「第51回糖尿病学の進歩」セミナーレポート
院内の血糖異常をどう治療するか 正確な血糖管理のために

 2017年2月17日~18日に国立京都国際会館で開催された「第51回糖尿病学の進歩」で、ジョンソン・エンド・ジョンソンはセミナー「院内の血糖異常への専門医の関わりについて」を開催した。
院内の血糖異常への専門医の関わりについて
西田 健朗 先生(熊本中央病院 内分泌代謝科 部長)
第51回糖尿病学の進歩
[日時]2017年2月17日、18日 [場所]国立京都国際会館
[提供]ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
院内における厳格な血糖管理の重要性
 2001年にVan den Bergheらによって、血糖値を80~110mg/dLに管理する強化インスリン療法が集中治療患者の死亡率を低下させるという報告がなされた。このことから、厳格な血糖管理の有効性が大きく注目されるようになった(N Engl J Med. 2001 8;345(19):1359-67)。
高血糖が死亡率の増加に関連
 高血糖は入院患者の死亡率の増加に関連している。日本でも、感染で入院した糖尿病患者で死亡率が高まるという報告があり、心筋梗塞または急性心不全で入院した患者では、最高2.5~3.6倍の死亡率の増加が報告されている(Circulation. 2013 128:A16859、J Cardiol. 2009 Jun;53(3):429-36)。

 心筋梗塞で入院した患者では、糖尿病の有無に関わらず、入院時血糖値200mg/dL以上の患者は正常血糖の患者と比較して、長期予後が不良であることが報告されている(Hellenic J Cardiol 2013 54: 119-125)。

 また、高血糖状態が持続すると、免疫学的防御機構が低下し手術部位感染(SSI)のリスクが上昇する。特に術後の血糖コントロールの不良は、手術により発生する創部への感染リスクや創傷治癒遷延のきっかけとなる。術創感染の発生は、術後血糖値を110mg/dL以下に厳格にコントロールした群に比べ、111~140mg/dLの群では3.61倍に、141~180mg/dLの群では6.26倍に、181~220mg/dLの群では5.92倍に上昇するという報告がある(Arch Surg. 2010 145(9):858-864)。

 WHOは2016年に「術創感染予防のためのガイドライン」を改訂し、「外科手術後の成人糖尿病、および非糖尿病患者の術創感染のリスク軽減のために、厳格な周術期血糖管理のプロトコールを使用すべきである」と推奨している。
低血糖リスクをいかに低下させるか
 ただし低血糖も入院患者の死亡率の増加に関連している。低血糖は軽度であっても、重症患者の死亡リスクを増加させる。重症低血糖で入院した非糖尿病患者では、40mg/dL未満の血糖値が90日間死亡率の強力な予測因子になる(Acta Diabetologica. 2015 07 Sep;52(2):307-14)。 厳格な血糖コントロールにより低血糖が惹起されることを懸念する研究も報告されている。特に重症患者において現在では、いかに低血糖リスクを低下させるかという考え方に変わってきている。

 「NICE-SUGAR study」は、6,104人の集中治療(ICU)患者を対象に、強化インスリン療法群(目標血糖値:81~108mg/dL)、通常血糖管理群(血糖値:180mg/dL以下)を比較した研究だ。40mg/dL以下の重症低血糖発生率は強化インスリン療法群で6.8%、通常血糖管理群では0.5%だった。特に術後患者において、重度低血糖は患者死亡率上昇と有意に独立して関連した(N Engl J Med 2009; 360:1283-1297)。

 低血糖が心血管イベントを増加させる機序として、炎症惹起、凝固能亢進、血管内皮機能障害、交感神経・副腎系の異常な活性化などがある(diabetes care 2010 33: 1389-1394)。また、高血糖は院内感染リスクを増加させ、入院期間の延長及び費用の増加をまねく可能性がある。
人工膵島で血糖値を設定範囲内にコントロール
 正確な血糖管理は、低血糖リスクを増加させることなく、高血糖をコントロールするために不可欠である。2004年に公表された「イェール大学プロトコル」では院内でのインスリン治療における血糖コントロールの推奨目標血糖を100~139mg/dLとしている。

