足病診療の実態報告 診療科により診断・治療法・予後が異なる可能性

 足病で受診した際、切断に至る確率14%、死亡に至る確率12%――。これまで実態がほとんど明らかにされていなかった国内の足病診療の現実をまとめた「AAAレジストリー」調査結果が、第8回日本下肢救済・足病学会(5月27~28日・東京)の特別企画セッションで報告された。発表は研究リーダーの東京労災病院循環器科副部長/難治性創傷治療センター・宇都宮誠氏。

東京労災病院循環器科副部長/難治性創傷治療センター 宇都宮 誠 氏
東京労災病院循環器科副部長/難治性創傷治療センター 宇都宮 誠 氏

 足病患者は皮膚科、形成外科、整形外科、循環器内科、糖尿病内科、腎臓内科、透析科など多くの診療科に分散しているため、国内における診療の実態がつかめていない。例えば、糖尿病内科で「糖尿病性潰瘍」と診断するような足病を、循環器内科では「虚血性潰瘍」と診断することも少なくなく、介入法も診療科によって異なることが多いとされる。加えて治療法の施設間格差もまだ大きいと考えられている。

 今回の報告は、このような現状を改善し下肢切断を減らすための情報提供活動を行う一般社団法人Act Against Amputation(代表理事:杏林大学医学部形成外科教授・大浦紀彦氏/以下、AAA)に参画する複数の施設、複数の診療科の医師が協力し、診療データを統合・解析した結果であることから、「AAAレジストリー」と名付けられた。

都内、4施設、3診療科の
過去3年の足病患者データを統合

 「AAAレジストリー」は、東京労災病院循環器内科と杏林大学形成外科、西東京徳洲会病院形成外科、東京都済生会地中央病院糖尿病・内分泌内科の足病患者の診療データを収集したもので、今回の発表はそのうち過去3年分のデータを後ろ向きに解析し検討した結果となる。これまで循環器内科や腎臓内科などの診療ごとのレジストリーは存在したが、複数の診療科を横断的に捉えた本格的な多施設研究はこの同調査が初めて。なお、登録した患者の「足病」の定義は、足病により切断の危機にあると考えられ、ある程度重症で入院を要した者とした。

診療科によって診断名に偏りが生じている

 解析対象は計431例。主な患者背景は年齢67.5±14歳、男性69%、両足罹患患者14%で、生活状況は、家族と同居が64%、独居26%、施設入居10%で、また生活保護受給者が19%だった。

 足病の診断名は29%が重症下肢虚血(critical limbs ischemia.以下、CLI)、27%が糖尿病性足潰瘍、混合性が30%、その他14%だった。しかし、この診断名の割合を診療科別に比較すると、糖尿病科では50%が糖尿病性潰瘍を占め、CLIは12%、混合性が19%だが、循環器内科ではCLIが67%に上り、糖尿病性潰瘍と混合性はともにわずか3%だった。また形成外科では混合性が最も多く39%で、CLIが25%、糖尿病性潰瘍が23%だった。診療科によって診断名の割合が大きく異なるという実態が明らかになった(図1)。


図1

切断のリスク因子は、年齢、透析、CLI、創部感染、傷の範囲

 アウトカムをみると、全例の63.3%潰瘍が治癒し切断を回避できていた。一方、下肢切断に至ったのは13.7%。切断のリスク因子を多変量解析で抽出すると、年齢、透析、CLI、創部感染、傷の範囲(足部や下腿に及ぶ)が有意な因子として挙がった。また全例の12.3%が平均観察期間286日のうちに死亡に至り、そのリスク因子としては、年齢、透析、CLIの3つが挙げられた。

 本発表では、上記のほか、全例の4割を透析症例が占めることや、51%は末梢動脈疾患があること、治療としてはカテーテル治療が46%、植皮を含む外科手術が72%、陰圧閉鎖療法が36%に施行されていたことなどが報告された。

 まとめとして宇都宮氏は、「透析、虚血、感染、傷の範囲が広いことが予後悪化因子であることがわかった。これがCLIのレジストリーや糖尿病のレジストリーでなく、それらのほか膠原病などもすべて含んだレジストリーで明らかになった意義は大きい」と述べ、また「本年4月から透析患者の下肢病変重症化予防に保険点数がついたことは極めて理にかなっており、今後、透析患者の足病を早期発見することが重要になる」と結んだ。

 質疑応答では、フロアから「東京の足病の現状がわかり有意義だと思うが、診療科によって診断名の割合が大きく異なるのは、実際に患者層が異なるのか。それとも医師の主観が違うからなのか?」との質問が挙がった。これに対し宇都宮氏は「レジストリーをみる限り患者背景はそれほど大きな差はない。恐らく同じような患者をみているのだが我々の主観が関係しているのではないか。これについてはさらにディスカッションして診断の精度を高めていかなくてはいけない」と答えた。

 またこれに関連し、診療科によって予後に若干の差が認められたことに触れ、その理由は「例えば形成外科にはより重症の患者が集まりやすいなどの差異が影響しているのではないか」としながらも、全身の血管を診ながら足を診る診療科との差がある可能性を述べ、「診療科をまたいだチームワークが大切」とまとめた。

 今回の「AAAレジストリー」調査報告で、これまでほとんど知られていなかった足診療の実態が明らかになり、解決をめざすべき課題が浮き彫りになったと言える。下肢診療の均てん化のため、今後、調査対象を全国レベルに拡大するなど、引き続き詳細な検討を期待したい。

共同研究者からのコメント

杏林大学形成外科教授 大浦 紀彦 氏:
杏林大学形成外科教授 大浦 紀彦 氏

「足病患者は多くの診療科で治療を必要とするため診療の実態が把握できていなかった。そのため危機意識が広がらず、医療制度の遅れにもつながっていたのだと思う。今後、日本全体の足病を取り巻く問題点を浮き彫りにできるよう、レジストリー調査を地方にも広げ継続していきたい」

東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科 富田 益臣 氏
(現:下北沢病院糖尿病センター長):

東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科 富田 益臣 氏

「本研究は、これからの足病治療における診療の標準化へ向けた第一歩である。本レジストリーで得られた具体的な数字を医療者や患者へ提示することで、診療の標準化が実現できる可能性がある。このレジストリーを足がかりとして様々なエビデンスの発信を行っていきたい」   

西東京徳洲会病院形成外科 木下 幹雄 氏:
西東京徳洲会病院形成外科 木下 幹雄 氏

下肢救済の診療においては、循環器内科・糖尿病代謝内科・形成外科・心臓血管外科を含め多くの診療科が独自性を発揮しながら診療にあたっている。しかし、多くの施設で治療のスタンダードといったものが個別に存在しており、全体を見渡した「標準」といったものがなかった。今回のレジストリーで東京における下肢救済の現状が浮き彫りにできた意義は大きい。今後、この取り組みをより掘り下げて、治療の標準化へつなげて行きたいと考えている。

関連情報

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[dm-rg.net]

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