「劇症1型糖尿病」のメカニズムを解明 iPS細胞からβ細胞を作製 京都大学iPS細胞研究所

2017.09.01
 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、患者由来のiPS細胞を用いて「劇症1型糖尿病」の病態メカニズムの一端を解明したと発表した。

劇症1型糖尿病患者の細胞からiPS細胞を作製

 「劇症1型糖尿病」は、1型糖尿病のなかでも、とくに急激に発症しインスリンが不足し、高血糖を引き起こす疾患だ。

 特定の遺伝的素因をもつ人で、ウイルス感染をきっかけに起こる免疫反応により急激に膵臓のβ細胞が傷害され、ほとんどすべてのβ細胞が破壊されることで、インスリンが不足した状態になるとされている。しかし、β細胞が傷害される詳細なメカニズムはよくわかっていない。

 そこで京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究グループは、劇症1型糖尿病患者の皮膚細胞からiPS細胞を作製し、そこから分化誘導させたβ細胞と同じ細胞を用いることで、劇症1型糖尿病の病態解明を目指した。

β細胞がアポトーシス β細胞様細胞で確認

 まず劇症1型糖尿病患者3人の皮膚細胞に6つの初期化因子を導入することで、iPS細胞を作製。それらのiPS細胞は、化合物および成長因子の組み合わせ処理を行うことで、インスリンを分泌する膵β細胞様の細胞に分化可能なことを示した。

 次に、劇症1型糖尿病患者および健常者のiPS細胞から分化誘導させて得られたβ細胞様細胞に、細胞傷害刺激としてサイトカインを投与した。その結果、劇症1型糖尿病患者のβ細胞様細胞では、細胞死(アポトーシス)を起こしている細胞の割合が高いことが明らかになった。

 さらに、この病態モデルを用いてRNAシークエンスによる網羅的遺伝子発現解析を行った結果、いくつかのアポトーシス関連遺伝子や抗ウイルス関連遺伝子の発現に違いがあることが判明した。

劇症1型糖尿病のさらなる病態解析へ

 今回の研究では、劇症1型糖尿病患者由来のiPS細胞を膵β細胞様細胞に分化誘導し解析することで、患者の膵β細胞は細胞傷害刺激に対して細胞死(アポトーシス)を起こしやすい可能性があることが明らかになった。

 「今回明らかになった病態モデルは、劇症1型糖尿病のさらなる病態解析への応用が期待される」と、研究グループは述べている。

 研究は、細川吉弥研究員(大阪大学大学院内分泌・代謝内科、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門)、豊田太郎講師(京都大学CiRA同部門)、今川彰久教授(大阪大学大学院内分泌・代謝内科、大阪医科大学内科学I)、下村伊一郎教授(大阪大学大学院内分泌・代謝内科)、長船健二教授(京都大学CiRA同部門)らの研究グループによるもの。研究成果はアジア糖尿病学会誌「Journal of Diabetes Investigation」に発表された。

京都大学iPS細胞研究所

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