「患者中心」の治療が医療費を減少 「個別化した治療」で患者1人150万円の削減

 血糖コントロールの目標を患者ごとに個別化すると、患者1人あたりの医療費を約150万円も節減できることが米国の研究で明らかになった。
 「患者中心」の医療を目指し、患者の多様性に治療を合わせることが、医療費の削減にもつながるという。
糖尿病患者は自分に合った治療を望んでいる
 「糖尿病患者さんの多くは、検査値やガイドラインのアルゴリズムによって管理された治療を受けたいとは思っていません。患者さんは、自分に合った適切で個別化された治療を受けたいと考えているのです」と、シカゴ大学医学部のネーダ レイティラポン助教授は言う。

 HbA1cは、1~2ヵ月の血糖値の平均を示す数値で、血糖コントロールの指標となる。ADAのガイドラインでは、大部分の糖尿病患者の血糖コントロールの目標はHbA1c 7%未満がが推奨されている、低血糖などの副作用のおそれのある患者ではHbA1c 8%未満を目標としている。

 レイティラポン氏らは、米国健康・栄養調査(NHANES)に参加した569人の30歳以上の2型糖尿病患者のデータを解析し、患者の平均予想寿命にもとづく医療費を算出する統計モデルを作成した。
治療の個別化により150万円の医療費を節減
 この統計モデルでは、年齢、治療期間、心臓病・高血圧・脳卒中・網膜症・腎臓病などの合併症の病歴などを変数として、メトホルミン、インスリン、SU薬などの薬物療法による医療費を解析し、心筋梗塞や脳卒中などのような深刻な合併症の医療費の負担についてシミュレートした。

 その結果、患者1人あたりの生涯の医療費の平均は、個別化した糖尿病治療によって1,158万円(10万5,307ドル)となり、画一的な治療の1,307万円(11万8,853ドル)に比べ、約150万円(万13,564ドル)を節減できることが明らかになった。

 その差のほとんどは薬物療法のコストによるもので、画一的な治療では536万円(4万8,763ドル)だが、個別化した治療では380万円(3万4,521ドル)に抑えられることが分かった。

 米国の30歳以上の2型糖尿病患者の数は約1,730万人に上り、治療の個別化により米国全体で26兆円(2,340億ドル)の医療費を節減できる計算になるという。
「患者中心のアプローチ」を提唱
 米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)は2012年に、共同で2型糖尿病治療のポジションステートメントを発表した。そこでは「患者中心のアプローチ」(Patient-Centered Approach)が提唱されている。

 2型糖尿病の治療では、食事療法、運動療法、患者教育を基本として、薬物療法では年齢、平均余命、個々の患者の病態や合併症、治療薬による副作用のリスクなどにもとづき最適な血糖コントロール目標を設定し、治療薬を選択することを重視している。

 「患者中心のアプローチ」は、生活習慣の改善を中心とする患者教育を基本として、必要に応じて薬物療法を実施するが、その際の治療選択や目標設定を個別化することを重視する考え方だ。

 特に、治療方針の決定については、患者の生活スタイルやニーズ、価値観、嗜好などを尊重し、治療薬の選択などに反映すべきとされている。

 糖尿病の治療選択肢が広がり、治療成績も向上していることが背景にある。かつては血糖コントロール目標の達成自体が困難であり、画一的な目標の達成を目指す、いわば数値目標が中心の治療にならざるをえない面があった。

 しかし現在では、適切な治療薬を選択し、組み合わせることによって、良好な血糖コントロールの達成・維持を期待できるようになってきた。患者が多様であることを考慮して、治療内容もそれに合わせることが可能になってきた。
多くの患者が個別化した治療を希望
 糖尿病の医療は進歩し、2型糖尿病患者の多くは高齢化している。HbA1cの目標値は多くの患者で7%未満だが、糖尿病を発症してから数十年がたち、いくつかの合併症を抱えている患者の場合、積極的な血糖コントロールは低血糖などの副作用をまねくおそれがあり、適切ではないかもしれない。そうした場合、HbA1cの目標値は8%未満に設定される。

 いずれにしても治療目標を設定する際には患者の意向を聞くことが重要であり、そのためには患者への十分な説明と情報提供が必要となる。HbA1c値8.0%未満を目標とする場合も、その理由を患者に分かりやすく説明することが求められるようになってきた。

 「今回の研究で作成したシミュレーションモデルによって、個々の患者の血糖コントロール目標と治療内容を個別化する必要があることが示されました。そうすることで、医療システムの無駄使いをなくし、医療費を減らすことができます。それは多く患者さんが望んでいることでもあります」と、レイティラポン氏は言う。

 「2型糖尿病の治療を個別化しても、合併症の発症率の差はわずかなもので、平均余命にもほとんど差はありませんでした。糖尿病患者さんの多くは、個別化した治療を望んでいると確信しています」としている。

Personalized blood sugar goals can save diabetes patients thousands(シカゴ大学医療センター 2017年12月12日)
Individualized Glycemic Control for U.S. Adults With Type 2 Diabetes: A Cost-Effectiveness Analysis(Annals of Internal Medicine 2017年12月12日)
[Terahata]

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編集部注:
  • 海外での研究を扱ったニュース記事には、国内での承認内容とは異なる薬剤の成績が含まれています。
  • 2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わすようになりました。過去の記事は、この変更に未対応の部分があります。ご留意ください。
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