メトホルミン単剤療法は優れている DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の多剤療法の知見は不十分

2016.07.22
 メトホルミンの単剤療法は、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、α-グルコシダーゼ阻害薬などの単剤療法に比べHbA1c値が同等か、より優れていることが、301件の試験をメタ解析した研究で示された。単剤療法、2剤療法、3剤療法にかかわらず、全てのクラスの薬剤で、心血管疾患および全疾患の死亡率には有意差が認められなかった。

メトホルミン・SU薬・GLP-1受容体作動薬の多剤療法は低血糖が少ない

 JAMAに7月19日付けで掲載された、ニュージーランドのオタゴ大学のSuetonia Palmer氏、オーストラリアのシドニー大学のGiovanni Strippoli氏らによる研究は、2型糖尿病の初期治療で単剤を投与する場合にメトホルミンを推奨している米国糖尿病学会(ADA)のレコメンデーションを支持するものだ。

 研究グループは、9クラスの2型糖尿病の血糖降下薬を比較しランク付けをするために、総合的なレビューとメタ解析を行った。対象となったのは、メトホルミン、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、 DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、基礎インスリン、速効型インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬。

 研究チームは、血糖降下薬の単剤療法に関する177件の試験、2剤療法(メトホルミンに他剤を1剤追加)に関する109件の試験、さらに、もっとも汎用されている3剤療法(メトホルミン、スルホニル尿素薬に他剤を追加)に関する29件の試験のデータを解析した。

 研究グループは基準を満たした301件の試験から、140万Patient-Months以上の患者を識別した。HbA1cの中央値は8.2~8.4%、糖尿病の罹病期間の中央値は5.7年、追跡期間は6ヵ月だった。主要なエンドポイントは心血管疾患による死亡率、副次的なエンドポイントは全死因による死亡率、MI、脳卒中、HbA1c、治療失敗例(有効性のある治療の欠如)、重大な有害事象、低血糖、体重増加とした。

 単独療法、2剤療法、3剤療法にかかわらず、全てのクラスの薬剤で、心血管疾患および全疾患の死亡率には有意差は認められず、重大な有害事象、MI、脳卒中においても有意差は示されなかった。

 メトホルミンを単独投与した場合HbA1c値低下の標準化した平均値の差(SMD)はスルホニル尿素薬で0.18、チアゾリジン薬で0.16、DPP-4阻害薬で0.33、α-グルコシダーゼ阻害薬で0.35だった。

 重要なことは、スルホニル尿素薬と基礎インスリンは、メトホルミンと比較して、低血糖リスクの10%の上昇と関連していたことだ。メトホルミンに追加して投与した場合、低血糖の頻度がもっとも少なかったのはSGLT2阻害薬で、オッズ比は0.12だった。また、メトホルミンとスルホニル尿素薬に追加して投与した場合、低血糖の頻度がもっとも少なかったのはGLP-1受容体作動薬で、オッズ比は0.60だった。

 「対象としたどのクラスの薬剤でも、心血管疾患による死亡を防ぎ、平均寿命を延ばす効果があることが示された」と、Palmer氏は言う。

GLP-1受容体作動薬についての知見も増えつつある

 「体重の増加を避けたい場合に、メトホルミンは血糖降下薬として有利だが、最近ではGLP-1受容体作動薬で治療を開始するメリットについての知見も増えつつある」と、Palmer氏とStrippoli氏は言う。

 「よりコストの低い治療法でどれだけの効果を得られるかを検証する効率的な試験デザインが必要だ。実際の臨床現場ではよりコストの高い治療薬が優先されている傾向もあり、よりコストを抑えた効果的な治療が実現可能かを検証する必要もある」としている。

 「単剤療法おいてメトホルミンを投与するのが有利であることを示した試験は多かったが、第一選択薬に基礎インスリンを含めるべきかという問いに答えた試験は少ないと。メトホルミンの単剤治療と他剤と組み合わせた治療を比較する、より規模の大きい試験を行う必要がある」と指摘している。

 解析の対象となったのは、メトホルミンに他剤を追加した2剤療法と、メトホルミンとスルホニル尿素薬に他剤を追加した3剤療法だ。話題になっているEMPA-REG試験とLEADER試験は解析から除外された。

 EMPA-REG試験では、心血管疾患を有する2型糖尿病患者を対象に、エンパグリフロジンを標準治療に上乗せしたところ、腎疾患の新規発症または悪化のリスクを、プラセボと比較して39%低下させたことが明らかになった。

 また、LEADER試験では、リラグルチドがプラセボと比較して2型糖尿病患者における主要な心血管イベントの発生リスクを低下させることが示された。

 これについて、研究グループは「GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬について、それぞれの薬剤をブラセボと比較しhead-to-headでメタ解析した試験は行われているが、両剤を直接的に比較した試験はまだ行われていない」と述べている。

 企業が主導している試験は、短期間しか行われておらず、HbA1cの変化を主眼としているものが少なくない。長期の死亡率の変化をみるために、さらに多くの試験が必要とされている。

 「今後は、SGLT2阻害薬、あるいはGLP-1受容体作動薬に、メトホルミンを追加して投与した場合と、メトホルミン単独投与と比較した試験が必要となる」と指摘している。

Comparison of Clinical Outcomes and Adverse Events Associated With Glucose-Lowering Drugs in Patients With Type 2 Diabetes.
JAMA. 2016;316(3):313-324. doi:10.1001/jama.2016.9400.

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料