糖尿病合併例の降圧目標は変わらず 「高血圧治療ガイドライン2014」最終案

2013.11.11
 日本高血圧学会は、「高血圧治療ガイドライン2014」(JSH2014、作成委員長:島本和明氏・札幌医科大学学長)の最終案を第36回総会(10月24日~26日、大阪市)で公表した。ガイドライン改訂は2009年以来5年ぶり。さらに議論を深め、2014年4月1日に公開する予定だ。

糖尿病合併高血圧の降圧目標値は「130/80mmHg未満」から変わらず

 今回の改訂で注目されたポイントのひとつは降圧目標値だ。最終案ではカテゴリーごとの降圧目標が変更された。JSH2009で「糖尿病、CKD」とされたカテゴリーは、「糖尿病」と「CKD(蛋白尿陽性)」の2つに分類された。

 降圧目標値は、糖尿病合併高血圧では診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満とし、CKD陽性患者では診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満(目安)とした。

 最近では欧米で糖尿病合併高血圧の降圧目標値を130/80mmHgから緩和する動きがある。契機となったのは、2010年に発表された「ACOORD-BP試験」(N Engl J Med. 2010; 362: 1575-1585)。4,734例の高血圧患者のサブグループ解析で、厳格治療群と標準治療群の間で主要評価項目の発生率に有意差がみられなかった。

 これを受けて、今年1月の米国糖尿病学会(ADA)の診療ガイドラインでは、糖尿病合併高血圧患者の降圧目標値を140/80mmHgに引き上げた。また欧州糖尿病学会(EASD)も、治療開始血圧と降圧目標を140mmHg(拡張期血圧)に引き上げた。

 改訂が予定されている欧州高血圧学会/欧州心臓病学会(ESH/ESC)ガイドラインでも降圧目標値の緩和に動くとみられており、降圧目標を緩和する動きは広がっている。日本高血圧学会が公開した改定案へのパブリックコメントでも、降圧目標値についてのコメントは多かった。

 これに関して島本氏は「心筋梗塞の多い欧米では、厳格な降圧により心筋梗塞リスクの有意な低下が示されなかったことが重視された。しかし、日本では脳卒中発症リスクにも注目すべきで、ACOORD-BP試験でも脳卒中は強化療法群で少なく、120mmHg未満まで下げれば脳卒中リスクは約40%減るとの見方ができる。日本の実情に合った降圧目標を構築したい」との考えを示した。

 また、これまで糖尿病やCKD合併例などでリスクが明記されていた「正常高値血圧」(130~139/85~89mmHg)についても、リスク層別化の表から削除し、リスク層別化や初診時高血圧管理計画は、正常高値を含まない広義の正常血圧を「正常域血圧」に変更する。

家庭血圧の重要性を強調 家庭血圧の臨床的価値は高い

 もうひとつ注目されたポイントは、血圧測定に関する項目だ。血圧値については、家庭血圧の重要性を強調。家庭血圧の臨床的価値が高いことを実証した日本のエビデンスが蓄積されていることや、高血圧患者の77%は血圧計を保有しており、家庭血圧測定が普及していることなどが背景にある。

 JSH2009では家庭血圧を重視する姿勢が打ち出され、測定方法別の高血圧基準や、家庭血圧測定を用いた暫定的な降圧目標が設けられていたが、JSH2014では「診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」とした。欧米のガイドラインでは、家庭血圧を診察室血圧よりも優先している例がなく、日本のJSH2014は欧米を先行するかたちになる。

 家庭血圧の測定方法についても、より詳しく記載される。家庭血圧の1機会の測定回数は「1機会、原則2回の測定とし、その平均をその機会の血圧値として用いる」と明記。加えて「1回のみの測定の場合には、1回のみの血圧値を、3回測定した場合には3回の平均を用いることも可」と補足している。測定のタイミングについても、「朝、晩(就寝前)」と明確に示す。

 家庭血圧に関しては、2012年に東北大学が家庭用血圧計を用いた多施設共同研究「HOMED-BP」の結果を発表している(Hypertens Res. 2012; 35(11): 1102-1110)。同試験では、低~中等度リスクの未治療高血圧患者約3,500例を対象に、家庭血圧値に応じた治療アルゴリズムで示された薬物療法を実施し、約5年間の心血管疾患リスクを評価した。薬物療法開始後の収縮期血圧値を130mmHg程度まで降圧した場合に、5年間の心血管疾患リスクがもっとも低くなるなどの結果が示された。

第36回日本高血圧学会総会
日本高血圧学会

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