「非空腹時の中性脂肪は175が上限」欧州の新基準 糖尿病でより重要

2017.04.24
 糖尿病があると高くなりやすい中性脂肪。その中性脂肪は血糖と同様に、食事をとると高くなり空腹時は低下する。中性脂肪を含む血清脂質の検査は現在、国内では空腹時に採血するが、欧州では最近、非空腹時の採血が推奨されるようになった。

血液検査の採血は、空腹時、それとも非空腹時?
 健康診断などで血液検査を受ける前には絶食を指示され、採血前の10時間ほどは食事や水・お茶以外の水分をとることができない。この主な理由は2点あり、一つ目は代謝性疾患(糖尿病や脂質異常症など)の発見・診断に用いられる血糖や中性脂肪の検査値は食事の負荷によって変動するため、空腹時採血でないと結果判定が困難になること、そして二つ目は空腹時以外(非空腹時、随時)に採血した場合の診断基準値がないことだ。

 しかし既に血糖に関しては、糖尿病合併症の中でも特に生命にかかわるような動脈硬化性疾患のリスクとの相関がより強いのは、空腹時ではなく食後の血糖値であることが明らかになっている。また近年の研究で中性脂肪に関しても同様のことが示唆されつつあり、この点は、糖尿病患者ではインスリン作用不足の影響などで中性脂肪が高くなりやすいことからも注目される。

 さらに、そもそも生活習慣病の増加が問題となっている現在のような社会環境においては、ほとんどの人が一日の大半、非空腹の状態にあり、空腹はむしろ特殊な状況だとも言える。

 絶食による空腹時採血を前提とした検査には上記の他にもいくつかの弱点が考慮されており、海外の医学会からは空腹時ではなく「非空腹時の脂質検査値の使用を推奨する」との声明も発表されている。

空腹時値が非空腹時値よりリスク評価に優れている、というエビデンスは存在しない

 この声明は欧州動脈硬化学会と欧州臨床化学検査医学会によるもので、先ごろ両学会の合同コンセンサスステートメントとして欧州心臓病学会誌(Eur Heart J )に公表された。

 論文ではまず、血清脂質による心血管疾患のリスク評価に空腹時値が非空腹時値より優れているというエビデンスは存在せず、空腹時より非空腹時の採血検体を用いることにアドバンテージが存在すると述べた上で、非空腹時検査および空腹時検査を推奨すべきケースを示している(表1)。

 非空腹時検査のアドバンテージとして、検査の施行が容易になり受診者の利便性が向上することや、医療機関の午前中の外来の混雑が軽減されることなどを挙げ、スクリーニング検査や心血管疾患のリスク評価、高齢者、薬物療法中の患者など、大多数の人に非空腹時検査を推奨している。

 糖尿病患者には、より強い論調で非空腹時検査を推奨している。

 その理由は、糖尿病において心血管疾患のより重要なリスクの可能性がある高中性脂肪血症が、空腹時検査ではマスクされかねないこと、あるいは絶食が低血糖リスクとなること、血糖管理に必要なHbA1cも非空腹時検査で問題ないことを挙げている。

異常と判定する中性脂肪値、空腹時は150mg/dL以上、非空腹時は175mg/dL以上

 具体的に、異常と判定する非空腹時および空腹時採血の検査結果として、表2のカットオフ値を掲示。中性脂肪は非空腹時値175mg/dL以上、空腹時は国内外の既存ガイドライン同様に150mg/dL以上だ。

 また、上記とは別に、生命を脅かす異常値として、中性脂肪880mg/dL以上(急性膵炎を起こし得る)、LDL-C190mg/dL以上(家族性高コレステロール血症の疑い)、Lp(a)150mg/dL以上(心血管疾患の極めて高いリスク)などを警告値としている。

非空腹時の脂質検査が必要とされるケースもある
 一方、従来からの空腹時検査にもメリットがある。例えば、遺伝子変異による脂質異常症や非空腹時値が極めて高値の場合、あるいは脂質異常症として治療を始める前など、脂質レベルを正確に判定する必要があるケース、または膵炎の治療経過をみる際などだ。

 本論文では非空腹時と空腹時の検査はそれぞれ補完的なものであり、互いに相いれないものではないとまとめると同時に、世界各地で非空腹時採血による脂質検査が日常的検査として採用されること、そしてこの声明が各国の公的機関に認識され脂質検査の標準となることが理想だと述べている。

関連ページ:

Fasting is not routinely required for determination of a lipid profile: clinical and laboratory implications including flagging at desirable concentration cut-points?a joint consensus statement from the European Atherosclerosis Society and European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine
 〔Eur Heart J 37 (25):1944-1958, 2016〕

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料