「夜間低血糖」をいかに防ぐか FGMを活用した新しい糖尿病治療 第61回日本糖尿病学会年次学術集会

2018.06.21
 夜間に起こる無自覚性低血糖は、患者のQOL(生活の質)を大きく下げるだけでなく、命に危険を及ぼすこともある深刻な状態だ。夜間低血糖をいかに防ぐかが大きな課題となっている。
 フラッシュグルコースモニタリング(FGM)を活用すると、夜間低血糖の回数が減ることが明らかになった。
 スコットランドのエディンバラ大学クイーンズ医学研究所(QMRI)のBrian M. Frier教授が、東京で開催された第61回日本糖尿病学会年次学術集会で5月24日に講演した。
第61回日本糖尿病学会年次学術集会 ランチョンセミナー6
Asymptomatic hypoglycaemia and its consequences:can it be identified and avoided?

座長:荒木栄一(熊本大学大学院生命科学研究部代謝内科学分野)
演者:Brian M. Frier(The Queen's Medical Research Institute, University of Edinburgh)
共催:アボットジャパン株式会社

前兆のない夜間低血糖は注意を要する

 インスリン治療を必須とする1型糖尿病患者はもちろん、インスリン治療中の2型糖尿病患者においても、治療に伴う低血糖は重大な問題だ。

 夜間に起こる無自覚性低血糖は、命に危険を及ぼすこともある深刻な状態だ。1型糖尿病や進行した2型糖尿病で起こりやすいが、患者本人が気づきにくく、医師などの医療従事者にとっても把握するのは容易ではない。

 夜間低血糖が起きているかを確かめるために、たとえば血糖値が低くなる深夜2~3時頃に血糖自己測定(SMBG)を行う方法があるが、SMBGで分かるのは測定時点の血糖値のみで、また、患者が夜間に起きて指先を穿刺してSMBGを行うのは実際的ではない。従来の方法だけでは、夜間低血糖に対策するのは不十分だ。

夜間低血糖の頻度は高い

 フラッシュグルコースモニタリング(FGM)や、持続血糖モニタリング(CGM)の普及により、インスリン治療によりHbA1cが良好な患者でも、考えられているよりも高い頻度で、夜間低血糖が起きていることが分かってきた。

 Frier教授によると、睡眠中の低血糖の発症の最大70%は自覚症状を得られず、患者は低血糖が起きていることを知ることができない。睡眠中は覚醒していない状態にあるので、低血糖の前兆を知ることができないからだ。家族など周りの人が気づいて対応するのも限界がある。

 臨床試験では、夜間低血糖は単に出現の時間帯のみにより定義されており、夜間を通じて血糖変動のモニタリングが行われることは少ないが、実際には夜間低血糖は長時間に及んでいる可能性がある。

 患者が自己対応できる軽度の低血糖も、処置が必要な深刻な低血糖も、夜間においては通常の臨床的な定義を適用できない。

 従来のSMBGによる予測によると、1晩のプロフィールの10~60%の頻度で夜間低血糖は起きており、最長で6時間に及ぶこともある。そのうち70%は無症候性だ(Endocrine Practice 2003; 9: 530‐543)。

夜間低血糖の特徴と防ぎ方

 夜間低血糖の臨床的な特徴としては、主観的には▽鮮明な夢、悪夢、▽朝の頭痛、二日酔のような不快感、▽入眠困難、▽睡眠の質の低下、▽日中の慢性疲労、不活発性、▽気分変動、感覚低下――などがある。

 客観的には、▽睡眠中のレストレスネス(熟睡できない状態)、▽寝汗、寝具の湿り、▽夜間の反射運動や痙攣、▽夜尿症(小児の場合)――などがある。これらの症状がある場合は、低血糖を疑ってみるべきだ。

 夜間の低血糖は翌日の認知機能や気分障害に影響する。1型糖尿病成人における睡眠中の低血糖は、翌日の朝の認知機能にさまざまな影響を及ぼすことが示された(Diabetes Care 1998; 21: 341–345、Diabetes Care 2007; 30: 2040–2045)。

 介入研究や観察研究でも、睡眠中の低血糖は気分障害や健康状態の悪化などの2次的な作用をもたらすことが明らかになっている(Qual Life Res 2013; 22: 997–1004)。

 夜間低血糖は翌日の能力低下に影響する。症状のある患者では日中に、疲労、緩慢、うつ状態、落ち着きのなさを感じることがある。さらにネガティブな影響として、欠席や欠勤、成績低下、生産性の低下などがみられる場合がある。

 インスリン療法による夜間低血糖を予防するために、その頻度を最小にする治療的なアプローチが考えられる。

 ▽夕食前の超速効型インスリンを調整する、▽夕食前のインスリン注射の代わりに就寝前に中間型インスリンを注射する、▽基礎インスリンとして長時間作用型インスリンを注射する、▽夜間の基礎インスリン注射を持続皮下インスリン注入(CSII)療法に切り替える、▽就寝前に間食を摂る、▽α-グルコシダーゼ阻害薬により夕食の炭水化物の吸収を調整する、▽肝臓などでの糖新生を亢進する処置をする――といった対応がある。

危険な「dead in bed」症候群

 夜間低血糖が重症化すると、昏睡、発作、骨折や脱臼などの損傷、心血管イベント、不整脈、意識障害などをもたらし、最悪の場合には「dead in bed」症候群を引き起こす。

 「dead in bed」症候群は、夜間低血糖との関連が示唆される臨床イベントであり、若年の1型糖尿病患者で起こりやすい重要な症候群だ。

 発症メカニズムとして、低血糖によってQT時間が延長することが分かっている。1型糖尿病患者にCGMとホルター心電図を同時に施行した試験では、63mg/dL未満と定義した夜間の低血糖時に、正常血糖時と比較して補正QT間隔(QTc)の延長が認められた(Diabetologia 2009; 52: 42–5)。

