で5mg/dL上昇」を目安にする、車中に糖含有ジュースを常備することを指導しているという。
 さらに低血糖が疑われる場合には、すぐに停車し糖質補給すること、血糖自己測定が難しい場合は糖質補給を優先させるよう呼びかけた。また脳機能の回復には時間を要するため、血糖が改善してもすぐに運転を再開せず、車の外を歩くなどして様子を見ることが大切だという。

低血糖を予測する「リアルタイムCGM」への期待

 今年3月にCGMを搭載したインスリンポンプ(SAP)「ミニメド640G」を発売開始し、話題を呼んだ日本メドトロニックが、12月にアラート機能付きのリアルタイムCGM「ガーディアンコネクト」を上市予定だ。「ガーディアンコネクト」には、低血糖を予測し事前にアラートで知らせる機能がついている。「患者さんは血糖値が高いことがわかると、必死で血糖を下げようとして、それが低血糖の原因になることもある。アラート機能だけで重症低血糖を完全に予防することはできませんが、低血糖を予測して教えるこの新しいCGMに期待しています」。

「重症低血糖を治療する薬は現在のところまだありません。だからこそ、低血糖を予防することが大切なのです。重症低血糖の認知を広げるための啓発活動をこれからも続けていきたい」と松久先生は最後に強調した。

低血糖の軽減を目指した、日本メドトロニックのSAP & CGM

ミニメド640G システム
パーソナルCGM機能搭載インスリンポンプ

グルコース値が、事前に設定した下限値に達する、または近づくと予測されると自動的にインスリン注入を中断し、グルコース値の回復が確認されるとインスリン注入を再開する日本初のシステム「スマートガード」搭載。


2019年12月3日発売予定
ガーディアンコネクトシステム
予測アラート機能付きリアルタイムCGM

グルコース値が、事前に設定した上下限値に達した場合、または上下限値に達すると予想される場合に、アラートで通知する。さらに、家族や医療従事者もデータにアクセスできるほか、アラート発生時にはショートメールで知らせる。

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