【第50回糖尿病学の進歩レポート】 食事療法の最新情報 個別対応した食事指導がポイント

2016.02.26
第50回糖尿病学の進歩
 2月19日~20日に東京国際フォーラムで開催された第50回糖尿病学の進歩(世話人:内潟安子・東京女子医科大学糖尿病センターセンター長)で、シンポジウム「食事療法の最新情報」が開催された。
 栄養指導ではこれまで「外来栄養食事指導料」は130点だったが、2016年度診療報酬改正において「初回 260点」「2回目以降 200点」に引き上げられる。これにより多様な疾患の患者に対して食事を通じた適切な栄養管理を推進することが期待されている。

食事療法に実施可能な個別対応が求められている

 帝塚山学院大学の津田謹輔氏は「食事療法に関する最近の動向」と題し講演した。糖尿病治療のガイドラインは変化しており、食事療法にも変化がみられる。肥満患者では摂取エネルギーを減らして体重減少をはかることが推奨されるなど変わらない部分があるものの、全ての糖尿病患者に対する三大栄養素の適正比率はないとも指摘されており、個々の患者の食習慣や代謝目標をもとに、実施可能な個別対応の食事が求められるようになってきた。

 一方、日本人の食事内容の変化と食べ方にも変化が起きている。外食の機会が増え、加工・調味食品の消費増加、食事にかける時間の短縮など食の外部化、簡便化が進行している。「食生活は国や地域の影響を強く受けており、個人だけでなく国や地域での対策も必要になっている」と津田氏は言う。

 また、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬などの登場は食事療法にも大きく影響しており、「薬が進歩しているのだから薬物療法だけでHbA1c7%をめざしてはいけないのか」と問う患者も少なくないという。

 「糖尿病の薬物療法は1型、2型ともに食事療法と運動療法と合わせて行うのが基本。両方を励行しない患者が薬物療法を開始すると、目標の血糖コントロールに到達できないケースが多い」と津田氏は指摘。たとえHbA1cやGAが改善したとしても、過食や運動不足が持続している例に薬剤療法で血糖を下げても、余分な糖質や脂質が体脂肪として蓄積され、次第に体重増加をきたすことになるという。

糖質制限食は糖尿病の食事療法として認められるか

 北里大学北里研究所病院糖尿病センターの山田悟氏は「これからの食事療法に必須な糖質制限食についての知識」と題し講演。糖尿病治療食は従来、肥満解消のためのエネルギー制限および動脈硬化症予防のための脂質制限が適切と考えられていた。しかし、日本人の糖尿病患者の発症時の平均BMIをみると肥満は少なく、脂質制限は血中中性脂肪や脂質プロファイルを改善せず、動脈硬化症のリスクを低下させないことが明らかになっているという。

 山田氏は40~65歳でBMI27以上の人、2型糖尿病の人、もしくは冠動脈疾患の人を対象に実施されたランダム比較試験「DIRECT」を紹介。「低脂肪・カロリー制限食」「地中海式カロリー制限食」「糖質制限食」の3群に分け、2年間の介入の結果、糖質制限食は減量、脂質改善、HbA1c改善効果がもっとも大きいことが明らかにされ(N Engl J Med 2008; 359: 229-241)、その減量、脂質改善効果はさらに4年間の観察期間を経て計6年経過しても維持されることも報告された(N Engl J Med 2012; 367: 1373-1374)。

 米国糖尿病学会はすでに糖質制限食を第一選択肢のひとつとして示している(Diabetes Care 2013, 36, 3821-3842)。一方で、「総エネルギー摂取量を制限せずに、炭水化物のみを極端に制限して減量を図ることは、長期的な食事療法としての遵守性や安全性など重要な点についてこれを担保するエビデンスが不足している」(日本糖尿病学会)という指摘がある。

 山田氏は「すでに、低糖質パン、低糖質麺、低精質スイーツ、低糖質飲料の普及が進むなど、社会は糖質制限食を受容している。いつ認めるか、どのようなかたちで認めるかについての議論が必要」との見解を示した。

地中海スコアを日本の食生活に適合させた「地中海式健康和食スコア」

 練馬総合病院糖尿病センターの柳川達生氏は「地中海式食事療法をいかした食事指導・評価ツールの開発」と題し講演。地中海式食事の特徴は、全粒粉のシリアルやパン、パスタ、あるいは芋類などを主食とし、野菜や果物、豆類、ナッツ類などの食品を多くとり、オリーブオイルを主たる脂肪源とすること。低脂肪の乳製品や魚介類、鶏肉を週に数回とり、赤身の肉は少量にとどめ、グラス1~2杯のワインを飲むスタイルが基本となる。

 日本食は赤身の肉の摂取が少なく、野菜、豆、ゴマや魚を多くとるのが特徴で、地中海食の食材と共通するものが多いが、油の摂取が大きく異なる。地中海食では1日の摂取エネルギーに占める脂肪の割合は30~40%と和食より多く、またオリーブオイルの割合が高く飽和脂肪酸が低い。

 柳川氏らは、地中海式食事様式をいかした食事指導・評価ツール「地中海スコア」を提唱。豆、魚、野菜などの食材ごとに摂取量に応じた点数の基準を決め、合計したスコアが高いほど地中海式食事療法を遵守していると評価する。スコアが高いほどと糖尿病、がん、心血管疾患発症などを抑制させることが報告されている。

 柳川氏は「地中海スコア」を参考に、日本の食生活に適した食事評価ツール「地中海式健康和食スコア」を提案している。日本食の基本を保持し「野菜や果物を十分に食べる」「主食は精製度の低い穀類にする」「さらなる減塩に努める」といった要素を加えると、地中海式食事を超える健康食になる可能性があるという。

●CKDの進展抑制のための蛋白質制限は推奨されるか?

 京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の福井道明氏は「腎症に対する蛋白質制限の効果と限界」と題し講演。糖尿病を含む慢性腎疾患(CKD)の治療の1つに蛋白制限食をメインとした食事療法があるが、そのメリット、デメリットについては種々の意見があり確立されていない。

 蛋白制限食のメリットとしては蛋白代謝の最終産物である尿毒症物質の体内蓄積およびこれに伴う症状の軽減、酸、リン酸塩の蓄積是正、蛋白尿の減少などが報告されている。しかし、体蛋白減少や栄養低下、QOL低下などデメリットも報告され、さらにはCKD進展の遅延効果については認めるものと認めないとする両意見がみられる。糖尿病腎症に対する蛋白制限食についての報告は少なく、糖尿病腎症に対する蛋白制限食の方法や効果についてはさらなる検討が必要だ。

 「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」では、CKDの進展を抑制するためにの蛋白質制限について、「画一的な指導は不適切であり、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断して、蛋白質制限を指導することを推奨するとされた(グレードB)。CKDステージG3:0.8~1.0g/kg 標準体重、G4:0.6~0.8 g/kg 標準体重の蛋白質制限を基本として、CIレベルで推奨することとした。

 「実際にはネフローゼ症候群を呈するような症例に対しては、0.5g/kg 標準体重/日未満という非常に厳しい低蛋白質食を指導すると腎機能の改善、蛋白尿の減少がみられる。蛋白質制限食は病期の進んだ2型糖尿病腎症には有用」と福井氏は指摘する。メタ解析においても蛋白質制限することでアルブミン尿の減少が報告されており、制限量には議論があるが、腎保護効果はあるという。

第50回糖尿病学の進歩

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