 つまり、低血糖により交感神経が活性され、その後に迷走神経活性が過剰に代償され徐脈をきたす。その結果、致死性の不整脈を惹起して、突然死をまねくと考えられる。低血糖による心血管系への影響も大きく、不整脈や心筋虚血/心筋梗塞、心不全や脳卒中/脳出血の原因となっている可能性がある。

FGMが低血糖リスクを軽減し、良質な血糖コントロールに寄与

 「FreeStyleリブレ」の特徴は、上腕に装着したセンサーにリーダーをかざすだけで(非接触)、グルコース値を測定できる「フラッシュグルコースモニタリング(FGM)」システムであること。センサーは14日間有効で、測定しているのは皮下間質液中のグルコース濃度だが、センサーは工場出荷前に較正が済んでおり、患者は血糖自己測定で較正をする必要はない。

 FreeStyleリブレシステムは、低血糖リスクを軽減し、良質な血糖コントロールに寄与することが、1型糖尿病患者を対象とした「IMPACT試験」*1と、2型糖尿病患者を対象とした「REPLACE試験」*2で示されている。

 IMPACT試験では、1型糖尿病患者を対象に、FreeStyleリブレ群と従来の血糖自己測定群(対照群)の2群に無作為に割り付け、低血糖発現時間、HbA1cなどの変化量を比較検討した。

 対象となったのは、5年以上の罹病期間があり、HbA1c7.5%以下の1型糖尿病患者239例。15日目にFreeStyleリブレシステム群または対照群に無作為に割り付け、1日あたりの低血糖(70mg/dL未満)の発現時間、HbA1c変化量などを比較検討した。

リブレが1型糖尿病患者の低血糖時間を短縮

 1日あたりの低血糖(70mg/dL未満)発現時間の変化量を比較した。ベースラインからの変化量は、FreeStyleリブレ群では対照群に比べ-1.24時間(38%差)だった。また、55mg/dL未満の低血糖は‐0.82時間(50%差)、45mg/dL未満の低血糖は‐0.55時間(60%差)だった。

 23:00~6:00の夜間低血糖(70mg/dL未満)発現時間の変化量も比較した。ベースラインからの変化量は、FreeStyleリブレ群では対照群に比べ-0.47時間(40%差)だった。また、55mg/dL未満の低血糖は‐0.32時間(49%差)、45mg/dL未満の低血糖は‐0.25時間(60%差)だった。

 FreeStyleリブレシステムを用いた群では、従来の血糖自己測定に比べて低血糖発現時間が有意に短縮したことが示された。

 FreeStyleリブレシステムを用いた群のHbA1c変化量は、従来の血糖自己測定を用いた群と同程度だった。

 糖尿病治療満足度質問表(DTSQ)や糖尿病QOL質問票(DQoL)による糖尿病治療に対する満足度との関連を検討したところ、FreeStyleリブレシステムを用いた群では従来の治療群に比べ、全体的な治療への満足度が高く、高血糖や低血糖に対する理解も向上していることが示された。

リブレが2型糖尿病患者でも低血糖時間を短縮

 REPLACE試験では、2型糖尿病患者を対象に、FreeStyleリブレ群と従来の血糖自己測定群(対照群)の2群に無作為に割り付け、HbA1c、低血糖発現時間などの変化量を比較検討した。

 対象となったのは、HbA1cが7.5%以上12.0%以下の2型糖尿病患者224例。対象にFreeStyleリブレシステムのセンサーを装着し、15日目にFreeStyleリブレシステム群または対照群に無作為に割り付け、ベースラインから208日目までのHbA1c変化量、低血糖(70mg/dL未満)の発現時間などを比較検討した。

 1日の低血糖発現時間については、1日あたりの低血糖(70mg/dL未満)発現時間の変化量を比較した。ベースラインからの変化量は、FreeStyleリブレ群では対照群に比べ-0.47時間(43%差)だった。また、55mg/dL未満の低血糖は‐0.22時間(53%差)、45mg/dL未満の低血糖は‐0.14h時間(64%差)だった。

 夜間低血糖(70mg/dL未満)発現時間のベースラインからの変化量は、FreeStyleリブレ群では対照群に比べ‐0.29時間(54%差)だった。また、55mg/dL未満の低血糖は‐0.12時間(58%差)、45mg/dL未満の低血糖は‐0.08時間(68%差)だった。

 この試験でも、FreeStyleリブレシステムを用いた群のHbA1c変化量は、従来の血糖自己測定を用いた群と同程度だった。

FGMが低血糖リスクを下げる

 FreeStyleリブレは、血糖コントロールを悪化させずに低血糖の発症率と時間を大きく減少させることが明らかになった。

 「FreeStyleリブレであれば、どのような時に血糖が上昇するのか、あるいは低血糖が起こるのかが容易に分かるようになる。FGMのスキャンの回数を増やすことがHbA1cの改善や低血糖時間の短縮に寄与するという報告もあり、FGMであればそれを実現できる可能性がある」とFrier教授は述べている。

*1 Novel glucose-sensing technology and hypoglycaemia in type 1 diabetes: a multicentre, non-masked, randomised controlled trial.
Lancet. 2016, Nov 5;388(10057):2254-2263
*2 Flash Glucose-Sensing Technology as a Replacement for Blood Glucose Monitoring for the Management of Insulin-Treated Type 2 Diabetes: a Multifigure, Open-Label Randomized ontrolled Trial.
Diabetes Ther. 2017; 8(1): 55-73

第61回日本糖尿病学会年次学術集会

[提供:アボットジャパン株式会社]

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