日米の運動ガイドラインの違い 米国は脈拍測定の重要性をより強調

2014.03.24
 日本の「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」は、「プラス10で健康寿命を延ばしましょう」とあるように、運動時間・頻度を強調し運動を奨励しているが、米国のガイドラインは、「運動強度」まで強調して指示し、脈拍測定を奨励している点が特徴的だ。

 ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの有酸素運動によって、肥満や高血圧、高血糖、インスリン抵抗性などを改善できる。運動の効果を引き上げるために、脈拍測定が有効だ。

「運動時の脈拍測定」は運動ガイドラインでは常識

 安全かつ効果的な運動をするためには、運動強度の設定が大切だ。減量を目的にする場合は、脂肪の利用率の良い「低~中強度の運動」が効果的で、血圧が高めの人が運動する場合は、血圧が上がり過ぎない程度の強さの運動が、安全に行なうための条件になる。運動中の脈拍数を把握すると、安全かつ効果的に運動できるようになる。

 運動中に脈拍数(心拍数)をはかることは、世界の運動ガイドラインでは標準になっている。米国疾病予防管理センター(CDC)が公表している運動ガイドラインでは、運動中に脈拍数をはかることが勧められている。

 ガイドラインでは、全ての成人で運動不足が好ましくないと強調し、運動量を増やす工夫をすることを勧めている。具体的に、(1)「中強度の適度な運動を週に150分」、あるいは(2)「強めの運動を週に75分」行うことが目標だ。(1)と(2)を組み合わせると、効率良く運動ができる。

 米国糖尿病学会(ADA)、米国心臓学会(AHA)、英国糖尿病学会(Diabetes UK)、英国民保健サービス(NHS)などは、いずれも運動の強度をはかる手段として、脈拍の測定を推奨している。

 こうした動きをうけ、米国では「脈拍数をはかりながら運動を行うのが効果的」と広く認知されている。多くの種類が脈拍計が販売されており、通販サイトの健康関連グッズの上位を占めている。

脈拍数から適正な運動強度が分かる

 中高年に勧められる運動の強度は、「おしゃべりしながら続けられる」程度だ。適正な運動強度は、脈拍数をもとにして判断できる。

 安静時の心拍数から最大心拍数に至るまでの50~70%程度の脈拍を維持しながら運動を続けるのが効果的な運動と定められている。

 運動中に脈拍数をはかることで、何が分かるのだろうか?

 運動すると脈拍数が上昇することはよく知られている。もちろん増加の程度は人それぞれ違うが、脈拍数の上昇が運動強度の上昇に比例することが分かっている。

 運動中の脈拍数が分かれば運動の強度が分かることになり、反対に、指定された強さの運動をしたい場合には、その脈拍数を目安に運動をすれば達成できるようになる。

運動をすれば血糖値は下がる
 運動をすると、血糖値が高くなっている人では、血糖値が低下し、インスリンの働きが改善する。糖尿病の人が運動をすると、実際に血糖値がどれだけ下がるかを実験してみた。運動をすることで、確実に血糖値が下がることが明らかになった。

手首に巻くだけではかれる測定計も登場

 最近は腕時計型の脈拍測定計が出回っており、ウォーキング中の脈拍を把握できるようになっている。

 腕時計型には大きく2種類のタイプがあり、1つは、センサーを胸部に装着し脈拍数を機器で確認するもの、もう1つは、手首に巻くだけで脈拍測定ができるリスト型脈拍計だ。

 リスト型脈拍計は、脈拍センサーの技術を進化させることで、手首のみで脈拍測定ができるようになっている。

 運動中は交感神経の働きが高まり、脈拍数が上昇する。運動の強度があまり高くなりすぎると、心臓に対する負担が高まり、特に心臓病などの持病がある人では、心血管系の事故の危険も高まるおそれがある。脈拍測定を行うことは、無理せず運動を長続きさせるためにも有効だ。

 ただ、脈拍数が必ずしも全てではないことも注意する必要がある。例えば、病気の治療薬の中には、「脈拍数の上昇を抑える」ものがある。この場合は、脈拍数を運動強度の指標として用いることができない。特に、中高齢者では服薬している人は多いので注意が必要となる。

 運動を安全かつ効果的に行なうために、脈拍計はとても有用なツールだ。ただし、本当に有用なものにするためには、まず、どれくらいの強さの運動が適正なのかを知ることも大切だ。「運動負荷テスト」などを行い、主治医に運動処方を作成してもらうといっそう効果的だ。

運動処方:どんな運動を、どれくらい
 運動療法を安全・効果的に行うために、医師によるメディカルチェックを実施し、体の状態を十分に把握される。その結果をふまえて運動処方が作られる。
運動療法の情報ファイル
運動療法の実際をあらゆる角度から紹介しているページです。脈拍測定の具体的な方法についても解説しています。

Target Heart Rate and Estimated Maximum Heart Rate(米国疾病予防管理センター)

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料