肥満による糖尿病の発症メカニズムを解明 肝臓内のプロスタシン低下が原因

2014.03.20
 飽食や肥満により肝臓内のタンパク質分解酵素「プロスタシン」が減少して慢性的な炎症が起こり、糖尿病へ進行する発症メカニズムが明らかになった。糖尿病を早期発見するための新たな診断法や、新たな治療法の開発につながる成果だ。

 熊本大学大学院生命科学研究部・腎臓内科学分野の北村健一郎准教授らの研究チームは、飽食・肥満により糖尿病を発症する際、肝臓内で「プロスタシン」の発現量が低下し、肝臓に慢性炎症が生じることで糖尿病へ進展するというメカニズムを明らかにした。これまで予防が中心だったメタボリックシンドロームに対する、新しい治療薬や新規バイオマーカーの開発に向けた重要な手掛かりとなる成果だ。

 研究チームは、飽食・肥満による糖尿病発症の原因として、内臓脂肪ではなく肝臓に着目した。高脂肪食を与えた肥満糖尿病マウスの肝臓において、「セリンプロテアーゼ」の一種である「プロスタシン」と呼ばれるタンパク質分解酵素の発現量が低下しており、その発現を通常レベルに戻すことにより、糖尿病を改善できることを発見した。さらに肝臓のプロスタシン遺伝子を欠損させたマウスは糖尿病を発症することから、肝臓のプロスタシンは糖尿病の発症を阻止する重要な働きがあることを解明した。

 「リポ多糖」(LPS)は、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であり、人や動物細胞に対して毒素として作用する。また、「パルミチン酸」(PA)は飽和脂肪酸で過剰に摂取するとコレステロール値が上昇し、動脈硬化等の原因となる。

 研究チームは、プロスタシンはLPSやPAの受容体である「TLR4」(Toll様受容体4)を切断することで、肝臓を過度な炎症反応から守る役割を担っていることを証明した。肥満状態ではこの防御メカニズムが低下することによって肝臓に慢性炎症が生じ、糖尿病へ進展していくという。

 さらに、健康診断受診者153人の血中プロスタシン濃度を測定したところ、プロスタシン濃度が低い人は、肥満(BMI)やインスリン抵抗性(HOMA-IR)が高度であることを確かめた。血中プロスタシン濃度が糖尿病を早期に発見するためのバイオマーカーとして有効である可能性が示唆された。
 北村准教授らの研究チームは以前から腎臓におけるプロスタシンの役割について研究を行っており、今回は肝臓におけるプロスタシンの役割について着目し、糖尿病発症阻止に寄与するという新たな生理機能の解明に成功した。

 この研究は、同大学代謝内科学分野の荒木栄一教授らとの共同研究で、文部科学省・日本学術振興会の科学研究費補助金による支援を受けて行われた。研究成果は英科学誌「Nature Communications」オンライン版に発表された。

熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学分野

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