チアゾリジン薬による浮腫発症のメカニズムを解明 東大病院

2011.05.12
 東京大学医学部附属病院の藤田敏郎教授と関常司講師らは、チアゾリジン誘導体で起きる副作用のメカニズムを解明した。浮腫を抑える新しい治療薬の開発につながる成果。米医学誌「Cell Metabolism」オンライン版に発表された。

 チアゾリジン薬が体液貯留を促し、足などがむくむ副作用が起こることがある。研究チームは、これまで知られていた遠位尿細管でのナトリウム再吸収とは異なるメカニズムを解明した。

チアゾリジンが近位尿細管でナトリウム吸収を亢進

 チアゾリジン薬にはインスリンの作用を強めて血糖値を下げる効果がある。チアゾリジン誘導体が細胞核内の受容体「PPARγ」に結合し、代謝に関連する遺伝子の転写を調節しインスリン作用を増強させる。肥満をともなう2型糖尿病ではインスリン抵抗性を示すことが多く、そうした場合にチアゾリジン薬は特に大きな血糖低下作用を発揮する。

 チアゾリジン薬の薬剤の有用性に関するエビデンスは多いが、一方で約10%の症例で体液貯留を伴う浮腫が起こることが知られており、また体液貯留によって心不全が悪化することもあるため、副作用が起きた場合の対応や、心機能が著しく低下している場合には使用できない等の留意点がある。

 研究グループが副作用の仕組みを解明したのは、ピオグリタゾン(商品名:アクトス)。ラットやウサギの近位尿細管の細胞にチアゾリジン誘導体を作用させたところ、数分以内にナトリウムを再吸収する輸送体「NHE3」「NBCe1」の機能が亢進し、ナトリウムと水分を吸収する量が増えていた。チアゾリジン誘導体が「PPARγ」などの細胞内情報伝達物質に結合し吸収を強めていた。

 同様の現象はヒトの近位尿細管でも確認された。薬が作用するとすぐに吸収が強まるため、浮腫が起きたとみられる。一方、PPARγが発現していないマウスの細胞では薬を作用させても吸収は強まらなかった。Srcを発現していない細胞でも同様の結果になった。

 これまでチアゾリジン誘導体が遠位尿細管のナトリウム輸送を亢進させ腎臓の吸収を強めることは分かっており、数時間程度かけてゆっくりと吸収すると考えられていた。今回の研究により近位尿細管のナトリウム輸送を亢進させることもあきらかになった。

 研究者らは「より慎重な浮腫の早期対策が必要であることが分かった。また今回の発見で、PPARγが遺伝子転写調節を介さないシグナルを伝達することがあきらかになった。浮腫を起こさない新しい糖尿病薬の開発につながると期待できる」と述べている。

東京大学医学部附属病院 2011年4月26日
Thiazolidinediones Enhance Sodium-Coupled Bicarbonate Absorption from Renal Proximal Tubules via PPAγ-Dependent Nongenomic Signaling
Cell Metabolism, Volume 13, Issue 5, 550-561, 4 May 2011

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