膵β細胞のミトコンドリア機能低下が糖尿病の原因 新たな治療の開発へ

2014.02.14
 京都府立医科大学の研究チームは、糖尿病の発症に関与する遺伝子がミトコンドリアの機能低下を引き起こすメカニズムをマウス実験で明らかにした。

 糖尿病の原因のひとつは、膵臓のβ細胞の働きが低下し、血糖値を下げるインスリンが出なくなること。年をとると発症しやすくなり、インスリンを出すためのエネルギーを作る「ミトコンドリア」の機能低下が関わっていることが知られているが、詳しいメカニズムは良く分かっていなかった。

 研究チームは、細胞を老化させる遺伝子「p53」に着目。糖尿病にしたマウスのβ細胞を観察した。

今回の研究の成果は、主に次の3点――(1)膵β細胞において老化因子p53はマイトファジーを抑制する、(2)糖尿病の膵β細胞では細胞質に老化因子p53が増加する、(3)糖尿病においてマイトファジーは膵臟β細胞のインスリン分泌能を改善する。

マイトファジーによるミトコンドリアの機能維持が新たな治療標的となる可能性

 細胞内小器官のひとつである「ミトコンドリア」は生体活動に不可欠なエネルギー産生を担い、β細胞のインスリン分泌においても重要な役割を果たしている。

 このミトコンドリアの機能を維持するため、機能不全に陥ったミトコンドリアをオートファジーで分解処理する「マイトファジー」というメカニズムが働いている。

 研究チームは過去の研究で、がんの抑制や老化に関係する遺伝子「p53」が過剰に増加し、マイトファジーを抑制し、ミトコンドリアの機能低下を引き起こしていることを発見した。

 今回の研究では、糖尿病モデルマウスや膵β細胞株を用いた実験で、マイトファジーが減少し、ミトコンドリアのエネルギー産生能が低下し、インスリンが作られなくなることが糖尿病の原因であることを突き止めた。

 p53を欠失したマウスや膵β細胞株ではマイトファジーは維持されミトコンドリア機能も保たれ、p53阻害薬の投与でも同様の結果が認められた。そのメカニズムとして、p53は細胞質でマイトファジーの誘導因子である「パーキン」と結合することで、マイトファジーを阻害していることが判明した。

 糖尿病マウスを使った実験では、p53を欠失したマウスや、p53阻害薬を投与されたマウスで、インスリン分泌能や血糖値の改善が認められた。しかし、パーキンが欠失すると、この改善効果は消失した。

 また、膵β細胞株を用いた実験でも、p53の発現抑制にてインスリン分泌能が改善したが、パーキンや他のマイトファジー関連因子の発現を抑制すると改善効果は消失した。

 さらに、パーキンの過剰発現によるマイトファジー活性化でも同様にインスリン分泌能の改善が認められた。これらの結果から、p53阻害によるマイトファジーは膵β細胞のインスリン分泌能を回復し、糖尿病が改善することが確認された。

 今回の研究により、膵β細胞のミトコンドリアの機能低下の一因が明らかになり、細胞に備わっているミトコンドリアの機能するマイトファジーがうまく働くなるメカニズムが解明された。

 今後、p53を阻害したり、マイトファジーを活性化する薬剤を開発すると、糖尿病の新たな治療戦略となるという。

 研究は、京都府立医科大学の星野温研修員、的場聖明助教らによるもので、「米国科学アカデミー紀要」のオンライン速報版に発表された。

京都府立医科大学

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