日本人患者で欧米型肥満が増加 BMI23以上からスクリーニングを開始

2013.08.08
 初診時で肥満が認められる2型糖尿病患者が日本で増えており、若い世代ほどその傾向が強まっていることが、20年にわたる研究であきらかになった。アジア糖尿病学会(AASD)の機関誌「Journal of Diabetes Investigation」オンライン版に5月15日付けで、朝日生命成人病研究所の櫛山暁史氏らが発表した。「日本人の肥満の増加に対応するために、糖尿病のスクリーニング検査は"BMI23以上"から開始するのが適当だろう」と指摘している。

 研究チームは、朝日生命成人病研究所附属病院で2型糖尿病患者と診断された患者について、肥満と血糖コントロール状態の関連を調査した。同病院は東京丸の内近辺の勤務者を中心に、都内全域から年間300人程度の2型糖尿病患者を診断している。

 診療時期によって対象者をグループA(25年前、1986~1987年、平均年齢52.2歳、n=453)、グループB(15年前、1996~1997年、同52.6歳、n=547)、グループC(5年前、2006~2008年、同52.7歳、n=443)の3グループに分けた。それぞれの患者の体格指数(BMI)、未治療の期間、HbA1c(NGSP)などを比較した。

 初診時の平均HbA1c値は、グループAは7.3±1.7%、グループBは7.6±1.7%、グループCは8.3±2.2%で、経年でHbA1c値が上昇していることが示された。HbA1cが8.4%以上の比率も、グループAは30.2%、グループBは34.7%、グループCは49.9%と経年で増えている。BMI25以上の肥満の割合も、グループAは24.7%、グループBは32.0%、グループCは43.1%と、近年になり際立って増えている。

 従来から、日本人は遺伝的には、欧米人に比べてインスリン分泌能が低く、痩せていても2型糖尿病を発症しやすいとされているが、最近では欧米型の肥満が増えている。国民健康・栄養調査では、日本人の体型は世代別にみて、若年女性を除くと経年的に肥満が増加している傾向が示された。男性の肥満(BMI25以上)の比率は1977年には15.6%だったが、2007年には30.4%と倍増した。

 BMI25以上の肥満の割合は、25年前のグループAでは国民健康・栄養調査と同程度であり、肥満2型糖尿病は多くなく、インスリン分泌低下が主因だったと考えられる。世代が進むにつれ肥満は増えており、15年前のグループBでは特に40歳未満でBMI25を超える肥満者が75%を超え、5年前のグループCでは40~49歳でも肥満者が75%を超えた。「肥満2型糖尿病は少なくとも15年前から比較的若い世代で増えはじめ、現在では50歳未満で大勢を占めるに至っている」と、櫛山氏は指摘している。

 BMIごとのHbA1cの分布をみると、グループAではBMIとHbA1cに相関がみられないが、グループCではBMI23以上の患者で血糖コントロールが不良な例が顕著に増えている。年代別にみると、若年における血糖コントロール不良は15年前から出現し、5年前には顕著になった。いずれの時点でも最初の異常指摘から診断までの期間は短いほどHbA1cは低かった。

 未治療の期間は、グループAで6.5±7.7年、グループBで6.5±6.2年、グループCで5.3±6.0年となり、経年的に短くなっており、特にBMI25以上の肥満の症例でこの傾向が強い。また、最初の異常指摘から診断までの期間は短いほどHbA1cは低い傾向があり、高血糖による症状(口渇、多飲、多尿症、全身倦怠感、体重減)の罹患率についても同様の傾向がみられるという。

 さらに、初診時のHbA1c高値(8%以上)を評価の指標としてロジスティック回帰分析を行ったところ、性別、年齢、最初の異常指摘から診断に要した期間、症状の有無を調整した後でも、ここ5年ではBMIが少しでも高い(23以上)と初診時のHbA1c値が高くなることがあきらかになった。HbA1c8.4%以上を示す相対リスクは、グループCではBMIが23である場合にオッズ比(OR)が2.09(95% CI:1.26-3.49、P=0.005)となった。

 「日本人の肥満はBMIの基準は25以上であり、欧米(30以上)に比べると低いものの、日本人の2型糖尿病は、若年側から欧米型肥満糖尿病へのシフトが始まっている」と、櫛山氏は指摘している。その患者層では最初の血糖高値の指摘から診断までの期間がやや短いにもかかわらず、血糖コントロールがすでに悪くなった状態で診断されている。「健診における糖尿病のスクリーニングについて、BMI23以上でスクリーニングを行う、あるいは、新しい若年肥満2型糖尿病の病態についての観察や特別な介入を行うなどの対策が必要なことを示唆している」と述べている。

Journal of Diabetes Investigation

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