 厳格な血糖コントロールが必要だが、低血糖は抑制しなければならない。そのために、刻一刻と変化する血糖値を測定し、血糖値に応じてインスリン量を決めている「人工膵島」を用いることにより、低血糖を起こさず、厳格な管理が可能になる。

 機械装置を使用したクローズドループタイプのベッドサイド型人工膵島は、血糖値の連続モニタリングであると同時に、インスリンとブドウ糖の投与量を自動的に調節し、血糖値を設定範囲内にコントロールすることを可能とする。

 高血糖や低血糖に加えて、血糖値の変動も患者予後に影響を与えるため、血糖変動を抑える管理も求められているが、臨床現場で安全かつ安定した血糖値を維持するためには、頻回の採血ときめ細かなインスリンの投与が必要となり、医療従事者の仕事量を増やすことが問題となる。人工膵島はこの負担を減らし、問題を解決すると期待されている。
正確な院内専用グルコース分析装置が求められている
 SMBGは、簡便かつ迅速な測定が可能で、広く医療現場で使用されているが、血糖測定器が干渉物質の影響で不正確な測定値を示し、誤診を招いた症例が過去に報告されている。

 西田氏は不正確なSMBGの結果が不適切な治療及び低血糖昏睡を招いた症例を紹介。明らかな低血糖の症状があったにもかかわらず、血糖測定器による検査では低血糖が検出できなかった。この原因は、慢性腎疾患に起因する高い尿酸及び低いヘマトクリットによる干渉にあった可能性がある。
「POCT」と「SMBG」の違い 院内では「POCT」を推奨
一般的名称医薬品医療機器法上
の分類
一般的名称の定義精度使用者
グルコース分析装置一般医療機器
【POCT】
血液中の糖(ブドウ糖)濃度を測定する検査室用装置をいう。医療従事者が使用する分析装置である。100mg/dL未満±12mg/dL以下
100mg/dL以上±12.5%以内
(CLSIガイドライン)
医療従事者・医療施設用
自己検査用グルコース測定器高度管理医療機器
【SMBG】
自己検査用に血中グルコース又は血中ケトンを測定する測定器をいう。自己検査用器具は、一般の人の自宅で使用できるように製造されたものである。100 mg/dL未満±15mg/dL以下
100 mg/dL以上±15%以内
(ISO15197:2013)
個人・自宅用

 「POCT」は、医療従事者が患者の傍らで行う検査で、「SMBG」と検査室における自動分析装置との中間的な検査として位置づけられる。「POCT」は検査時間の短縮および被検者が検査を身近に感ずるという利点を活かし、迅速かつ適切な診療や治療(ケア)に寄与するものだ。

 SMBGは測定原理においてグルコースに対する特異性が低く、検体中のガラクトース、マルトース、イコデキストリンなどに反応してしまう機種がある。これに対して、医療従事者用の医療機器である「POCT」は、測定誤差要因に対する対策が施されており、CLSIガイドラインでは精度も100mg/dL未満±12mg/dL以下、100mg/dL以上±12.5%以内に是正されている。

 また、機種によっては電子カルテと連動し、患者データのバーコード管理ができるので、転記ミスなどによる患者間違いなどのリスクも軽減される。院内でのベッドサイドの検査としての血糖測定は「POCT」機器を用いることが推奨される。

 有効なクリニカルパス管理および患者の転帰を支援するため、院内および地域ケアにおいて、患者の血糖値が正確にモニターされていることを確実にすることが重要だ。 第51回糖尿病学の進歩

ジョンソン・エンド・ジョンソン
  ジョンソン・エンド・ジョンソン POCT血糖管理の国際規格 CLSI紹介ページ
[Terahata]

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